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猫塚ルイ

カウンターの向こうでは、湊が「なーんだ、彩美ちゃん、ナオミさんのこと怖がってないんだ。じゃあ僕がナオミさんに毎日どれだけ扱かれてるかも聞いてよー!」と、大袈裟に泣き真似をして笑いを誘っている。
「なんだ、ケンジ。今年は随分女子にモテてるみたいじゃねぇか」
「理人さん。ヤキモチですか?」
「なっ! ち、違う! ざけんなっ! 俺は別に……っ!!」
理人は予想外のカウンターを喰らったように、端正な顔をこれでもかと赤く染めて、持っていたグラスをガタりと揺らした。
「そんなに大声出さなくたって聞こえてるわよ。もう、理人ってば、寂しいなら寂しいって言いなさいよ」
「はっ!? ざけんなクソ! 俺はただ、いつも野郎ばかりのこの店が、今年は妙に華やかだから言っただけだ!」
必死にそっぽを向いて残りの酒をあおる理人の姿に、瀬名が「素直じゃないなぁ」とクスクス笑い、ナオミも「素直じゃないのはいつもの事でしょ」と揶揄いながら新しいグラスと交換する。
「ねぇ、安住さん。このお店っていつもこんな感じなの? すっごく楽しいところね?」
みんなのやり取りを遠巻きに見ていた穂乃果に彩美がそっと耳打ちしてくる。
「そうでしょ? みんな、いい人たちばっかりで……。私が直樹に浮気されて落ち込んでた時に、ナオ……健司さんが助けてくれたの」
「えっ? 浮気? 嘘……っそうだったの?」
「うん……。あの人、里奈と浮気してたんだ。それで、別れようって何度も言ってたのにあんな嫌がらせを……」
「えぇっ!? あの斎藤里奈と……!? ちょっと待って、じゃああの噂って……逆恨みもいいとこじゃない!」
彩美は驚愕のあまり、持っていたポテトを皿に落として絶句した。病院内での陰湿な噂話の裏に、そんな身勝手で醜悪な真実が隠されていたとは思いもしなかったのだ。
「最低……。本当にどこまで腐ってるのよ、あの二人。安住さん、よく耐えたね……よく考えたら、最初っから話してくれようとしてたよね? ごめんね。気付いてあげられなくって」
彩美の怒りと、自分を労ってくれる心からの言葉に、穂乃果は胸が締め付けられるような、けれど救われるような思いで小さく頷いた。
「うん……。でもね、私が一番つらくて、誰も信じられなくなっていた時に、ナ……、健司さんが手を差し伸べてくれたの。お店の皆さんも、私を温かく迎え入れてくれて……。だから、私、この場所が本当に大好きなんだ」
穂乃果がそう言って愛おしそうに店内を見渡すと、彩美もまた、カウンターの奥で楽しそうに笑うナオミや湊、そして不器用そうにそっぽを向いている理人たちを見つめ、深く納得したように息を吐いた。
「なるほどね……。織田さんが安住さんのヒーローだったわけだ。そりゃあ、そんな素敵な人、好きになっちゃうのも当然だよ」
彩美のからかうような、でも温かい眼差しに、穂乃果は少し頬を染めながらも、今度ははっきりと嬉しそうに微笑んだ。
そんな二人の会話が一段落したのを見計らったように、ナオミが「ほらほら、お喋りばっかりしてないで、お酒が進んでないわよ?」と、新しいドリンクを二人の前にすっと差し出した。
「わっ、ナオミさん気が利いてるー♪ めっちゃイケメンだし気配り上手だし、トークも抜群。最高じゃない?」
彩美は新しく差し出されたカクテルを受け取り、嬉しそうに目を輝かせた。
「そう言ってもらえると、夜な夜なシェーカーを振ってる甲斐があるわ。さあ、遠慮しないでたくさん飲んでね」と、ナオミも悪戯っぽく微笑んで、また忙しそうに次の注文へと戻っていく。
コメント
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うわぁ、このエピソードめちゃくちゃ良かった…!理人が彩美に「ヤキモチですか?」って言われて真っ赤になるシーン、不器用なキャラが一気に愛おしくなった。それに、穂乃果が彩美に自分の過去を打ち明ける場面、胸が詰まるようだったよ。浮気の真相と、それでも「この場所が大好き」って言える強さ、そして彩美の「よく耐えたね」っていう一言がすごく沁みた。ナオミさんの気配りの効いたカクテルと、温かい店の空気感が最高だった。続きが気になる!