――靴箱で
「ふぅ、はぁ…(早く帰ろう…)」
すぐ近くに“実らぬ恋”の存在がある事が嫌で、思わず靴箱に逃げ出してきてしまった。
でも、早く帰れば楽になるよね…
私は靴を履いて、とっとと帰ろうとした。
だけど、思わず手が止まってしまった。
私の靴箱の中には……
「手、紙……(これは… ももも、もしや……!?)」
人生初のラブレターが、2年生初日に届くだと!?
そんな事ある!? いや、こんな私に!? 入れ間違いかな…?
――いやてか、そもそもラブレターか分かんないし!
開けてみなきゃ…
私は、人が来なさそうな、木の裏に隠れて手紙を開けることにした。
でも、その前にもっと嬉しい事が発覚した…!
「裏には… あっ!!!」
そう、手紙の裏面に「霜月 七葉さんへ」と書いてある事に気づいてしまったのだ…!
これは… 完全にラブレターっ!!
「(待って、心の準備が…っ!)」
ここに来てラブレターだなんて、心構えが出来てないんだけどぉっ!!!
……でも、誰から来た手紙なのか、凄く気になる。
今すぐ見よう…!
私は、静かに木の裏に移動して、手紙の封筒を開けた。
真っ白の紙で、ラブレターでは無い可能性もある事も考えた。
「…(開けるぞ…っ!!)」
私は、そっと手紙を開いた。
そこには、こんな事が書かれていた。
〜七葉さんへ〜
こんにちは。七葉さんに伝えたい事があって、この手紙を書きました。
僕は、七葉さんの事が好きです。
なので、付き合ってもらえませんか。
その笑顔や優しさが好きです。
これから幸せに出来る自信があります。
お願いします。返事の手紙、待っています。
――水田 仁
「えっ!ちょ、え?!」
私にこの手紙を書いてくれたのは、同学年の 水田仁(みずた じん)くんだった。
仁くんは、学年一、いや学校一イケメンと言われている男子で、常に女の子の取り合いになっている人。
爽やかで、顔も整っていて… 性格も、凄く優しい。
こんな完璧な人いない と、学校中で噂されている、あの仁くん…
――から手紙が、しかも私に!?
私の事好きなんて、考えられない……
……でも最近、よく目が合うなぁ… って思ってたんだよね…
もしかして、そのせいかな…。
「っ……(返事は…)」
普通の女子なら、『はい、もちろん!』と答えるだろうな。
だけど、私には出来なかった。
健人くんが好きだから…っ!
私は、仁くんの事は好きじゃない。
もちろん良い人だとは分かってるけど、何をしても好きにはなれない。
やっぱり、健人くんが好き…
私、まだ心の奥で燻っている感じがして……。
整理も出来てないし…
だから、他の人と付き合うのは無し って事にしたんだ。
彼氏が欲しいのはそうだけど、本当に愛せる人以外とは付き合いたくない。
今の所、本当に愛せるのは…
健人くん、ただ一人だけどね…
「(…)」
でも、せっかくの初ラブレターを貰ったんだから、家で大事に保管しておかないと。
返事は、『いいえ』に決まりだ。
私は、心残すことは無いさ。と、何度も自分に言い聞かせた。
「健人くんじゃなきゃ、ね…」
______「…なな、は…………」
・・・
――家に帰る途中
私の家に帰る道には、杉の並木道がある。
ここを通ると遠回りになるけど、ここが落ち着くから あえて通ることにしていた。
――最初にここを通ったのは、たれる汗が眩しかった初夏だった。
その時には健人くんとは付き合っていて、一緒にここを楽しく歩いたのを 未だに覚えている。
真緑の葉っぱが美しく、いかにも「夏」を感じさせる道だ。
だけど爽やかで涼しく、静けさに満ちていた。
そんな空気を感じながら、私と健人くんはゆっくり歩いていたんだ。
___懐かしいな、あの頃。
私達、まだまともに話せもしていなかったっけ。
上手く言葉に出来ず、笑い合った事もあった。
でも、互いに信じ合い、愛し合っていた…
―――あの頃に戻れたら、どれだけ幸せだろう…?
失恋したら、一生振り向いちゃダメなのに…
あの時の幸せが忘れられなくて、今もまだ体が求め続けている。
永久に戻ることのない、幸せを…
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四話〜六話は明日公開します‼️‼️ 現在七話を執筆中です💪