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(アルベドの奇行っって……ねえ……)
あまりのパワーワードに聞き返したくなった。その気持ちを、またまた抑えて、私はノチェと向かい合う。
アルベドが、変わっている人っていうことは、大体の人が知っているだろうし、でも、怖い人だけど、悪い人ではないみたいな、絶妙なのがアルベド。本当に根は優しいし、素直じゃないし、たまにツンデレなんだけど……そんなアルベドが、メイドから奇行……なんて言われたということは、それはもう取り乱しに取り乱していたんじゃないかと。どんな風かは分からないけれど。
聞きたいような、聞きたくないような、話半分に、私はノチェを見る。黒曜石の瞳は、つやつやとしていて、瞳孔は白い。珍しい瞳だなあ、と気を紛らわしながらも、彼に聞くはずだったことを、聞ける良いきかいだと、気持ちを持ち直す。
本当だったら、アルベドの事は、アルベドに聞きたいんだけど、彼が頑にそれを拒んだから、こうして、客観的な話を聞くことになってしまった訳だけど。でも、アルベドが普段周りの人からどんな風に見られているのかというのは気になるところだった。
「アルベド様が、おかしくなられたのはつい最近のことです。たしか、聖女様が召喚される前の日……だったんじゃないでしょうか」
「聖女……」
それは、世界がまき戻ってすぐ、ということだろうか。まき戻ったことを感じたアルベドは、それに絶望したとか?
(アルベドが絶望ってあまりにも言葉が似合わなすぎる……)
まあ、これは、私の意見として、時期はきっとあっているだろう。世界がまき戻ったことを、アルベドは感じた、そして、記憶を保持していた。だから、他とずれが出てしまうのは仕方ないことだし、それが、奇行、としてみられるのも無理はない。だって、皆は世界が戻ったことを知らないのだから。
「アルベド様のお部屋からもの凄い音が聞え、私達含め、使用人数名がアルベド様の部屋に行きました。アルベド様の部屋は、頑丈な結界魔法が張られているのですが、あんな風に音が鳴るのは初めてのことでしたので。襲撃に遭ったとしても、アルベド様は、基本無事なのですが」
「アルベドの寝室……まあ、確かに、心配になるのは分かるかも」
寝床で殺されかけて、トラウマを抱えているアルベドだし、それを使用人たちは知っているのだろう。アルベドの部屋に凄い結界が張ってあるのは知っているし、何なら、公爵家も大きな結界で覆われている。これが全てアルベドの魔力で作られたものかどうかは知らないけれど、そんな厳重なアルベドの部屋からもの凄い音がしたら、緊急事態だと思うだろう。
それでそれで? と、私がノチェに話を続けるよう急かせば、ノチェは再び口を開く。
「現場に着くと既に、アルベド様のお部屋の扉は壊されていて、でも、こちら側から破った様子はなかったので、多分アルベド様が自分で……私達も、はじめは信じられなくて、何が起ったのか、把握できませんでした。執事長のファナーリク様が、アルベド様に近付いたのですが、その気で近付くことも出来ず。誰からみても、アルベド様が取り乱し、そして、怒りと悲しみで暴走しているのが分かりました」
「な、に……それ」
あったときは、清々しくて、感情の起伏が感じられない、いつもと変わらないアルベドだった。けれど、ノチェの話が嘘ではなく、ちゃんとした事実で、アルベドが、世界が戻った直後、そんな状態だったと。新しい情報を手に入れて、私も混乱した。だって、アルベドが、というのがどうしても頭の先に来てしまう。
「私達も、手につかない状況だったので。かといって、ラヴァイン様を呼ぶことも出来ず」
「ラヴィ……」
この時期の二人は、かなり荒れていたし、仲が悪かったことだろう。それに、使用人の言葉で、ラヴァインが動くとも考えられなかった。それでも、ラヴァインを呼ばなければならない、止められない状況だったと考える、かなり深刻だったように思える。
記憶を保持したまま、戻れば皆そうなのかも知れないけれど。
「そ、それでどうしたの?」
「アルベド様は暫く立って、正気を取り戻したようで、今はいつか、と聞いてきました。私達は、すぐにその日の曜日と時間と伝えたのですが、アルベド様は、狂ったように笑い初めて」
と、ノチェは、思い出すのも辛い、といわんばかりに視線を下に落とした。まあ、まき戻ってすぐに聞くのはそれだろう。私だったそうすると思う。アルベドは、一人でそれに耐えて……考えるだけでも苦しかった。
でも、考えれば、アルベドは、きっとあの場にいなかっただろう。だから、私が死んだ所なんてみることはなかったはずなのだ。直接みて、それに絶望していたといえば、リースだと思う。自分が断罪される所なんて、私だって見て欲しくないし、他の人のをみるとしても、みたくない。
(だったら、アルベドは何で?)
あの場にいなかったよね? と、疑問が浮かんでくる。でも、まき戻ったということは、私が死んだことで。それを自覚したからこそ、そうなったのかと。
「私達は本当に困惑しました。でも、すぐに元のアルベド様に戻って、聖女が現われる、と予言のようなことをいって。それから数日して、聖女様が召喚されたわけですが」
「はあ……」
「アルベド様は、未来が見えていると言わんばかりに、丸くなったといいますか、でも、凄く寂しそうなかおをしていました。いつもは、あんな顔みせないのに」
「そう……」
「もともと、一人で行動するのがお好きだったのですが、私達の前に姿を現すこともなくなって。本当に、一人にして大丈夫かと、使用人一同集まって会議をして」
「……」
「それで、とある人物を探したい、と言うようになったんです」
ノチェは、私を見た。もしかして、今、私のことをいわれているのかな? とか思ってすすっと視線が横にずれる。そんなことないよね、あるわけがない。
私は死んだって、そうアルベドは認識しているはずなのに、探したいなんていうはずがないのに。謎が謎を呼ぶばかりだった。それでも、彼が諦めずに私を探してくれたからこそ、今こうしてここにいて。
「その、さがしびとはみつかったの?」
「はい」
「だ、誰?」
「私の目の前にいます。多分」
「多分って」
ノチェは、何処か自信なさそうにいう。多分、そうなんだろうなって思うけれど、ノチェは何処か疑うような目を私に向けてきていた。
「アルベド様は、時折、エトワール、と呟いていましたが、それは、あの聖女様の名前で。でも、アルベド様はあの聖女様には興味がないようでして」
「そ、そう……」
「貴方が、そのアルベド様が探していたというエトワール様なのですか?」
と、ノチェは、さらに疑惑の目を向けてくる。どう説明すればいいのか、また、説明して良いものなのか迷った。ノチェや、使用人たちは、私のことをそれはもう怪しんでいるだろう。だって、私は平民ってことで通しているし、アルベドが狂った原因でもあるし。主の奇行の正体、原因である私について知りたいと思うのは普通の感情だと。
けれど、私も、皆のことを信じ切れていないから、どうしても喋ろうという気になれなかった。
「る、ノチェには私のことどんな風に見えているの?」
「……」
「私が、アルベドを狂わした原因だと」
ノチェは何も言わなかった。ただ私をじっと見つめて、何かを考えるように、その瞳を真っ直ぐと。
アルベドが私のことを詳しくいうわけがないし、かといって、この世界がまき戻っているということも、皆に伝える気はないようで。私も、アルベドと一緒で何を言ってもその事実を知っているのは自分たちだけだと分かっているからこそ……
(味方がいない……っていうことなのかな)
信用出来るけど、信用出来ない、そんな矛盾を私達は抱えているんじゃないかと。
アルベドがそこまで私のことを思っていてくれたことに、まだ色々腑に落ちないというか、彼が何故、記憶を保持したままなのか、教えてくれないから分からないけれど、それでもいつかきなくちゃとおもっている。
それまでは、私はアルベドを狂わした女として、彼女たちにみられることにする。
「……そうかもしれない。私は、アルベドを狂わしたのかも。それでも、ノチェは、私のこと、アルベドの指示だからって仕えてくれるの?」
自分で勝ち取った信頼関係でなければ、私も安心できない。そんな、意地悪な質問を私はノチェに投げかけた。