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山縣 真宵(ヤマガタ マヨイ)
私は、生きるためだった。私が死なないためだったの。罪じゃない。
もう、ずいぶん前の話になる。 私の家は、田舎の一軒家だった。 両親は私が小学生の頃に蒸発して、残されたのは祖父母との3人暮らし。
母は「すぐ戻るからね」とだけ言って駅で手を振り、それっきり。 父は…名前すら思い出せない。
おじいちゃんとおばあちゃんは優しかった。
おばあちゃんはいつもお味噌汁に玉ねぎを入れてくれたし、 おじいちゃんは夜にラジオを聞きながら、私の髪をなでてくれた。
そんなある日の 朝、部屋に行くと、ふたりとも冷たくなっていた。 おじいちゃんは、倒れたまま虚空を見つめていて。 おばあちゃんは、トイレの前で手すりをつかんだまま。
その日、気温は30度を超えていて、 腐敗は、すぐに始まった。
私は、電話をかける手を止めた。
もう少しだけ。
あと一ヶ月だけ。
この家から追い出されないために。
もう少しだけ。
押し入れに布団で巻いた2人を防臭剤と一緒に詰めた。
それから私は、ふたりを生きていることにして、年金を貰い続けた。
市役所から来た書類には「ご本人様の署名」が必要と書かれていた。 私は震える手で、祖父の名前を何度も練習して書いた。もらえるお金は、もらわないと。
電柱の近くにお花を添えれば、お菓子が手に入った。隣人さんの家に行けば、おじさんと一緒にお風呂に入れた。そうやって生きてきた。
最初は、それだけだった。
でも、隠し続けるには匂いが邪魔だった。
腐臭と虫が、夏の家中に広がっていった。
私は洗濯用の漂白剤をばら撒いて、殺虫剤を吹きまくった。それでも、さすがに私は耐えきれなかった。夜に▓▓▓▓▓▓▓を持ち出して、近くの田んぼの奥深くに埋めた。隣人さんは優しいから、きっと気づいても隠してくれると思った。
私は被害者なの。お母さんもお父さんもいなくて、おじいちゃんもおばあちゃんも死んじゃったの。学校でもいじめられて、可哀想だったの。年金がなかったら、生きていけなかった。
ねぇ。おじいちゃん、おばあちゃん。お墓、入りたかったよね…ごめんね。
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