💚
翔太に遅れること10分ほど。楽屋を出ようとした俺に、涼太が声を掛けた。
「阿部。ちょっと」
「?」
「翔太の人柄は俺が保証する」
「ああ、うん…」
「お疲れ」
訊き返す間も勇気もなく、俺は翔太の後を追いかける。約束しているとはいえ、なんだか足下がふわふわして落ち着かない。自分は冷静なタイプだと思っていたけど、こういう緊張するイベントの前はからきしだめみたいだ。照が俺をガードするように、腰をぽんと叩くと、小さい声で「行って来い」と優しく後押ししてくれた。
◆◇◆◇
2025.11.5 23時
日付が変わるちょうど一時間前。
俺たちは、とある建物の、屋上にいた。
夢が叶って、二人一緒に夜空を眺めている。
冬の、乾燥しているが、澄み渡った空気の中では、煌めく星々が鮮明に見える。そして、その中心には、何よりも美しく大きな月がぽっかりと浮かんでいる。大袈裟じゃなく、今まで見たどの夜空よりも、今夜の空は、特別なものに感じられた。
「…誘ってくれて、ありがとな」
「こっちこそ来てくれてありがとう。なんか、ごめん…」
とにもかくにも公開デートみたいになってしまったことが何よりも気まずい。
ついさっきまで、俺たちはグループで仕事をしていた。今日一日、メッセージを読んだと思しきメンバーたちが何か言いたそうに俺たちを見ていたけど、照がずっとそばについていてくれてたおかげで、からかわれることも、質問されることもなかった。照には感謝しかない。
「ふはっ…」
すると、翔太が急に笑い出した。
「え?」
わけがわからず、思わず翔太をまじまじと見てしまう。
「だって阿部ちゃん、めちゃめちゃカッコ悪いじゃん…」
「はは…///うん…俺、カッコ悪いよな」
思わず落ち込みそうになる俺を、翔太がフォローしてくれる。
「うっそ。嬉しかったよ、俺は。誕生日いつもあんまりきちんと祝えないからさ」
屋上に設置された薄ぼんやりとした照明と、いつもよりくっきりとした月明かりに照らされて、俺を見る翔太の目は、いつもの刺々しさがなくて…なんだか、とっても優しかった。
こんな表情で俺を見る翔太は初めてで…そしてとても
「綺麗だ」
「ばっ///それ何なんだよ…この前から」
「うん。でも本当に綺麗だよ。翔太」
赤くなった耳たぶに触れる。
過剰な接触を嫌がるはずの翔太は、避けることなく俺を見ている。身長差で少し上目遣いになった顔が可愛い。戸惑いながらも次の言葉を辛抱強く待つ風情に、俺の胸は早鐘を打ち始めた。
「あのさ。真面目な話を聞いてもらっても…いい?」
「………」
翔太は口を挟まず、無言で頷く。
どちらかと言うとオフの時の翔太は物静かだ。 今も、でしゃばることなく、流れを俺に任せている。
俺にとってメンバー同士でこんな時間を送るのは初めての体験だった。こんな、少し照れくさいような、甘やかな時間を。
「俺さ、毎年、翔太と誕生日を過ごしたい」
翔太が首を傾げる。話の先を促すように。
「翔太と二人だけで、一緒にこの日を過ごしたい」
翔太の瞳の中が揺れる。呻くように、吐息が漏れた。
「なんで…?」
「好きだから」
「……はっ?///」
「翔太のこと、好きになっちゃったから。一緒にいたいんだ。これから。ずっと」
まだ真意を図りかねている翔太の手を取る。
「翔太。好きです。俺と付き合ってください」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!