俺の最強宣言が気に入らないらしい獣人。
「それはおかしな話だ。未だ我を打ち倒したものはいないのだがな」
獅子のこれは挑戦状だ。最強の俺様に対する叛逆とも呼べる行為。ならば見せてやる、俺の! 自慢の! きんにっくをおおおっ!
俺は高く上げた両腕を曲げ下ろし、全身に力を漲らせる。全力の、筋肉の躍動!
本気の肉体に耐えきれず、バツンっと上半身の服がはじけとぶ。見たか、恐れ、おののくがいい。
けれども俺が期待していた獣人の反応よりも先に鳴り響く警報があった。
「へへへ、変態さんだあぁっ!」
すでに店員の拘束から解放されていた少女に叫ばれた。
無愛想な店員に案内されて店の隣にある練習場へと移動した。
あの少女はまた捨てられてきたそうだ。
「では改めて俺の強さを見せてやろう!」
そうして練習場にあった手頃な岩を持ち上げて見せる。
「ふんぬっ!」
どうだ、見たか! そこらのやつではピクリとも動かせそうにない岩はこの俺をしてギリギリ持ち上げられるくらいの重さだったが……ふっ、驚いて声も出ないか。
そうして力を見せつけたはずのおれが2人を見ると、どうもおかしい。獣人も店員もなんだか興味無さそうにしている。
「ただの力自慢か。それで最強を語るとは」
薄ら笑いを浮かべてレオと名乗った獣人がそう挑発する。
俺は思わず岩を落として獅子の獣人ににじり寄る。
「不服か⁉︎」
見上げて睨みつけてやる。もちろん筋肉のアピールも忘れない。むきむきっ。
「最強とは闘いの末に示されるもの、ただの力自慢など、児戯に等しかろう」
「言うにことかいて、ガキの遊びだとっ! 面白い、負け知らずの獣人さまに俺が最強だと教えてやるっ!」
熱い闘志が俺の筋肉を震わせる。むきっ。
獣人は肩の高さに掌を構えて、俺を待つ。
乗らない選択はない。獣人と両手を掴み合い、力を込める。
「おおおっ!」
向こうもそれに応えて力が入るのがわかる。
徐々に均衡が崩れ、押されてさがったのは──俺だった。
「ふんっ。準備運動はいいだろう、お互い素手だ。かかってくるがいい」
ヤツの得意とする勝負で勝ったからか、レオは得意げに鼻を鳴らして俺を誘う。
そうまでされて引き下がることなどない。ファイティングポーズを取ったレオの誘いは明らかで、俺も躊躇うことなどなく突っ込む。
鍛錬には必要ないメニューだとして試したこともないけれど、この俺がやればきっとあの岩だって砕くかもしれない。俺を、侮ったこと──後悔してももう遅い。
そうして繰り出した俺の右のパンチをヤツは躱し、代わりに腹に拳を打ち付けてきた。
昼飯が喉まで返ってきて、無理やり飲み込む。
「くっそ!」
そのくらいでは俺も倒れるわけにいかない。踏みとどまり、放った左の蹴りは確かにヤツの右脚に当たったが微動だにせず、お返しとばかりに同じようにして蹴られた俺は膝を折る。
いや、同じではない。鋭さが全く、違う。
ならばと、身をかがめてタックルし、ヤツの背に腕を巻き付けて、締め上げる。背骨を折り砕くつもりで。
「もう品切れか、つまらん」
まるで太い柱のような獣人に、俺の締め上げは全く手応えはなかった。どんなに力を込めても──必死にすがるような俺の背中をレオが肘で叩きつけ、あっけなく地面に沈んでしまった。
「あんたは一体……俺は何が足りないのか」
そう問いかけてみた。完膚なきまでに負けても俺は強さを諦められない。
ふむ、と獣人はどこか満足そうな声をだして、
「ダリル、構わんのだろう」
俺は首だけを回してダリルと呼ばれた男を見る。
そのダリルという名の店員は俺の落とした岩を持ち上げて元のところに優しく置いていた。