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私はユウキくんと手を組んで歩いていた。
キララ:「もう、ユウキくんたら〜w」
ユウキ:「なんだよ〜w」
キララ:「なんだよ〜じゃないw!」
ユウキ:「俺ちょいとトイレ行って来るわ!」
キララ:「分かった!じゃあここで待っとくね!」
ユウキくんがトイレに入って私が待っていると、
大学の最寄り駅。夕暮れの雑踏の中で、私はその「声」を聞いた。
「おい、キララ! 相変わらず危なっかしい歩き方してんな。よそ見してっと柱にぶつかぞ」
心臓が跳ね上がった。2年という月日を一瞬で飛び越えて、私の記憶の扉がこじ開けられる。振り返ると、そこには少し背が伸びて、体つきも逞しくなったミナトが、ニカと笑って立っていた。
キララ:「(目を見開いて)……え。ミナト? なんでここに……」
ミナト:「(不敵に笑って、一歩近づく)なんだよ、幽霊でも見たような顔しやがって。俺の顔、忘れちまったか?」
キララ:「(動揺しながらも、自然と言葉が出る)忘れるわけないでしょ! でも、ミナトはもっと遠くの大学に行ったんじゃ……」
ミナト:「(私の頭をポンと叩いて)今日は遠征でこっちに来てんだよ。つーか、お前こそ少しは大人っぽくなったと思ったら、中身は全然変わらねーな。ほら、バッグのチャック開いてんぞ」
ミナトの話し方は、2年前よりずっと親しげで、まるで昨日も会っていたかのように自然だった。不器用だけど真っ直ぐな、私を包み込むような空気。
キララ:「(思わず笑みがこぼれて)もう、うるさいなぁ! ミナトは相変わらずデリカシーがないんだから」
ミナト:「ははっ、それが俺だろ? ……でも、元気そうで安心したわ。お前、ちゃんと笑えてるか心配だったんだぞ」
二人の間に流れる、懐かしくて温かい空気。それを切り裂くように、冷たくて鋭い声が響いた。
ユウキ:「……キララ。誰だい、その男は」
後ろから現れたユウキくんの目は、今まで見たことがないほど冷たかった。彼は私の肩を、跡が残るくらいに強く抱き寄せた。
ユウキ:「(ミナトを睨みつけて)僕の彼女に、気安く触らないでくれるかな。……行こう、キララ。君には、こんな泥臭い男との時間は必要ない」
ユウキくんは強引に私の手を引き、私を駅の外へと連れ出した。
「またな、キララ! 絶対また会おうぜ!」というミナトの声を背中に聞きながら、私はユウキくんに引きずられるようにしてマンションへ帰った。
部屋に入った瞬間、ユウキくんはバタンと激しくドアを閉めて、鍵をかけた。
ユウキ:「(私の両肩を強く掴んで、叫ぶように)あいつ、誰だよ! なんであんなに仲良さそうなんだよ! 君の10年間なんて、僕が全部消して、最高の思い出で上書きしたはずだろ!?」
キララ:「(震える声で)……離して、ユウキくん。ミナトは、ただの幼馴染で……」
ユウキ:「嘘だ! 君の目は、あいつを見た瞬間に輝いたんだ! 僕は、君のために高級なレストランも、パリへの旅行も、完璧な未来も全部用意した! なのに……あんなガサツで泥だらけの男に、一瞬で負けるっていうのか!?」
ユウキくんの顔は嫉妬で歪み、私の知っている「完璧な恋人」の面影はどこにもなかった。その瞬間、私の頭の中に、図書室で一緒に笑い合ったこと、ラムネを分け合ったこと、そして、私が本当に欲しかったのは『完璧な世界』ではなく、『ミナトがいる世界』だったんだという答えが、鮮烈に浮かび上がった。
キララ:「(ユウキくんの手を強く振り払って)……わかった。わかっちゃったの。……ユウキくん、私、やっぱりあなたとは一緒にいられない。あなたの愛は、私を縛るだけの綺麗な檻だった」
ユウキ:「(絶句して、その場に崩れ落ちる)……な、何を言ってるの? 僕は君を愛してるんだ! キララ、行かないでくれ! 僕は君がいなきゃ、何も……!」
ユウキくんは床に手をついて、子供のように泣き崩れた。
でも、今の私には、その涙さえも重荷にしか感じられなかった。
キララ:「(玄関のドアを開けて)……今までありがとう。でも、私はもう、嘘をつきたくない」
私は、プレゼントでもらった高いアクセサリーを机に置き、そのまま夜の街へ飛び出した。
冷たい風が頬を打つ。でも、心は驚くほど軽かった。
私はもう二度と、あの完璧な檻には戻らない。ミナトが待つ、あの不器用で真っ直ぐな世界へ、今度こそ自分の足で歩き出すんだ。
つづく