テラーノベル
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「神谷さん」
ドアの向こうから男の声がする。
「少し、お話ししませんか」
俺は美咲を見る。
美咲は黙って首を横に振った。
開けるな。
そういうことだ。
俺は椅子から立ち上がり、ドアから少し離れた。
「誰ですか」
「それは、ドアを開けてもらえれば分かります」
「答えになってない」
沈黙。
男は少し笑った。
「あなたは慎重ですね」
その声。
どこかで聞いたことがある。
俺は記憶を探る。
「……お前」
美咲が俺の袖をつかむ。
「知ってるの?」
「いや」
でも、聞いたことがある。
どこで?
「神谷さん」
男が言う。
「あなたは今、とても危険なものを持っています」
俺はファイルを見る。
やっぱり知っている。
「それを渡してください」
「嫌だ」
即答だった。
男の声が変わった。
「なら、あなたの大切な人が危険な目に遭います」
心臓が跳ねる。
母さん。
「……母さんに何かしたのか」
「まだ何もしていません」
まだ。
その言葉で頭に血が上る。
「ふざけるな!」
「声を荒げても状況は変わりません」
男は冷静だった。
「あなたがファイルを渡せば、全て終わります」
美咲が俺の耳元で囁く。
「嘘」
「この人、組織の人間じゃない」
俺は驚いて美咲を見る。
「なんで分かる?」
「言葉遣いが違う」
美咲はドアを見つめる。
「組織の人間なら、もっと直接的に脅す」
「でもこの人は……」
「交渉してる」
俺は考える。
確かにそうだ。
組織なら、俺たちを見つけた時点で連れ出せばいい。
それなのに、なぜ話をする?
「あなたは組織じゃない」
俺が言う。
ドアの向こうが静かになる。
「……どうしてそう思うんです?」
「俺たちを捕まえたいなら、もう入ってくればいい」
「でもあなたは、ずっと話してる」
少し間があった。
そして。
男が笑った。
「正解です」
美咲の顔が険しくなる。
「私は組織の人間ではありません」
「じゃあ誰だ」
「警察です」
空気が止まった。
「……警察?」
俺は思わず聞き返す。
「はい」
「正確には、警察庁の捜査官です」
男は続ける。
「あなたたちを逮捕しに来たわけではありません」
「組織を追っています」
俺はファイルを見る。
「だったら、なぜ俺たちを脅した」
「脅してはいません」
「母さんのことを言っただろ」
「事実を伝えただけです」
その言葉に、美咲が反応する。
「あなた、母親の病院を知ってるの?」
沈黙。
男は答えなかった。
「知ってるんだね」
美咲の声が低くなる。
「組織を追ってるなら、どうしてそこまで知ってるの?」
男は初めて黙り込んだ。
その沈黙が気になった。
「あなたは何者なんですか」
俺が聞く。
すると。
男はドア越しに言った。
「私は、あなたたちより先に組織を追っていた人間です」
「そして――」
「あなたたちがまだ知らないことを一つだけ教えます」
俺は黙って聞く。
「この組織には、警察の協力者がいます」
「……え?」
美咲が固まる。
男は続けた。
「だから、警察へ行っても安全とは限りません」
「誰を信用するか」
「よく考えてください」
その瞬間。
廊下から別の声が聞こえた。
「おい!」
「そこで何してる!」
店員の声。
男が小さく舌打ちした。
「時間がありません」
ドアの下から、何かが滑り込んでくる。
小さな封筒。
「これは?」
「Rから預かったものです」
俺が拾い上げた瞬間。
男の足音が遠ざかっていく。
「待て!」
ドアを開ける。
でも。
廊下には誰もいない。
俺は慌てて封筒を見る。
表には、俺の名前。
**神谷悠真**
裏には赤い文字。
**『警察を信じるな』**
俺は封筒を開ける。
中から一枚の写真が出てきた。
そこに写っていたのは――
警察署の入口。
そして。
その前に立つ、一人の男。
顔は見えない。
でも。
その男が持っているスマホの画面だけは、はっきり見えた。
画面に表示されているのは。
**参加者番号31**
俺は写真を握りしめた。
「……31番が」
まだ生きている。
(第三十九話へ続く)
コメント
1件
うわ、今回はめっちゃ緊迫してましたね…! ドア越しのやり取りだけでこんなにドキドキするってすごい。美咲の「言葉遣いが違う」って気づき、かっこよかったです。それで警察って名乗ったのに、最後の「警察を信じるな」と31番の写真…もう何を信じたらいいのか分かんないけど、続きが気になりすぎます! るしゅさんの引きのうまさに毎回やられます😊
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