『佐野さん、迎え来れませんか』
『ごめん。やっぱいい』
『自分で帰れる』
『佐野さんはゆっくり休んでください』
深夜23時過ぎ。仁人から送られてきた連絡。
普段はまとめて連絡してくる仁人が、分けながら連打で連絡し来るときは酔ってる証拠。
『迎え行くから位置情報だけ送っとけ』
『ごめん』
たまたま、大阪からこっちに帰ってきてたタイミング。
俺も仁人に会いたかったしちょうどいいやと思いながら、仁人から送られてきた位置情報を確認しながら車のキーを握り家を出る。
仁人から送られてきた場所は居酒屋の通りから1本外れた公園だった。
「仁人君大丈夫?」
「いや、はい。ほんと、大丈夫なんで」
「大丈夫そうには見えないよ?」
誰かと喋る仁人の声が公園の隅のベンチから聞こえてくる。
「僕が送ってあげるよ?なんなら、どっかで休んでく?」
「いや、ほんと、まじで…ちょっと離れてもらって…」
「じんと」
ベンチの端で抱え込まれるように背中をさすられている仁人に呼び掛ける。
「佐野さんっ!」
切羽詰まったように立ち上がった仁人が俺に駆け寄ってこようとしてつまずいてこけそうになるのを抱きとめる。
「うわっ……ごめん」
抱きとめたときに感じた仁人以外の匂いに気持ち悪くなる。
「さ、佐野君?!え、なんで君がこんなところに…?」
「仁人、迎えに来たんで。連れて帰りますね」
「迎えにって……え、仁人君、飲み会の時、佐野君の頑張りは無駄にしたくない、迷惑かけたくないみたいなこと言ってたのにこれってどうなの?ねぇ、佐野君も迷惑でしょ?」
なんだ。こいつ。単純に仁人がそう思ってくれていたことを知れたのは嬉しいし、別に頼られるのが迷惑なわけがない。
仁人が唯一頼れるのが俺だけで、俺が頼るのも仁人だけで。唯一無二の関係性。それに不満なんて一切ない。
が、単純にこいつがいけ好かない。ちょっときつく言い返してやろうかと一歩踏み出すと服の裾を捕まれる。
「別に、迷惑だったら来なかっただけですし。じゃ、お疲れ様です」
「お疲れ様です…」
仁人と頭を軽く下げてその場を後にする。
危なかった。危うく仁人が我慢したのを水の泡にするところだった。
「あいつ誰?」
仁人を車に乗せながら聞く。
「知らない。行ったら居た」
仁人は気持ち悪いのか助手席の背を倒し、腕で顔を覆う。
「なん、そんな飲んだん?」
「佐野さんが思ってるよりは飲んでないと思う…わからん」
仁人が自分の器量をわからず飲むわけがないとわかってるから、なんか盛られたか。
「わかった。もういいわ。寝とけ」
「…ん、ごめん」
仁人が動くたびに香る仁人以外の匂いが癪に障る。
「仁人、ついた。起きろ」
「っん、…佐野さん家…ですか…」
「お前、そんまんま帰したらやばそーだし」
「なにからなにまですいませんね」
申し訳なさそうな仁人に単純に心配だからと素直に言えない俺。
「いいから行くぞ」と言いながら仁人に肩を貸し、家に入る。
玄関につくと仁人を置き去りにし、洗面所に向かい洗濯籠を持って戻る。
「仁人、脱げ」
「は?いや、無理無理無理っ!絶対嫌ですっ!」
全力拒否。
「わーった。上だけでいいから脱げ。んで、速攻風呂行け。沸いてっから。脱いだ服は洗濯機ん中入れろ」
「…お風呂、朝一じゃ駄目…?」
酒が入ってることもふまえると朝にしてやりたい気持ちはあるが、今の仁人をそのまま家に入れたくない気持ちのがでかい。
「無理、今すぐ入れ。俺も一緒に入っから」
「えっ!無理無理無理っ!一人で入りますっ!」
「酒入ってるやつ一人で風呂に入らせるわけねぇし、全部俺がやるから仁人はただ風呂に浸かってろ」
「ほんとに言ってますぅ?」
「風呂入らんなら仁人の今日の寝床ここな?」
下を指さしながらいい放つ。さすがにここまで言って駄々をこねるやつじゃない。
「げんかんっ!…わかりました。入りますよ。一人で」
「無理。全部俺がやるから」
「ひとりでぇ!ひとりで入るからぁ!」と叫ぶ仁人を無視して上着とTシャツを脱がし、上裸にし風呂場に投げ込む。
仁人と自分の着替え、水を準備して風呂に入る。
「のぼせてね?」
「のぼせてません。大丈夫ですぅ」
不貞腐れた仁人が湯船に浸かってるのを見ながら、自分の頭と体、顔を先に洗っていく。
「次、仁人」
「勇斗が入ってくる前に自分で全部洗いました」
自分で洗ったから平気だと湯船から出る気のない仁人の頭を引き寄せ匂いを嗅ぐ。
俺の家のシャンプーの匂いの奥から微かに香るあいつの匂いにイラつく。
「駄目だ。仁人」
「佐野さん、しつこいですよ」
余裕のないところなんて見せたくない。
でも、実際余裕なんて1㎜だってない。
最近は東京と大阪で離れてることの方が多いし、一緒に入れる時間も少ない。
ファンミやYouTubeの撮影、久々に会えれば嬉しくって感情駄々洩れで「最近さのじん多くない?」と呟かれることも。
それなのに、こんなに近くにいるのに匂いだけで仁人が遠くに感じることが辛い。
「仁人、頼む」
絶対に仁人が断れない。俺からの懇願。
「…あ”ぁ”!もう、わかりました!好きにしてくださいっ!」
浴室の椅子に勢いよく腰掛ける仁人。
ほんとに俺はずるくて、仁人は従順だ。
仁人の頭を丁寧に洗い、二人で湯船に浸かり再度仁人の頭の匂いを嗅ぐ。
もう、あいつの匂いはしない。
「さっきから、なにそれ?」
「あ?いいだろ。なんでも」
お前は知らなくていいよ。
風呂も上がり、二人で寝支度を整え寝室に向かう。
「今日はなんか、すいませんでした。迷惑ばっかりかけて」
「あ?言ったろ?迷惑だったら行かねぇし、こんなことまでしねぇ。ってわかってだろ」
「ん」
納得し、眠りにつこうとした仁人の顔を見てやりたかったことを思い出しベッドから起きだし、棚の中の箱を取り出す。
「仁人、ちょ、そこ立て」
なにがなんだかわかってない仁人を立たせて、箱を開封し自分の手首につけ、それを仁人の耳の付け根、手首に広げていく。
「なに…?香水?」
「そ、仁人これやるわ。んで、俺がいない現場はこれつけろ。いいな?約束」
「え?なんで、ちょ、はやと、寝んなって」
満足して一人布団に入り眠りにつく。
仁人が入ってくるのが匂いでわかる。
さらに抱きしめると強く香る。
俺と同じ匂いを身にまとった仁人とか最高じゃね?
END
コメント
9件
うわぁ〜最高すぎる
吉田さんに対しての重~い愛の佐野さんがすきなので、とても好みなお話しでした。 毎回、読み終えると多幸感に包まれます。あと、おまけ付きなのもお得な感じで好きです☺️ 次回も楽しみにしています。
佐野さんのマーキング重くて好きすぎます😭💓 忙しくてあまり開けていなかった間に夏祭りのお話公開されていたなんて、、😿😿また公開する予定ないですか...?😭