テラーノベル
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戦況は、大いに悪化した。
国を倒し吸収したライヒタングルは、元気が出た様子で暴れ回っていた。特にベネルクスやポーランド、ユーゴスラビア、二重帝国への攻撃行動が酷く、彼らを守るのに精一杯でライヒタングルを狙っている余裕はなかった。
「お兄様、いくら戦闘のためとはいえ飲みすぎでは?」
ハイネケンでべろべろに酔ったオランダを見て、ルクセンブルクが心配そうに言った。しかし当のオランダは彼女の声を聞き入れることもせず、ハンマーを振り回し続けている。確かに攻撃力としては上がっているものの、制御があまり効いていない。
「いーや、だいじょぶ。たぶん」
その時オランダは呂律が回らないほどの状態だった。
「流石に酔いすぎ。逆に戦いに支障出るというか出てるから、ある程度アルコールが抜けるまで基地にいて。ルクセンブルク、送ってもらえるかな」
スイスがやれやれと言いたげな顔をしていた。ルクセンブルクは頼みを快諾し、オランダのところへと駆け出した。だが、彼女の手が彼の肩に触れる直前__
「お兄様?」
ライタングルの槍斧がオランダの腕を貫いた。
「間に合いませんでしたか……」
弓を構えたままのイギリスが、苦々しげに呟いた。
「うわぁっ、何?!」
「い、痛いっ」
続けてポーランド=リトアニアとフランスまで負傷した。二国ともオランダほどの重傷ではなかったが、重要な戦力である第二列の国と回復担当が戦闘困難な状況に陥るなんて酷な状況はない。それに……
「大丈夫、か?」
腕を抑えてしゃがみこんでいるフランスに駆けよる。
「見ればわかるでしょ、そんなわけないじゃん」
言っていることの割に合わないほど口調が弱々しかった。
「第二列と回復担当国に負傷を確認、全軍撒退。リヒテンシュタイン、ベッドを三台用意しておいてくれ」
スイスがトランシーバーで連絡を入れていたが、誰にもそんなことに気が付く余裕はなかった。俺が大声を出して知らせてようやく、皆が意識を取り戻したようにスイスの家へと向かい始めた。
「えっと、負傷したのはオランダさんとフランスさんとポーランド=リトアニアさんで、オランダさんが重傷、と」
リヒテンシュタインが看護師のように三国の状態を確認し、手帳に記録していった。俺はソファに沈み込み、自らの手に視線を落とす。
俺は、この戦いで何か皆の役に立ったか?
一国を死なせ、その上三国が負傷、うち一国は重傷。あと少し先の未来を見通し、少し速く動けていたら、こんなことにはならなかったはずなのに。
「というか、どうして俺たちはここまでして戦っているんだ……?」
「決まってるでしょ、ドイツを守るため」
フランスがベッドから体を起こして言った。どうやら声に出ていたらしい。
「ライヒタングルは将来生まれる『かもしれない』存在、だから本来実体は持たないはず。それなのに今は、彼自身の手で武器を握って振り回し、僕らに実害をもたらしている。これが何を意味するか、ドイツ、賢い君なら分かるだろう。フランスの言ったことと、僕の言ったこと、繋げて考えてごらん」
スイスが俺のほうを振り返って話に加わった。その間いの答えは、俺や他の国が長年抱え続けてきた恐れだった。
「俺を……乗っ取りにきた?」
二国とも真剣な表情で頷いた。
「乗っ取られたら今のドイツの人格はおろか、見た目まで変わってしまうかもしれない。だからこうなってでも守るしかないんだ」
フランスの目はぱっちりと開いていた。その赤と青の瞳に見つめられ、俺は決めた。
皆がこれだけ俺のことを想ってくれている。期待に応えないわけにはいかない。
「明日、また戦いに行こう。もちろんフランスたちは休んでいてくれ」
するとスイスが少し柔らかい表情になった。
「うん、そうこなくっちゃ。今日は無事な国も含めてゆっくり休んでね」
翌朝、天気は昨日と打って変わって清々しい晴れだった。
「オランダ、フランス、ポーリトはここで休養していて。リヒテンシュタインは何かあったらトランシーバーで連絡ね。あと、何を言われても戦場には行かせないこと」
「わかりました」
スイスが全員の顔を見回しながら言った。
実際勝てるかどうかなんて誰にもわからない。けれど俺は恩返しという意味でも、戦わなければいけない。
そんな幻想は、戦場に向かってすぐに打ち砕かれた。
「クソッ!!」
ライヒタングルはチェーンソーを巧みに掻い潜って、槍斧を突き刺そうとしてくる。攻撃をしている暇を与えない、プロの戦闘だった。
「Du solltest jetzt sterben(これで終わりだ)」
俺は死を覚悟して目を瞑った。
次に響いたのは、銃声だった。
フィンランドやエストニアのものではなかった。
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続きが気になりすぎる…