「何か飲む?」
「ううん、大丈夫。いきなり押しかけちゃったのに、そこまでして貰うのが申し訳ない気がして」
「いいよ、楓音だし。オレンジジュースとお茶ぐらいしかないけど……あと、水道水か」
「えーじゃあ、オレンジジュース」
「オッケー」
そうして俺はコップを二つ用意して、オレンジジュースを注ぐ。
そうして、それをテーブルに置いて、俺は椅子に座ると、楓音も俺の対面に座って、いただきますと言ってから、コップを手に取った。
そして、それを口に含んでから、ふぅと息を吐く。少し汗で濡れた頬が妙に色っぽかった。どことなく、昨日の自分と重なって、少しだけもやっとしたのは顔に出さないでおこうと、俺はグッとオレンジジュースを飲む。
「星埜くん何かあった?」
「ふぇ?」
俺の心中察したのか、そんなことを言われて、思わず声が裏返った。楓音は方を一瞬上下させつつも「どうしたの、おかっし~」と流してくれた。俺は、あはは……と笑い流しながら、コップを握る。何か知っているのではないかと思ったのだ。現に、朔蒔は俺が何処にいるか楓音に聞いたらしいから。でも、いくら楓音とは言え、あの後事に及んだ……見たいな事想像しないだろう。普通は想像しない。というか、何でああなるのか、それが不思議なぐらいなのに。
(朔蒔マジで、許さねえから……)
沸き上がるのは朔蒔への怒り。
だが、彼奴を今日から無視したところで、機嫌悪くしたあいつがクラスメイトを殴りでもしたら……そう考えると恐ろしくて無視なんて出来ない。俺が犠牲になれば良いだけの話。あいつは、気分屋だし、俺に飽きるのを待つしか無いと……
(あいつが俺に飽きるのか?)
自意識過剰。いいや、何でそんな考えにいたるのかと、自分でも不思議だった。だが、朔蒔の場合は、あれが正常なんだろう。
「……はあ」
「どうしたの、星埜くん。元気ないけど。何かあった?」
と、先ほどよりも心配そうな声色で楓音が尋ねてきた。
本当の事なんて口に出来ないし、かといって楓音に嘘をつきたくもない。どう言えば良いか迷っていれば、楓音が先手を打つ。
「昨日、朔蒔くんと何かあった?」
「え……」
「いや、あのね……朔蒔くんが星埜くん何処にいるかなあーって探してたから。もしかして、朔蒔くんにまた……」
「って、ないない。あーえっと、でも朔蒔にはあった。うん、だが、何もなかった」
俺は、勢いのまま押し切った。
嘘をついたことに良心が痛みつつも、保身に走った。別に、楓音が俺と朔蒔がセックスした? みたいなこと聞いてきたわけじゃないのにもかかわらず、兎に角それだけは、その事実だけはバレないようにしたかった。もし知られたら、楓音にどう思われるか分からない。楓音との友情は大切にしたい。それに、楓音の純粋な心は何としても守りたかったのだ。
「そ、そう。何もなかったらよかったけど」
「因みに、何を想像したと?」
「え? 変なことじゃないよ。さすがにな……いこともないかもしれないけど、朔蒔くんだし。でも、僕が一番心配したのは、また殴られたんじゃないかって事で……」
「あーそれ。大丈夫だろ。彼奴、俺の事好きみたいだし。暴力で俺を支配できないのは、あいつがよく知ってるだろう」
「星埜くんって強いね」
と、楓音はいつも通りに笑っていた。
何とか貫き通せたかと、内心胸をなで下ろした。嘘をついてしまったのは仕方ないとしても、安心している自分がいる。
そして、楓音の言葉が妙に嬉しかった。
強いというのはどういう意味で言ったのかは知らないけれど、そんな風に強いと言って貰えるのは嬉しかった。弱いよりも……そりゃあいいし、楓音を守ってあげられるぐらいは……
(でも、強いって……俺絶対朔蒔より弱いよなあ……)
何て想像が頭の中をよぎった。
どう考えても、暴力……力では朔蒔に敵わない。そのせいで昨日組み敷かれた訳だし。ランニングは日課にしているが、筋トレも追加した方が良いんじゃないかと思った。ただ、筋肉はつきにくい体質なのが問題だ。一見弱そうに見えるのが何とも……
「星埜くん?」
「あ、どうかした?」
「ううん、何だか、ぼーっとしてたから。この間殴られたとき頭ぶつけたんじゃないかって心配になって。大丈夫そう? 身体の方」
「ああ、うん。まあ……腰が」
「腰?」
「あ、いや、ただ打っただけで!」
と、見苦しい言い訳をしたところで、楓音がふふふと笑ってくれた。そして、俺は思う。やっぱり、楓音には笑顔が似合うと。
俺も笑った。出来るだけ明るく、なるべく楓音に心配をかけないように。
まあ、問題というか、楓音の笑顔は置いておいてはいけないけれど、ひとまず置いておいて。
(バカみたいに、朔蒔のことが頭にちらつく。ほんと、あいつの引力って言うか、脅迫感、圧迫感というか……俺の中に嫌でも残る強烈な……)
身体にもたたき込まれて、脳にもたたき込まれた感じで嫌だった。忘れようにも忘れられない。最悪だ。
俺は、自分の中に何かがはいってくるこの感覚が嫌だった。
それから、少しの間楓音と談笑し、楓音は着替えてくるといって先に家を出、俺も準備ができ次第学校に向かった。今日は朔蒔が来てませんようにと祈って、呪って学校に行ったが、俺の後ろの席には彼奴が座っていた。
「おはよ、星埜」
「死ねよ」
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