テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
📮 第32.5話:郵便局が消えた日
雨国崩落から数か月後。
旧東京都・桜丘町の中央広場は、薄い緑の街灯が昼間でも淡く点滅していた。
広場の端に、古い建物がひっそり残っている。
赤いポストの跡だけが目立つ、その建物は「旧郵便局」と呼ばれていた。
◆ 1. 解体前の広場
前に立つのは、淡いベージュのカーディガンを羽織った女性職員・祥子(しょうこ)。
髪は後ろでまとめ、灰色のスカート姿。
彼女の手には、ポスト撤去の最終確認書類があった。
横には、薄緑ジャンパーの街守隊(ガイシュタイ)隊員が二名、
無表情で周囲の安全確認をしている。
祥子
「……これで本当に、最後の手紙が終わるのね。」
街守隊の隊員(短髪・濃緑の制服)
「手紙文化は危険なんですよ。
外語が混じりやすいし、内容の検閲も難しい。
国家として“安心”を維持するためには必要な措置だ。」
祥子は静かに、かつ切なげにうなずく。
◆ 2. 解体理由の“発表版”と“真実”
その日のニュースでは、
水色のスーツを着たアナウンサーが爽やかに微笑んでいた。
「本日より郵便局は“安心統合のための再編”となり、
書簡業務はデジタル安心へ一本化されます。」
だが裏で交わされる書類には、
もっと冷たい文言が並んでいた。
● 旧郵便機能は“情報が不透明で監視困難”
● 手書き封書は“外語混入のリスクが高い”
● 感情的な文面が“群衆心理を刺激する可能性”
● 外国からの郵便物は“危険思想の温床”
それが廃止の理由だった。
◆ 3. 配達員が集められた講堂
旧郵便局の配達員たちは、薄灰のホールに呼び出されていた。
壇上に立つのは、翡翠運輸の淡緑スーツを着た役人。
「本日をもちまして、“郵便配達”は終了となります。
希望者は翡翠運輸へ再配属されます。
役職は全てリセット、“安心実務員”として再教育を受けていただきます。」
ざわめきが走る。
旧配達員の一人、若い男性・ユウタ(25)。
墨染めのパーカーに灰のズボン姿。
「俺たち、手紙だけを運んでいただけなのに……。」
隣のベテラン配達員・**泰三(たいぞう、58)**は、
古びた薄緑の帽子を握りしめたまま答える。
「……手紙は“人の声”だからな。
大和国は、声を統制したいんだよ。」
◆ 4. 最後のポスト撤去
夕方、
街守隊と翡翠運輸の合同作業で、
広場の最後の赤いポストが解体された。
クレーンが動き、
ベージュと灰色の作業服を着た作業員が取り囲む。
祥子はその光景を、息を飲んで見つめた。
ポストの底から出てきたのは、一通の古い手紙。
「これ……」
差出人はもう読めないが、
宛先にはこうあった。
旧東京都
桜丘町
二大区
ロ区
****
祥子
「……もう、届ける場所なんて無いのにね」
手紙は“記録物”として回収され、
そのまま翡翠運輸の封書データセンターへ送られていった。
◆ 5. 旧郵便局の消滅
夜。
街灯が緑に明滅するなか、
旧郵便局の建物には幕がかけられ、
翌朝には更地になる予定だった。
若い配達員だったユウタは、
作業を見つめながらつぶやいた。
「……これで、日本の“言葉の自由”も終わり、か。」
「いや、言葉は残るさ。
ただし、国が決めた“安心の言葉”だけだ。」
────────────────────