第33話:幸福度ランキングの真実
朝のニュース
渋谷の巨大ビジョンには「世界幸福度ランキング 速報」と大きな文字が映し出されていた。
アナウンサーが微笑む。
「今年の幸福度ランキング、第1位は──大和国です!」
画面には、緑丸の旗を背に笑顔で暮らす市民たちの映像。
続いて「2位 佳州」「3位 オーストラリア」「最下位 未確認敵国」とテロップが流れた。
制服姿の高校生まひろは、黄緑のパーカーを羽織り、灰色のリュックを肩にかけてビジョンを見上げた。
「ねぇミウおねえちゃん……ぼくたちが世界でいちばん幸せなんだって。本当かな……?」
隣のミウはラベンダー色のワンピースにモカのカーディガンを羽織り、髪を後ろでふんわりまとめていた。
「え〜♡ すごいよねぇ。だって大和国では毎日“安心の物語”が配られるんだもん。
学校も配給もアプリも、ぜんぶ幸福のために用意されてるんだから♡」
コメント欄には「おめでとう大和国!」「未確認敵国ざまぁ」「幸せはここにある」と文字が踊った。
幸福度の仕組み
スーパーのレジ前。
棚には「幸福度貢献商品」のシールが貼られた大和牛やヤマト米。
購入すると「幸福度ポイント+1」と表示される。
まひろは首をかしげ、無垢な声で言った。
「ぼく……ただご飯を買っただけなのに、どうして“幸福度”が増えるのかな」
ミウはカーディガンの袖を直しながらふんわり答えた。
「え〜♡ だって、幸福度って“感じるもの”じゃなくて“集めるもの”だからだよ。
協賛品を買えば、市民全員のランクも上がって、大和国の順位も守れるんだよねぇ♡」
裏側の現実
中央庁舎の地下。
巨大なモニターに映るのは各国の“幸福度スコア”。
だが数値は、市民の買い物記録やSNSの「安心」「感謝」の投稿数だけで計算されていた。
担当官が無表情に言う。
「不安発言は自動削除。幸福度は上昇。
未確認敵国は“恐怖映像”を流し続けた結果、スコア最下位」
上司は頷く。
「大和国が常に1位であること──それが人々の安心に直結する」
夜の配信
まひろは水色のシャツに短パン姿。机に肘をつき、無垢な瞳でカメラを見た。
「ぼく……ただ“ほんとに幸せなのかな”って思っただけなのに、世界で1位って聞くと、安心しちゃうんだ」
ミウは髪をふんわりとまとめ直し、ピンクのリップを光らせながら微笑んだ。
「え〜♡ 数字は未来の約束だよ。
まひろが疑っても、ランキングが証明してくれるんだから安心していいんだよ♡」
コメント欄は「やっぱり1位!」「未来も安心」「幸福は大和国にある」で埋め尽くされた。
結末
暗い部屋。
緑のフーディ姿の**Z(ゼイド)**が幸福度ランキングの画面を見つめ、冷たい笑みを浮かべた。
「幸せを数値にすれば、誰も疑わない。
不幸は削除され、恐怖は未確認の敵に押し付けられる……。
幸福の物語こそ、最強の監獄だ」
無垢な問いとふんわり同意、その裏で“幸福度ランキング”は人々の感情を操作し、大和国を絶対の1位へと固定していった。







