テラーノベル
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#殺し屋
冬黑 しづ @ペアネ・ペア画中
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川稀
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これは、とある少年の独白である。
5つになるまでの記憶がない。少年は生まれ落ちた日から、誰にも祝福されなかった。産み落とした女も、自分でさえも。誰も彼の事を必要としなかった。あの時までは。
雨だった。湿気った段ボールだけが彼を慰めている夜。スラム街はこの市の影のように、暗かった。
「こんなゴミ溜めで、子供が何をしているんだ。」
そう言いながら、その人は傘を差してくれた。
銀髪のオールバックに、細い縁のメガネをかけていた。そして、心なしか片目の焦点が合っていない。彼を見て「優しそう」とは、とても思えなかった。
しかし。ハエが集り、誰も彼を見ようとしない、そんな衰弱した少年に温かく、触れてくれたのだ。
少年はそんな親切が初めてだったから、その男を神だと勘違いした。
それだけではなかった。男は少年に手を差し伸べる。
「よかったら、うちに来なさい。ここよりもずっといい暮らしができる。」
ただし─
「お代は、君の命だ。」
─あれからどれくらい年をとっただろう。厭、年を取ったと言うにはまだ若すぎるのだが。
「おーい、迅!こっち来いよ!チャンバラごっこして遊ぼうぜ。」
褐色の肌の、短髪の子供が手を振る。少年の友達だった。背は小さいが、すばしっこくて…ずる賢いやつだ。彼と少年はとても仲良しだった。
玩具の剣を持ち、2人で打ち合う。勿論、お互い本気じゃないから。狙うのは腕とか、足とか。峰打ちばっかりで決着はつかない。それでも楽しいのだ。いつも、こうやって遊んでは…迅が音を上げておしまい。戦争にもなりやしなかった。
そう。子供の世界に争いなんてなかった。友達は毎日朝早くから少年を引っ張り出し、大人の目を盗んでお菓子をつまみ食いする。それがバレたら、ゲンコツされて。でも「マジクソ死ね!」って笑うのだ。少年も口では「ダメだよ」「バレたら怒られちゃうよ」とか、止めておきながら…悪戯を一緒にできるのが、楽しかった。
だって、生まれて初めてだったのだ。子供らしいことをするのが。
「迅。明日誕生日だろ?俺、プレゼント用意したんだよ。マジですげえから。迅びっくりすんぞ!ホント!」
そう言って、友達は得意げに笑う。迅はずっとこんな日が続いてほしいと思っていた。
当日迎えた誕生日。この日、少年は初めての仕事を任される。
そして、それがすべての始まりだった。
「迅、刀を持ちなさい。この前渡した、あの刀だ。」
大人たちがざわついた朝。男に叩き起こされ、突拍子もなくそう命じられる。迅は理由がわからなかった。何で起こされたのか。何で、刀を持たされているのか。何をしに行くのか。男は何も教えてくれなかったからだ。
ただ、刀を両手で抱え、目を擦り、後ろを着いていくしかなかった。
静かな足音だけが響いていたが、大きな襖の前で男は立ち止まった。
「この中に、裏切り者がいる。お前の誠意を見る為に、ここに連れてきた。」
迅は混乱した。何を言っているのか、本当に理解できなかったからだ。質問しようとするが、その口を噤ませるかのように、男はこう続けた。
「この中にいるものを殺しなさい。」
そう言って、襖を開ける。少年に考える時間を与えないような、無慈悲な速さだった。
迅は目を見開いた。そして、悲鳴を、必死に押し殺した。
─その中にいたのは、あの友達だった。
生かさぬよう。殺さぬよう。手足は折られ、アザだらけで…もう立ち上がれそうもない。
あんなに大事に着ていた服も、綺麗な髪の毛も、あの爽やかな笑顔も。
何もかもが、見る影もなかった。
「迅…。迅、助けてくれ!俺、俺は裏切り者じゃないって、増嶋さんに説得してくれ…!」
そう言って─縋るように、迅の目を見つめる。それが本当に、残酷だった。
迅は、選択を迫られる事になる。
友達を殺すか、逃がすか。
殺さなければ、あの人に何をされるかわからない。だけど…でも…だって。
こんなの、あんまりじゃないか。僕の友達が、裏切り者だなんて。そんなはずない。昨日だって、僕のためにプレゼントを用意してくれたって、言ってたのに。
迅は目を閉じた。眉間にシワができて、瞼の中が黄色くなるくらい。強く、強く。
しばらくそうしてから。ようやく目を開け、抜刀する。せめて、楽に殺してあげたかった。
ゆっくりと友達だった彼に近づき─首を斬る。首を落とせば、苦しまずに済むと思っていた。
しかし、それは成人男性の力があってこそ 一撃で殺せるというものだ。
友達は七転八倒し、その痛みに叫ぶ。痛い、痛いと。首の太い血管から血がボタボタと流れていく。流れていくのに、うまく死ねなかった。
少年はパニックになった。殺せなかった。
首から血が溢れる。
死なない。
どうして。
どうして死んでくれない。
何故?いや、そんな事より。
友達を楽にしてあげなくては。
そんな強迫観念に駆られ、何度も何度も刀を振り落とす。ザク、ザクという肉を裂く音。頭がおかしくなりそうなほどの絶叫。耳がキンとして、頭が真っ白になる。
残ったのは、滅多刺しにされた肉塊と、血まみれの少年だけだった。
しばらくして、襖から光が差し込んでくる。男が迎えに来たと分かるまで、数秒を要した。
その惨状を見て、男は少し口を開け、微笑む。こちらに歩み出し、血まみれの少年の頭を撫でて、こう言う。
「よくやった。」
12歳の誕生日。友達と一緒に、子供らしさと人間性も、同時に削ぎ落とした。
コメント
1件
**はる。** うわ……これ、めっちゃ重いやつだ……。最初の「お代は君の命だ」って台詞でゾッとしたけど、まさか12歳の誕生日に友達を♡♡♡せるとは思わなかった。しかも首、一発で落とせなくて何度も振り下ろすシーン、読んでるこっちも息苦しくなったよ。迅が「どうして死んでくれない」ってパニックになるところ、子供の無力さが痛いほど伝わってきた。男の「よくやった」が一番怖いわ……。続き、マジで気になる。