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体育祭も終わり、休み明けの月曜日
教室は鬱蒼としていた。
原因は明白だ
「マスクくんさあ、ちょっとおつかい頼まれてくんねぇ?」
一人読書をする僕の机に手をついて、上からそんな言葉を投げてきたのは
顔を見ずとも、その呼び名と横暴な態度で飯田だということはすぐにわかった。
「おい、聞こえてんだろ?」
そんなセリフを僕にぶつけると
今度は僕の持っていた小説を取り上げて
本の角を机に叩きつけながら
「無視してんじゃねえよ」と声を荒らげられて
ビクッと肩が跳ねる。
飯田の声は僕の脳天まで響いて
教室内はシン……となり
みなが僕たちのことを注視していた。
でもそれはあーまたなんか飯田が絡んでる、程度の認識だろう。
僕が誰かと視線を合わせようとするだけで、みんなそっぽを向いて
「私は関係ない」アピールをするようにガヤガヤと友達と談笑をしだす。
しかしそんな状況など全く気にせず飯田は続ける。
「ジュース買ってこいって言ってんだよ」
「……っ」
(なんで僕がそんなことしなくちゃいけないんだ)
そんな思いから僕は、飯田をキッと睨みつける。
「……おい、なんだその目は」
「……か、返して」
「あ?」
僕の言葉が癪に障ったのか、飯田は小説を強く握って本が折れるのではないかと言うほどグシャッという音を立ててからそれを床に叩きつけた。
そんな一連の流れに教室の誰もが息を呑み
僕を睨む。
ジュースぐらい早く買いに行け
飯田の機嫌を取れ、と思っているに違いない。
しかし、その静寂を割くように「何してんの?」と聞き覚えのある明るい声が近くで聞こえ
俯いていた顔を上げる。
そこに立っていたのは、沼塚だった。
沼塚は床に落ちた本をパッパと誇りを払うように撫でて、それを僕に返してくれた。
「ぬ、沼塚」と目配せをしてそれを受け取ると
飯田が口を開く前に、彼の前に1本のパックジュースを突き出した沼塚。
「八つ当たりしてないでこれ飲めば?」
沼塚が言うと「あ?」と、沼塚が差し出したジュースをいらねぇよと言って手で叩き
キッと沼塚を睨みつける。
そんな睨みにも動じず、続ける沼塚。
「人が大事にしてるもの雑に扱って暴言吐いてんの、普通にダサいし」
「…っ」
飯田は沼塚の言葉に舌打ちをして、教室を出て行った。
それを見送ったあと「奥村、平気?」と顔を覗き込むように聞いてくるので
「……だ、大丈夫。ごめん、助けてくれてありがと」
と、沼塚にお礼を言うと「全然」と笑って僕の頭をポンポン叩いて離れていった。
『なんで助けてくれたの』とか聞くことも出来たけど、多分沼塚は『友達だから』って笑うと思う。
だから何も聞かなかったし、沼塚もまた、それ以上のことは何も聞いてこなかった。
そしてその日の昼休み
トイレに行こうと廊下を歩いていると
前から飯田が歩いてきたので反射的にビクッとしてしまう。
が、そのまま彼の横を通り過ぎようと歩き始めたのだが、運悪くその途中で飯田に肩を掴まれた。
「おい」
「……な……なんですか」
恐怖心からか、飯田の言動を恐れて敬語になる
そんな僕を気にもとめずに飯田は続ける。
「お前さ、今日の掃除当番代われよ」
急な要望に僕は思わず「え」と声を出す。
「どーせ暇だろ?」
方に手を回しながら嘲笑ってくる飯田に
『勝手に暇人だって決めつけんな』と思ったが、
そんなことを言える立場じゃないのでコクンと頷く。
「じゃあな、忘れんなよ」
そのまま飯田は歩いて行った。僕はそれを見届けると急いでトイレに行ってから教室に戻った。
そしてその日の放課後
掃除当番を押し付けられた僕はゴミ箱を校舎裏の焼却炉に持っていきながら
今日のことを思い出していた。
『お前さ、今日の掃除当番代われよ』
『どーせ暇だろ?』
(……なんで僕がこんなことしなきゃいけないんだ)
そんな思いがどうしても拭いきれないまま焼却炉へ着くと、ゴミを中へ放り投げる。
そうして誰もいない教室に戻り、自席横のフックにかけていたリュックサックを手に取って学校を出る。
外はすでに日が落ちていて、虚しさに襲われた。
それが3日間ほど続いた放課後
押し付けられた
掃除を終えて思い足取りで教室に戻ると
僕の席に座っている人物が一人、沼塚だった。
「沼塚……なんでここに?」と零せば
僕の席に座りながらスマホをいじっていた沼塚が顔を上げる。
「奥村のこと待ってた」
そう言うと沼塚は机の横に掛けていたバッグを持ち上げて肩に掛けるので
それを待ちつつ僕も帰る支度をする。
そして2人で教室を出て廊下を歩いていると
横を歩く沼塚を見て
「先に、帰っててよかったのに」と呟く。
すると沼塚は僕の方を一瞬見て
「今日の当番奥村じゃないでしょ?奥村のことだし、また飯田に何か言われたんじゃない?」と図星を着いてくるので
「ちょっと、掃除当番代わってって言われただけだよ」と言えば
「お人好しすぎて心配なるんだけど…次からそういうこと言われたら俺呼びな?」なんて言ってきて。
「沼塚、なにかと助けてくれるけど…悪いし、なら多少辛くても我慢してる方が楽って言うか…こういう扱い、慣れてるし」
僕がそう言うと、沼塚は「もう」と言いながら僕のおでこをトンっと小突いた。
「いてっ…な、なにすんの…」
「悪いとか思わなくていいし、そんなの慣れなくてよくない?」
「……でも、沼塚に迷惑かける…っ」
「迷惑って…」
「…沼塚、全然関係ないのに、巻き込みたくない」
「あのさ奥村。こんなの迷惑のうちに入んないし、友達が困ってたら助けるの普通でしょ?」
「で、でも…」と歯切れ悪く返せば
「もしかして…迷惑だった?」と少し悲しそうな目で聞いてくる。
僕はブンブンと首を横に振る。
「そんなわけ……っ…ないけど」
僕が眉を下げて情けない顔をしていると、沼塚は優しく微笑んできて。
「じゃあいいでしょ?それに、|奥村《友達》が酷い扱いされてるの見るの嫌だし」
「……沼塚」
「とにかく!次なんか飯田に言われたら俺に言って」
「約束だよ。」
「う、うん。わかった…」
───それから数日が経った頃だった。
一度、掃除当番を僕に押付けていたことが担任にバレ、叱責されてからは
掃除当番を押し付けることはなくなった。
その代わり、飯田は僕のマスク弄りを頻繁にするようになった。
これなら掃除当番を押し付けられている方がよっぽどマシだったと、担任を恨んだ。
(こういう生意気な生徒を叱ったらさらにエスカレートするに決まってるのに…)
大体こういう場合、教師は
『じゃれあい』だの『仲良くしてるだけ』という加害者側の言葉を信じる。
僕みたいな陰の者の表情も見ようとしないで発言力のある陽の者の言葉を信用する。
意味がわからない。
小学校とかでいじめ対策推進法で『あだ名禁止』とかいうのがあるが
僕が受けているのはもろにそれだってのに
担任は僕が飯田や
飯田の取巻きみたいな男生徒に
『卒業写真もマスクだったりして』
『はーいマスクくんカメラ目線お願いしまーす!』
『おらこっち向けや』
なんて言われてるのを見かけても
「昼休みだからって騒ぎすぎないようにねー」
とだけ言って素通りするだけだった。
もう担任に対する感情は嫌いとか呆れじゃない
こいつも敵か、という認識でしかない。
それに今日は飯田に捕まらないように教室から離れたところで弁当を食べようと思って
弁当の入ったランチバッグを片手に持っていた、というのに捕まるのが早すぎて嫌になる。
(…マスクのこと弄られるの、最近多いし最悪だ)
こいつらに良心だとかそんなもんない
ノリと勢いで生きてるような連中だ
楽しさだけで今までやってきたような人間だろう
自分にコンプレックスなんてものもなく
普通に人間関係も良好で
だから人の気持ちなんて考えないし
こんな陰キャが反抗出来るわけないと分かっての行動なのだろう。
こういうとき、何故か被害者側にも問題があるとか言ってくる外野がいるけど
そいつらも加害者も
まとめて死ねばいいのにと思う
そんなことを考えながら、飯田たちに殺意が湧く
が、反抗する勇気なんてとても無くて
こいつらが飽きるまで
なんなら僕が壊れるまでか
卒業するまでこいつらに迎合して高校生活を送らなければいけないのかもしれないと
絶望さえする。
イキる奴とか理不尽なやつに口を出せる人間なら、少しは違ったのかな。
僕にはそんなの無理だ
今すぐトイレに逃げ込みたい
というか、消えたい。
消えたいなんて思ったのは中学3年のスピーチで教壇に立ったとき以来か。
(情けなすぎるし、全っ然変わんないな…僕)
そんなことを考えながら、微かに手は震えていて
そんな僕を唯一助けてくれたのは、沼塚だった。
「奥村、一緒にご飯食べよ!」
「え…?あ……」
急に通りすがりに声をかけられたかと思えば
沼塚は僕の手を掴んで、体ごと引き寄せてきた。
『ちょっと沼塚何してんの、マスクくんは俺たちと喋ってたんですけど?』
『ちょっと顔がいいからって調子乗っていい人気取っちゃってさぁ』
という男生徒の言葉を一刀両断するように
「そういうのは奥村の友達に昇格してから言いな?」なんてキメ顔で言って
また手を引かれるから、嵐のように突然のことに愕然とついて行くしかなくて。
「ここなら誰も来ないからゆっくり食べれるね」
そう言って沼塚は人通りの少ない屋上に繋がる立ち入り禁止という看板の置かれた階段に腰を下ろすと
購買で買ったであろう焼きそばパンや紙パックのカフェオレを広げ始めて
「突っ立ってないで奥村も座ろ?」
と言うので、僕も続くように沼塚の横に座ると弁当箱取り出して蓋を開けた。
そしてそれを膝において、おかずを茫然と見つめながら口を動かした。
「……沼塚、なんで、あんなの遊びなんだから…スルーしてくれてよかったのに。」
開口一番出た言葉は感謝でもお得意の謝罪でもなく、尖った言葉で。
(…正直、すごく助かった…)
そんな本音を薄ら笑いと意地で隠してしまう。
そんな僕に、沼塚は「また、無理してるでしょ」と僕の顔を覗き込むようにして言ってきた。
「なんのこと」と箸箱から箸を取りだして呟けば、不意に頬に沼塚の片手が添えられて
強引に目と目を合わせられて
「奥村が助けてほしそうな目してたからだよ」
なんて、神経を慰撫するような声が耳に響いて。
それを払い除けるように顔を逸らす
「…沼塚に、僕の何が分かるの」
助けてくれた相手にすら、そんな反抗的な言葉しか出なくて
捻くれすぎた性格に嫌気がさす。
「沼塚みたいなさ……っ、人気者は、僕みたいな
暗くてどうしようもない奴の気持ちなんて……っ、分かんないでしょ」
立ち上がって、そう吐き捨てるように言えば
沼塚からは笑顔が消えていた。
(そんなことが言いたかったわけじゃない)
(沼塚の言葉はとても優しい、のに)
「奥村…」
こんなんだから陰キャなんだと思うのに
今更この性格を変えることはできなくて。
そんな僕が情けなくて、悔しくて
涙が出そうになる。
(なんで僕はこうなんだろう)
そう思えば思うほど、沼塚への罪悪感が募る。
なのに、沼塚は
「そりゃ、奥村と友達になってまだ日は浅いけど」
そんなことを言って僕の手を取る。
そして沼塚は僕をまっすぐに見つめてきた。
「あんなふうにバカにされて不快になる気持ちぐらい理解できるよ」
「それに、友達なんだから、相談ぐらいしてよ。
辛いなら、いくらでも聞くから」
「……」
それは僕が一番苦手なセリフだ。
そんな優しい言葉を貰っても、返せるものがない。
『辛いなら、いくらでも聞くから』
簡単にそう言うけど、どこまで?
それに、悩むことが多すぎて言葉が出てこない。
中学の頃は、まだ言語化できたはずだ。
でも、いつしか悩みなんて漠然とした不安に変わっていた。
嫌われない範囲も打ち明けていい範疇も分からなくて
相談したところで、飯田が消える訳でもない。
相談して沼塚の貴重な時間を奪って
頼って無駄な労力を掛けさせたら?
迷惑かけて、最悪沼塚も僕から離れていくかもしれない。
そんな考えが過るたび、何も言えなくなって拗れすぎだと自分に呆れてしまう。
「…僕なら大丈夫だし、沼塚は心配しすぎだよ…ほんと、大丈夫だから、もうほっといて」
|沼塚《友達》に心配を掛けたくなくて
これ以上迷惑をかけたくなくて
取り繕うように笑って言葉を吐き出し
僕は逃げるようにそこから離れた。
それからは、うだつの上がらない日々だった。
相変わらず沼塚は僕を遊びに誘ってくれたり
昼ご飯に誘ってくれたりしたが
僕はそれを断り続けたし
飯田たちは次第にエスカレートしていき、僕にパシリを頼むようになって、反骨心も失っていた僕はそれに従うことにしていた。
とある日の昼休み
今日は飯田が
「焼きそばパン買ってこい」と言ったので、渋々購買まで走り焼きそばパンを購入すると
教室まで小走りして、焼きそばパンを抱えながら教室のドアを開けて
飯田の居る席まで行くと
飯田はスマホをいじりながら机にクロスさせた足を上げて「おせえよマスク」と
画面から目を離さずに言う。
僕はムッとしながらも、それに反論せず「ごめん」と言って焼きそばパンを机の上に置く。
すると「お前があまりにもトロいからパンの気分じゃなくなったわ」と言ってさらに
「喉乾いた、コーラ」と言ってきて
「えっ」と声を出して立ち尽くしていれば
前髪を掴まれて「あくしろよ」と
ヤの付く人間しか言わなそうな物言いで命令されて、僕は肩をびくつかせてまた購買まで走る。
抵抗するより、我慢していた方が楽だったからだ。
ただ、沼塚とすれ違うことはあっても
沼塚はもうなにも言ってこなくなった。
(…自分から拒絶みたいなことしたくせに、なんで今更助けてなんて思ってんだろ…自己中にもほどがあるっての……)
そんなことが1週間ほど続き、沼塚との接点も減っていくばかりで
もう僕のことなんて嫌いになっちゃったよな。と思うようになっていっていた
ある日の放課後
一人、いつも通りリュックサックを背負って廊下に出て、玄関方向に歩いていたとき
「まーくん!」
声をかけられて振り返るとそこにはスクールバッグを肩にかけた新谷と久保がいて。
「よっ、今帰りか?」
新谷の言葉に頷くと
「まーくんにちょっと質問なんだけど、最近沼ちゃんとなんかあった?」と久保に尋ねられる。
それにドキッと心臓が跳ねて「えっ」なんて声を出してしまう。
「やっぱな。喧嘩でもしたのか?」
新谷はなにやら真剣な顔をしてそう聞いてきて
「喧嘩…とかじゃないけど、でも」
なんて、ハッキリしない言い方をしてしまう。
それに新谷は僕の肩をポンと叩いて
「何かあったんだな?」
と優しく聞いてくるので、つい言葉を漏らした。
「…飯田にマスクのこととかいじられて絡まれてるとこ、よく助けてくれてたんだけど…この前、沼塚に酷いこと言って、もうほっといてって言っちゃったんだ」
それ以降、沼塚の誘いも断って
わざと避けるようになったということを伝えると案の定理由を聞かれて
「沼塚はいつも優しいから、それで余計に自分が情けなくなるし…沼塚にこれ以上迷惑かけたくなくて」
新谷と久保は、僕の話を聞いてうんうんと頷くと何故か二人は顔を見合わせている。
そんな二人を交互に見る僕に、新谷が口を開く。
「…別にいいんじゃねぇの?迷惑ぐらい」
「え……?」
新谷の予想外の言葉に、思わずぽかんとしてしまう。
それに対して久保も言う。
「まーくんはさ、沼ちゃんを頼る勇気がないんじゃない?」
鋭い、図星にも程があった。
「っ…だって、沼塚にこれ以上心配かけたくないし、助けてなんて言ったら、困らせるかもしれない」
俯いてそう呟けば
「友達なんて、そんなもんだろ」
なんて言ってくる新谷に驚いて顔を上げる。
「それにあいつは迷惑なんて思ってないだろ、そんな何度も助けちまうぐらいなんだから」
そう言った新谷に、僕はどう返していいか分からず押し黙ると
そんな僕に久保が後押しをするように言葉をかけてくれる。
「……もうちょっとちゃんと話してみたらいいんじゃない?」
その言葉に、僕は少し考えてから小さく頷く。
そんな僕を見た新谷は
「じゃ、ちゃんと仲直りしろよな。」と言うと
玄関方向に歩いて行って久保も続くように背を向けた。
その翌日
いつもの通り、学校に着いて教室の自席に座ると同時に
「おい、マスク男」
と、いつもの蔑称で僕を呼ぶ声が聞こえたので思わず肩が跳ねる。
そしてそれは飯田の声だとすぐにわかった。
「お前、最近沼塚たちといないよな。とうとう見放されたんじゃね?」
飯田がニヤニヤしながら僕の席まで来てそう聞くので
「……別に、沼塚はそんなんじゃないし」
と、僕は素っ気なく答える。
飯田にこんなハッキリ言い返すこと自体初めてかもしれない。
そんな僕に気にも止めずに飯田は続ける
「だったらお前、沼塚呼んでこいよ」
「……なんで僕が」
「あ?口答えすんじゃねえよ」
そう言って、飯田は僕の胸倉をグッと掴んでくる。
「ぬ、沼塚は関係ないでしょ…」
と、僕は弱々しく言うが
そんな僕に対して飯田の怒りはヒートアップする一方だ。
「ならお前でもいいわ」
「えっ」
「ほら、お前らこいつ押さえつけろ」
そう言って、飯田は僕を羽交い締めするように|取巻き《男子生徒》二人に命令する。
「は、離し……!」
『はーいマスクくん暴れないでね~?』
『大人しくしてろよ』
なんて言いながら飯田と取巻きはゲラゲラ笑う。
「お前、頑なにマスク外さねえし、今ここで剥いでどんなやべえ顔してんのか見てやるよ」
思わず言葉を失っていると
飯田がマスクに向かって手を伸ばしてきて
外されないように必死にそっぽを向くと
後ろで僕を押えつけてくる男生徒二人に髪を引っ張り挙げられて無理矢理上を向かされる。
その隙に僕のマスクを剥いできて、呼吸が荒くなる。
(無理、無理無理、最悪だ……っ)
飯田に顔を見られたくなくて僕は下を向くが
そんな僕の顎を強引に掴んで上を向かされる。
すると飯田は僕の顔を確認して ゲラゲラ笑い出す
「へえ……って何お前、なんでそんな顔赤ぇの?」
飯田は僕を嘲るように笑ってくる。
人の皮を、被った悪魔のようだった。
……最悪だ。本当に最悪だ。
そんな恐怖から
僕は咄嗟に手で顔を隠そうとするが
その肝心な手は後ろで男子に掴まれてしまっていて、マスクが外れたという畏怖感から
力が思うように出ない。
目を合わせるのも怖くて
顔はさらに熱くなるし冷や汗も止まらなくて
『か、返して……っ!』と上ずった声しか出ない。
そんな僕に追い打ちをかけるように、周りの生徒も僕の方をチラチラと見て
『なにあれ』
『風邪?顔赤過ぎない?』
『てか、顔色やばくね?』
『これ先生呼んだ方がいいやつ??』
なんて好き勝手に言い始める。
そんな空間が
|中学時代《トラウマ》のあの嫌な雰囲気を彷彿とさせる。
(まって、どうしよ、どうする……っ)
嘲笑や揶揄が雑音となって響き
圧迫感に押し潰されそうになる
(死にたい、ダメだ死にたい、これダメなやつだ)
無抵抗な状況下に置かれて無理矢理マスクを剥ぎ取られて
衆人環視の生贄のように奇異の目に晒されて
その多くの視線に殺されるんじゃないかと思う
そして息をするのと同じぐらい当たり前に
誰も助けてくれる人間なんか居ないと確信する
運悪く昼休みということで教室に残ってる生徒は数名で
新谷は学習委員なため、それで校長室に行っていて、久保もそれの手伝いで不在だし
沼塚は、わからない。
大体……今更助けてなんて虫が良すぎる。
いつも嵐みたいに現れて、僕を助けてくれていた
それが嬉しかったし救われていたはずなのに
ほっといて、なんて言ったのは僕だ。
もうなにもかもわからない。
自分がどうすればいいのかすら、もう分からない。
(……っ、たすけて、たすけて沼塚…っ)
なんて、心の中で助けを求めたところでその沼塚は、今ここにはいない。
(……来るわけもない、)
そう思って諦めたときだった。
「まーくん?!」
扉の方から声がして顔を上げれば
そこには久保がいて。その中には新谷と、沼塚までいた。
「あ……っ」
その光景に唖然としている僕に駆け寄ってくる新谷と久保。
「お前ら恥ずかしくねえの」
新谷は鋭い声を発すると僕の腕を掴んでいる男子生徒を引き離してくれて
久保が『まーくん大丈夫?』と言って机に置かれたマスクを手渡してくれた。
そんなとき、沼塚が
「よってたかって奥村一人になにしてんの」
と飯田の胸ぐらを掴んでいた。
冷たい声で言う沼塚に、周りの生徒はたじろいでしまう。
そんな沼塚に飯田は舌打ちをして沼塚の憤怒の形相を目の前にしても
「んだよ、まじになんなよ」と苦笑いを浮かべ
周りがザワザワとし始めたところで
『なんの騒ぎだ…て、お前らなにしてるんだ!』
と通りすがりの教師が慌てた様子で教室に入ってきて。
僕と沼塚、飯田の三人は放課後に指導室に来るよう命じられた。
ザワザワとする教室を先生はパンパンっと手を叩いて静かにさせて生徒を席につかせる。
それに僕も続くように自分の席に座り直した。
その日の授業は、満身創痍すぎてなんにも耳に入ってこなかった。
放課後のチャイムがなり
先に飯田が一人で呼ばれ
その次に僕と沼塚が二人同時に指導室に呼ばれた。
生徒指導の先生と担任の計四人で指導室ソファにテーブルを挟んで先生と生徒で向かい合って座ると
「それで……何があったんだ?」
と、気難しそうな顔をした指導部の先生に聞かれ
僕が言葉を紡げず黙っていると、付け足すように
「飯田が言うにはただ沼塚が掴みかかってきただけ、の一点張りだったが、それは本当か?」
と尋ねられ、僕は俯いていた顔を上げて
「ちっ、違います…っ!」と声を張れば
沼塚は自分の非を認めつつも冷静に
「奥村がここ最近ずっと飯田に嫌がらせ受けてたのは川浪先生も知ってますよね」
と担任を凝視して問いかける。
すると担任はまるで
良心の呵責に耐えかねるように
「…沼塚くんの言う通り、奥村くんが飯田くんたちにマスクのことを弄られていたのは知っていたわ。ただ……沼塚くんが助けてあげていたのも見ていて、平気なものだとばかり。」
「でも今回のことは完全に私の監督不行届だわ。ごめんなさいね…奥村くん、ずっと何もしてあげられなかったこと」
と、申し訳なさそうに僕に謝ってきた。
その言葉に僕は担任教師に失望に近い感情を抱くだけだった。
結果的に、沼塚は胸ぐらを掴んだだけということもあり暴力行為と看做されたが
僕を助けるためにしたこと、に加えて
直接物理的に暴力行為に及んだわけでもないため
情状酌量の余地があるということで口頭注意のみ。
飯田と取巻きはというと
当人の意に反してマスクを外した行為はプライバシーの侵害や侮辱行為とみなされる可能性があると考えられ
さらに、僕がマスク云々の前に
掃除当番を押し付けられたことやパシリにされていたことも素直に話すと、
過去の素行の悪さも相まって1週間の停学処分となったそうだ。
指導室を出ると、もうとっくに飯田は帰されていて
「災難だったね……」と沼塚が声を掛けてくれた。
「ごめん、沼塚」
僕は立ち止まって、沼塚に頭を下げた。
そんな僕に沼塚は「えっ、奥村…?頭上げてよ」と慌てたように言う。
「迷惑、かけた」
そう言いながら顔を上げれば 沼塚は僕に少し困ったように笑顔を向けてくれていて
「俺が勝手に怒って首突っ込んだだけだよ」
と優しく言ってくれるので思わず涙腺が緩みそうになる。
そんなときだった
「まーくん!!」
突然、背後から声を掛けられて振り向くとそこには久保がいた。
その隣には新谷もいて
「二人とも処分とか大丈夫だった?!」
「口頭注意で済んだし、大丈夫そう。案の定飯田の方は停学処分なったけど」
と言う沼塚
「うわまじ?よかったねまーくん!」と僕に笑いかけてくれる久保。
「…っ、あ、ああ」
(正直、今は飯田のことより、沼塚への罪悪感が半端ない……)
するとそんな僕を見てか新谷が口を開く。
「で?お前らは仲直りしたのか?」
新谷の言葉に
「喧嘩したみたいに言わないでよ、別に俺」
という沼塚の言葉を遮って
「沼塚、あと二人にも話があるんだけど、今からちょっと、いいかな 」と声に出した。
「俺は大丈夫だけど」
沼塚が頷くと、久保が続けて
「ま、そーゆーことならとりあえずミスドで話そーよ。」
と言って歩き出したので
僕らもそれに続いて歩き出し
小樽駅前近くの以前新谷と久保の二人と行ったミスタードーナツに
沼塚も含めた4人で足を運んだ。
店に着くなり空いている席を見つけてテーブルを挟んだ四人席
新谷と久保が奥に座って、沼塚と僕で手前の席に座る。
とりあえず荷物置いてドーナツ取りに行ってから話そうということで
荷物を席に置いて
それぞれ白いトングとトレイを棚から取り出して
ドーナツを選んで会計を済ませると席に戻って、
僕の隣に沼塚が座って新谷たちと向き合うように座りなおした。
新谷は見かけによらず甘党なのか
ポン・デ・リングのチョコレートver.と言える
ポン・デ・ショコラを3種類ずつと、カルピスを頼んでいて
久保のトレイに視線を移せば
ポン・デ・ストロベリー
ストロベリーリング
ストロベリーカスタードフレンチ
カスタードクリーム、と
4つのドーナツがピンクの山のようにさらに盛られていて
その隣にはアイスアールグレイティーまであって、まさに女子がするような注文だけど
小柄で萌え袖が似合ってしまうようなゆるふわ系男子の久保がそれを頬張っていても違和感が仕事をしていないので
なんら普通だった。
二人に引替え
隣の沼塚はハニーチュロと無料の水のみで、それだけなんだ、と思っていると
「で、話って?」
と、僕の方に顔を向けて尋ねる沼塚に
僕は背筋を伸ばして固まってしまう。
するとそんな僕に久保は
「まーくん??大丈夫??」と声を掛けてきて
ハッとする。
(……沼塚に、ちゃんと謝らないと)
そう改めて決心して、横の沼塚に向き直って
「沼塚、さっきのことだけど、ちゃんと謝んなきゃと思って」と俯きつつ告げると
「さっきのこと?」という沼塚の柔らかい声がして、目線を上げると
「結局俺も奥村も何もなかったし、俺は気にしてないよ?」
と笑う沼塚に僕は首をブンブンと横に振って否定する。
「違う、そうじゃない…沼塚は僕が困ってるときいつも助けてくれてたのに、僕、そんな沼塚に酷いこと言って、突き放して、なのに、また、助けてくれて…っ」
そう言葉にすると、もう感情が止められなくなって
「沼塚、僕が助けて欲しそうな目してるって言ったでしょ、本当はあのとき…凄く嬉しかったし、安心感すごくて……」
「そうだったんだ…?」
「でも、意地張って、素直にお礼も助けてとも言えなかった…そのくせに、いざ今日みたいなピンチになったら助けて欲しいなんて思って、自己中すぎるってのも分かってるし……っ、もう嫌われたかもってのも頭よぎったのに」
「奥村のこと嫌うわけないじゃん」
「なんで、また、平然と現れて助けてくれて……どうしてっ、って、思ってた」
嗚咽混じりにそう言うと、手が震えだして。
すると沼塚が僕の手をそっと握ってくれて
その体温を感じて、泣きそうになる。
その間、沼塚だけでなく久保と新谷も黙ったまま見守ってくれていて
少し間を開けてから沼塚が答えた。
「そんなん奥村が友達だからに決まってるじゃん」
「……っ?」
そんなことを言われるとは思っていなくて思わず涙で濡れる目を見開く。
「まだ、僕沼塚の友達なの、?」
そんな僕に沼塚は続けるように言葉を放つ。
「え?うん、奥村は違うの?」
「そ、そんなことない…!」
「だったら、助けてあげたいって思うのだって当然だし。あんなことで嫌いになるほど浅くないよ。」
「辛いときぐらい助けてって、言っていいんだよ、友達なんだなら」
「……だって……そんな、こと言ったら、また心配かけるし……それに……僕なんかのことで、迷惑かけたくなくて……」
「心配ぐらい、いいでしょ?迷惑だって、掛け合うのが友達じゃない?」
「……!」
沼塚の一言一言が、僕の心を大きく揺さぶった。
僕のことを気にかけてくれる友達なんて
一人もいないと思ってた。
僕はそんな沼塚の優しさに胸がいっぱいになった。
「…っ、ほんと…ありがとっていうか……何度も助けてくれたのに、僕、ありがとうって言えなかったから……ごめん、本当にごめん沼塚……」
言うと、大きな手がそっと僕の頭を撫でてきて
「俺は…そうやって謝られるより、ありがとって笑ってくれる方が嬉しいかな」
優しい声音で言って微笑んでくれて、その優しい手つきに思わず泣いてしまいそうになる。
「っ……ありがとう……」
改めて言葉にすると、沼塚はもっと優しい顔になって
「うん」と頷いてくれた。
そんな僕たちを目の前に久保が口を開く。
「これでおふたりは一件落着かな?」
(…こんな簡単に、済むことなら、もっとちゃんと話せばよかった……あんな意地張らなくても、よかったんだ…)
なんて思うと、沼塚の手をそっと離してから口を開いた。
「……二人もありがと」
二人にもお礼を言うと二人は得意げに微笑んでくれて
「まあ、丸く収まったならよかったじゃねぇか」
と新谷。
その隣では久保が
「てか、俺たちにも話あるんだっけ?」
と首を傾げて尋ねてきたので
「うん……その、マスクのこと、3人にはもう、ちゃんと話した方がいいかと思って…沼塚にはもうバレてはいるんだけど、一から話すから聞いて欲しい」
僕の言葉に対し
「おう」と寡黙な新谷
「マスクしてる理由…でしょ?うん。聞くよ」
包容力のある声色でそう言う沼塚
「沼ちゃんだけ?!え、聞きたい聞きたい」
と女の子みたいに可愛く強請るように言う久保に
僕は意を決して口を開く。
「僕、赤面症っていう病気持ってるんだ」
僕はもうこの際だと素直に白状した。
「セキメンショウ?」
そう首を傾げる久保に僕は続ける。
「うん、沼塚には緊張すると顔が赤くなるってことぐらいは教えたことあるんだけど……中学のときに色々あって…それからずっとマスク着けるようになって」
「え、それって病気だったんだ」
沼塚の言葉にコクッと頷く。
「色々って?」
不思議そうな顔の新谷を見て、僕は話を続ける。
「中二の終わりごろに、その病気が発症して、あるとき仲の良かった男友達にマスク外されて、それに動揺して顔が赤くなっちゃったみたいで……」
「キモいって言われたんだ。次の日学校に行ったら、廊下歩いてるだけで女子が、なぜか僕が赤面症だってこと知ってて、僕のこと変なやつって話してるの聞いちゃって…」
そこまで話すと今度は新谷が口を開いて
「つーことは、その男が奥村のことチクったってことか?」
「わかんないけど…多分」
苦笑いしながらそう言うと久保が呆れたように
「それだけで言いふらすのもガキっぽいけどねぇ」
と言って。
中学時代と今を比べるように僕は言う。
「だから高校では、マスクをして過ごそうと思ったし友達すら作れないかもって諦めてた」
「なのに、誰かさんがずっと話しかけてくるし」
「誰かさんって絶対沼ちゃんのことで草」
「まあ…でも、最近の、体育祭練習の休憩中だったかな、そのときに沼塚に顔見られて、緊張して顔赤くしちゃったんだ…」
「あぁ、あのとき?」
と沼塚が横から聞いてくる。
「あっやばい終わったって思ったんだけど…罵倒どころか引き目も向けてこなくて、なんなら可愛いとか言ってからかってきたし…あのときは拍子抜けした…」
「だってほんとに奥村可愛かったよ?」
と平然と言う沼塚に
「沼ちゃんってほんっとまーくんの全肯定botって感じしてウケる」
と久保がツッコんで
「それな。4月ごろから思ってたけど奥村のことになると過保護だし、親みてぇ」
新谷も続き
「いやいやそんなことないでしょ」
と否定する沼塚。
そんな3人の言葉に思わず笑みが溢れてしまう。
すると今度は久保が口を開く。
「あ、まーくんやっと笑った!」
「えっ?」
久保の言葉に僕は驚いてしまう。
「だって、今日ずっと暗い顔してたからさ」
その言葉に思わず息をのんでしまった。
(……そんな顔に出てたのか……)
そう改めて自覚するとなんだか恥ずかしくなってきてしまう。
そんな僕の気持ちとは裏腹に新谷が口を開く。
「ま、これで解決だな」と、それに続いて沼塚も
「だね」と頷いてくれて、僕もまた頷き返す。
そして少し間を置いてから久保が口を開く。
「てか、沼ちゃんだけまーくんの全顔知ってるの水臭くない?!」
「……っ、それは……その……」
すると今度は新谷が口を開いた。
「ま、どっちでも良くね?奥村がマスクつけてようが付けてまいが」
「奥村のマスクつけてる理由は知れたわけだし、外野がどうこう言うことでもねぇだろ」
「まあそれはそーだけど…まーくんのマスクの下が沼ちゃんだけの特権なのはなんか癪~」
少し口を尖らせる久保に
「なにそれめっちゃいい響き…」
とニヤける沼塚
「別に特権にした覚えないから」
といつものように言葉を突きつける。
「でもよ、思うんだけど」と新谷が切り出すので僕は新谷の方に視線を向ける。
「奥村のその赤面症?って治るもんなのか?」
「ま、まあ…一応、認知行動療法ってのやってるから…」
「ニンチコウドウ?」
「えっと…薬物治療とかもあるんだけど、簡単に言うと薬とか使わずに症状を改善していく治療法のこと」
新谷の問いにそう答えると、久保が
「ってことはまーくん自身、治したいって思ってるんだ?」と聞いてきて
「うん…こんなんじゃ好きな人できてもキスもろくにできないだろうし、親にも苦労かけてきた自覚あるから、克服は…したいと思ってるんだ」
すると、久保が納得したように
「あーたしかに。彼氏がずっとマスクしてるって、彼女的にも気まずくない?」
と言ってきて「気まずいって?」と沼塚が聞くと
「だってセックスするときもマスクしてたら、顔見えないしさすがに萎えるっしょ」と久保が言って。
その言葉に僕は思わず「セッ……!?」と声を漏らすと新谷が続けて口を開く。
「あーまあな。ヤってる最中には外して欲しいとこだけどな」
「っ……」
(そ、そっか……そういう問題もあるんだ……)
するとそんな僕を見兼ねてか沼塚は「まあ、それには個人差があるし!ね?」とフォローするように言ってくれて
久保が口を開く。
「それで、まーくん治りそうな兆しある感じ?」
その言葉に僕は少し考えるように間を置いてから答える。
「……いや、正直、道が長そうというか…陰キャすぎて、心を開くのがすごく苦手で」
「それはまぁ、見てりゃわかる」と新谷は言って、それに続いて久保も頷く。
「まーくんってなんか傍から見ててもわかるぐらい暗いとこあるし」
「お前ストレートに言い過ぎ」
そんな二人に僕は思わず
「はは…図星すぎて返す言葉もない」と言って
苦笑いを浮かべてしまう。
すると沼塚は「高校生活長いんだし、ゆっくり治していけば」
とまた優しく声を掛けてくれて
それには頷いて返す。
すると「って、時間やば!」と思い出したように久保が声を上げ、
店の時計を確認すると
「あ、ほんとだ」と声が漏れる。
それに続いて沼塚と新谷もスマホの画面を見ながら「そろそろ帰るか」と言って
「結構話しちゃったね」と言う沼塚に
「みんな、長いこと付き合わせちゃってごめんね」と言えば
「全然」
「気にすんな」
「話せてよかったしね」と言う三人。
すると新谷は僕の方を見てから少し声を低くして言う。
「つか、なんかあったらちゃんと周りとか、俺らのこと頼れよ?無理したっていいことねぇんだからな」
僕はその言葉に強く頷いた。