ついにライブまで1ヶ月を切ったある日、コンビニに行くと1本の新聞記事が目に入った。
「なにこれ…」
そこには朔間くんと私の写真がどんと貼られてある。
通知が来たと知らせるバイブレーションがポケットから鳴る。
美沙都さんからだ。
「千紗、あなた大変なことになってるわよ…」
「…知ってます。」
「そうよね、X・Instagram・TikTok・その他のSNSはどれもあなたの熱愛報道で持ち切り…!」
「それに、新聞だってそうよ。」
「熱愛…?私たちは付き合っていません!!!」
「知ってるわ、、でも告白はされて2人は両思いなのよね。それはマネージャーとしても知ってるわ。」
「…」
ドーム公演まで1ヶ月切ったのに、こんなところで炎上だとか嫌だよ…
「とりあえずできる限り誤解を解くように説得しておくわね」
「すいません…」
はぁ。とため息を着くとLINEの通知が鳴る。
『僕たちの熱愛報道だって、ファンが怒ってるらしいね?』
『そうなんだよね…付き合ってないのに(笑)』
『まぁ、両思いだけどね。(笑)ドーム公演まであと1ヶ月切ってるのにキツいね…』
『そうなんだよね、うーんどうしよう…!!!』
『千紗なら大丈夫。なにもしてあげられなくてごめんね。』
『ううん、いいの!こっちこそ巻き込んじゃってごめんなさい。』
『僕は全然いいよ、気にしないで。』
優しすぎるなぁ…
どうしようかと迷ってる間私たちの熱愛報道は世間に広まっていく。
夢のドーム公演当日。
いつものどおり朝イチ楽屋に行く。誰もいない。どうなるもんかと1人で準備を進める。
スタッフさんが丁度来てご挨拶をするも不機嫌そうな感じでこっちを見つめる。
怖い、どうしよう…
SNSにも今回の件についてなにも話してないから余計疑われているのだろう。
「そろそろスタンバイおねしゃーす。」
スタッフさんは適当にそう言う。いつもそんなじゃないのに…
「やっほー!みんな!!千紗だよ〜! 」
でも、私は私らしく。いつも通りにみんなに笑顔を振りまく。
客席は満席なのにサイリウムを振ってる人は両手で数えられるくらいしかいない。
「なんで裏切ったんだ!」
「あんなに信用してたのに!!!」
ゴミを投げられたり、罵声を挙げられたりした。
あぁ…あんなにキラキラしてたステージが…
…大丈夫わたしは、このまま歌い続ける!!!
1曲目、2曲目、3曲目、どれも歓声もコールも無く。サイリウムを振ってる姿も見られない、聞こえるのはイヤモニからの音楽と罵声だけ。それでも歌い続けて最後の曲が終わった。
「今日もありがとう!楽しかった!! 」
嘘。楽しかったわけが無い。悲しいよ…
アイドルはただアイドルってだけなのに。恋愛しただけでこんな事になるなんて_
1人が声をあげた。
「アイドルが言ってることなんて嘘ばっかだ!!信用なんてするんじゃなかった!!! 」
“嘘ばっか”。
「違う…」
「違うよ、みんな。」
客席は一気にシンとなり、私の声に注目した。
「確かに、アイドルは嘘を付いて時にはそれは…君たちを傷付けるかも知れない。」
「けど、一時の幸せがその”ウソ”で成り立つなら、私は嘘をつき続けてみんなを笑顔にするよ。」
「それが私の役目であって、生きがいであって_
それに、私はみんなの事を忘れたことなんて、ここ2年1度もないの!!!」
「デビューライブの時、ドーム公演に連れて行ってくれるって言ってくれた時はほんとに幸せだった。」
「そんな幸せを今でも貰ってるけど、それ以上に私はこれまでも、これからもみんなに歌声と優しさと笑顔と幸せを届き続けます。」
「それが、私のエゴであって愛だから。 」
やり切った。と過呼吸になりそうで目の前も真っ暗な私の視界に、1つ光るものが見えた。
それは次々と見えて、そしてついにそれは私の視界を埋めつくした。
あぁ、みんなのサイリウムだったんだ。みんなの気持ちが晴れたんだ。
良かった。これでみんなも幸せで私も幸せ。また1つになれたんだなぁ。
やがてみんなから浴びせられた罵声は優しい言葉へと変わり、
「次のライブも楽しみに待ってる!!」
などの声に変わった。
ネットでは朔間くんとの熱愛報道は取り上げられなくなり、やっと落ち着ける時期になった。
『朔間くん。』
『千紗からLINEなんて珍しいねどうしたの?』
『やっと決断付けたよ。』
『何がだよ(笑)』
『私と付き合ってください。』
『ちょっと待ってて』
『え?』
数分後、返事も無くなったと思ったらインターホンが鳴る。
そこに居たのは朔間くんだった。
「千紗…」
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