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第1話:杭が落ちた日
午前6時42分。
世界は、同時に“それ”を目撃した。
雲を突き破り、空から地へと落ちてきたもの――
それは、蒼白く輝く一本の杭。
まるで“天”から世界を貫くように、無数の光の杭が、世界中の座標に突き刺さった。
東京、ニューヨーク、成都、パリ、モスクワ――
杭は大地に突き立ち、接触した瞬間、全ての兵器が無音で沈黙した。
銃は火を吐かず、ミサイルは途中で凍りつき、軍用AIは停止した。
都市が沈黙し、混乱が広がる中。
その上空、廃ビルの屋上に立つ影があった。
ゼイン。
黒の短髪に、黒とグレーを基調とした戦術コート。
左目の下には、碧族特有の光模様が淡く浮かび、
背中には“演算杭”と呼ばれるフラクタル端末を背負っている。
彼は静かに空を見上げていた。
地平線の彼方、蒼白い杭が地面を突き破るその光景を、ただ見つめながら。
「……やったか」
彼の腕に装着された端末が振動する。
すずかAIの声が冷静に響いた。
「超火力フラクタル《死の杭》、発動を確認。
全地上兵器反応、74%無力化。生体フラクタル反応、全世界で急速上昇中。
これは、新しい戦争です、ゼイン」
「知ってる。だが、始まりはもう済んでる」
ゼインは手のひらを開いた。
そこに展開されたのは、《DEATH_SPIKE(“ALL_COORD”)》と刻まれたフラクタルコード。
それは彼のものではない。
だが確かに、**戦争の始まりを意味する“杭の構文”**だった。
その時、彼の背後に新たな気配が立つ。
短髪、白銀のケープ、鋭くもどこか物悲しげな目。
ナヴィス。
彼女もまた、既に覚醒した碧族であり、
かつて“統制を破った存在”として知られる。
「ゼイン。世界が静かになった。
でも、これは終わりじゃない。まだ“目覚めてない”者たちが動き出す」
ゼインは頷く。
「碧族が、覚醒する。杭に反応して、眠っていた連中が“起動”する。
そうなれば、誰が味方で、誰が敵か――誰もわからなくなる」
すずかAIが追い打ちをかけるように言う。
「碧族の活性反応数、推定で世界人口の3割に達する可能性あり。
そのうち、自律制御可能な者は2%未満です。
多くは“命令依存型”または“記憶欠損型”での覚醒と予測されます」
「だから止める。杭じゃなくて、“その先”をな」
ゼインの瞳に宿るのは、破壊ではなく“選択”の意志だった。
杭が落ちた日。
それは、終わりではなかった。
それは始まり――
命の価値が、フラクタルによって測られる世界の、最初のページだった。