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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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わーーー!!と、どこか聞き慣れた叫びと共に降って来る、それは、通晴《みちはる》の頭の上へ、落ちた。


当たったとたん、ゴン!と、大きな音がして、通晴は、うーん、と唸ると、ばたりと、倒れる。


仰向けに、広縁で倒れる通晴の顔には、タマが、ひどいよー!と、愚痴りながら、へばりついていた。


それでも、動かぬ所を見ると、通晴は、気を失っているようだ。


しかし、紗奈《さな》のことは、離さぬままで、紗奈までも通晴もろとも、転がっていた。


相手が動かぬとみた紗奈は、しっかり回されている通晴の腕をほどき、やっと自由の身になった。


「紗奈!!」


常春《つねはる》が、駆け寄ってきた。


「大丈夫かっ!」


「は、はい、兄様……」


弱々しく返事をする、妹に、大丈夫なわけがない、と、常春は、感じとる。そして、つくづく、自分は役に立たないと、目頭が熱くなった。


「おお!!女童子よー!!無事かっ!!ワシは、今度ばかりは、心配したぞっ!!」


空から、広縁へ、降り立った巨大化している一の姫猫の背中から、飛び降りた髭モジャは、有無を言わさす、紗奈を抱き締めた。


「ちょっ、わっ、臭っっ!!!」


紗奈は、たちまち、いつもの紗奈に、戻り、髭モジャ!!!臭すぎるっ!!!と、髭モジャを押し退けた。


「確かに、何の匂いですか?髭モジャ殿、失礼ですが、かなり、匂います」


常春も、顔をしかめた。


「あー、それが、今日は、色々周り、挙げ句、牛の若に乗って、ついでに、放たれていたほかの牛も捕まえたり、そして、タマが連れて来た、獣に、股がって……。うん、様々な、ケモノの、匂いが、混じってしまったのじゃろう」


と、言う側から、ニャー!と、不機嫌な猫の鳴き声がした。


髭モジャの足元で、いつの間にか、猫の姿に戻った一の姫猫が、フーと、毛を逆撫でている。


「うーん、髭モジャが、ケモノ扱いしたからだ、きっと」


紗奈が言う。


そして。


「そうですっ!!髭モジャ様が、余計なことをおっしゃったから!!もう、ご機嫌取りがたいへんなんだからー」


と、タマが、渋い表情をして、髭モジャへ、抗議した。


それに、と、タマは、何かを言おうとすべく、一度、息を整える。


「ひどいよー!なんで、タマだけが、空から落とされるのぉーー!で、また、頭ぶつけて、痛いんだからーーー!!」


「あー、はいはい、でも、タマのお陰で、物凄く助かったし、悪党退治もできたんだから……」


紗奈のご機嫌取りに、タマが、反応した。


「上野様?!悪党退治もできた??」


うん、ほら、と、タマが、乗っかっている通晴を、紗奈が指差した。


「悪党退治?!ダメですっ!!こんなことで、退治にはいりますかっ!」


言うと、タマは、被さっている通晴の顔の上で、モゾモゾした。


「……タマ、もしかして……」


「ふふふ、上野様。タマが、本当の、退治というものをお見せいたしましょうぞ」


またまた、つぶらな瞳を細めたタマは、意地悪く口角を上げた。


そして……。


ブッと、例の音がする。


「く、臭っ!!!」


皆、一斉に叫んだ。


つんと、つんと、くるわっ!!と、守孝は、袖で目頭を押さえている。


それを見て、髭モジャは、膝をつくと、守孝へ、頭を下げる。


「中将様。道々、つたなくはありますが、大方の事情は、タマより、聞いております。どうぞ、これよりは、お静かにして頂けませぬか?」


髭モジャの、進言に、守孝は、眉をしかめた。一介の下男が、意見することかとばかりに……。


険悪な空気が流れるが、髭モジャは、お構いなしだった。


「これより、こちらの御屋敷に潜む悪党を、捕らえます。どうぞ、今までのことは無かったことに、そして、これからも……」


守孝は、いっそう、不快感をあらわにすると、髭モジャへ、嫌みな口調で、いい放つ。


「じゃが、お前は、髭モジャであろう?いつまで、検非違使ぶっておるのじゃ」


そして、ホホホと、見下すかのように高笑う。


「ええ、ええ、確かに、ワシは、一介の髭モジャじゃ。あんたらとは、違うわっ。けどのぉ、本物の検非違使が、来たらどうなる?まあ、あんたは、身分があるから、見逃してもらえるが、ゆえに、大人しくしとけと言う話じゃ、そんなに、おなごみたいに、笑うことか?」


髭モジャも、頭に来たのか、さらっと、守孝へ言い返した。


「髭モジャ殿!」


常春が、これ以上こじれてはと、間に入るが……。


「常春殿よ、まあ、みておれ、ホホホも、沫を食うことになる」


髭モジャには、なにか、勝算があるようで、これまた、あくどい笑みを浮かべた。


「……タマと、似たり寄ったりじゃない……」


紗奈の呟きに、


「いや、タマは、せいぜい、ひどいよー!と、食ってかかる程度だろ?髭モジャ殿は、かなり、踏み込んでおられたぞ?」


と、常春が、返している。


気に食わないのは、守孝で、


「な、何を、ごじゃごじゃと!こざかしい!!」


言うなり、懐に差し込んでいた、扇を取りだすと、紗奈目掛けて、振り下ろす。


が、すんでのところで、守孝が、ぎゃーー!と、悲鳴を上げた。


同時に、ニャー!と、一の姫猫が鳴いた。


「守孝様!私は、何も、あなたへは言ってないでしょ!それなのに、なんですかっ!!」


とばっちり以上の目にあいかけ、紗奈は、守孝を叱咤した。


「いい加減に、なさいませ!!」


いつまでも、怒鳴る妹を、常春が、なだめた。


「まあ、まあ、紗奈、姫猫様のお陰で、大事はなかったのだ。許せとは、言わないが、ほおっておきなさい」


見れば、守孝は、姫猫に、頬をひっかかれ、さらに、その傷口を姫猫が、ペロペロ舐めていた。


守孝は、ひいひいと、泣きそうな声を上げて、猫を何とかしろと、姫猫を、振り払おうとしている。


そのたびに、ぎゃー、と、守孝は、叫ぶ。


守孝の首もとへ、姫猫が爪を立てているのだ。むろん、頬をペロペロ舐めながら……。


「あ、猫ちゃん!!私の為に?!」


紗奈は、繰り広げられている光景に、笑いを噛み締めながら、一の姫猫に、礼を言った。


それを受け、姫猫は、意地悪く目を細めると、ニヤリと口角を上げた。

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