テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
桜城
308
#恋愛
ばたっちゅ
20,038
#ファンタジー
comi
4,692
第四章 黄金の太陽
第一話 陽だまりの皇子 前編
ソレイユ帝国は、今日も眩しく輝いていた。
大陸の中心、太陽神の加護を受けた国。
白亜の城。
黄金の旗。
石畳を照らす陽光。
街には笑い声が溢れ、市場は賑わい、噴水広場では子ども達が走り回っている。
人々は口々に言う。
――ソレイユ帝国は平和だ。
――太陽神に守られた国だから。
――“あの方々”が居るから。
「アクセル殿下ー!!」
城下から黄色い歓声が飛ぶ。
白馬へ跨った青年が、苦笑混じりに手を振った。
金色の髪。
陽光を溶かしたような黄金の瞳。
端正な顔立ち。
長身で、均整の取れた身体。
白を基調とした皇族衣装は、彼によく似合っていた。
その姿は、まるで絵画みたいだった。
「相変わらず人気ですね」
隣を歩く騎士が呆れたように笑う。
アクセルは肩を竦めた。
「俺は普通に歩いてるだけなんだけどな」
「その“普通”が眩しいんですよ」
「何だそれ」
周囲から笑いが起きる。
アクセルは誰に対しても気さくだった。
騎士にも。
侍女にも。
街の子どもにも。
だから人は自然と惹かれる。
“理想の皇子”。
そう呼ばれる理由を、本人だけが分かっていない。
「兄上ー!」
少し高い声で呼ばれ、振り返る。
そこには二人の少年がいた。
同じ金髪。
けれどまだ幼さの残る顔立ち。
第二皇子と第三皇子だった。
「サボりか?」
アクセルが笑う。
「違います!」
「剣術訓練終わりました!」
弟達が口々に反論する。
「ほんとか?」
「ほんとです!!」
「先生にも褒められました!」
アクセルは目を細めた。
「じゃあご褒美がいるな」
二人の顔がぱっと明るくなる。
「今夜一緒にカードゲームでもするか!」
「やった!!」
弟達は本当に嬉しそうだった。
その姿を見て、騎士達が微笑む。
平和な光景。
温かな日常。
ソレイユ帝国は豊かで、人々の笑顔に満ちていた。
そしてアクセルは、その中心にいる。
誰もが憧れる皇子。
誰もが信頼する次代の皇帝。
それは誇らしいことのはずだった。
けれどふと、アクセルの視線が遠くの空へ向く。
青空。
流れる雲。
果ての見えない地平線。
なぜだか、胸の奥が僅かにざわついた。
最近ずっとそうだ。
理由は分からない。
何かが起きているわけでもない。
けれど、心のどこかが落ち着かない。
「……アクセル殿下?」
騎士が不思議そうに声を掛ける。
アクセルはすぐに笑った。
「いや、何でもない」
その笑顔は、いつも通りだった。
誰も気づかない。
胸の奥に生まれた、小さな違和感に。
その夜。
アクセルは一人、城の高台へ立っていた。
帝都の夜景が広がっている。
無数の灯り。
人々の笑い声。
賑やかな街並み。
守るべきもの。
本来なら、目の前のそれだけで十分なはずだった。
それなのに、胸の奥が落ち着かない。
何かを忘れているような。
何かを待っているような。
理由は分からない。
足りないものなど、何一つないはずなのに。
「……何なんだろうな」
ぽつりと呟く。
夜風が、金色の髪を揺らした。
アクセルは静かに夜空を見上げる。
無数の星々。
その中で、一際大きな月が静かに輝いていた。
胸の奥のざわめきは、いつまでも消えなかった。
コメント
1件
おお、第30話「陽だまりの皇子 前編」読んだわ! ソレイユ帝国の綺麗な情景と、アクセル皇子の“理想像”とのギャップがすごく染みた……。弟たちとのカードゲームの約束とか、騎士との軽い掛け合いとか、めっちゃ平和なんだけど、その裏で胸の奥がざわつく感じ、めちゃくちゃ気になる。何かを待ってるような、忘れてるような、あの夜の高台のシーンが特に好き。次が楽しみすぎる🔥