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俺のスーツの肘がとうとう擦り切れて穴が開いた。スーツを買おうか悩んだが踏ん切りがつかない。週一で事務所に行くだけだし、それだってもうスーツで行く必要はないんじゃないだろうか。少し寒くなってきたから俺は上着と兼ねてメルカリでアウトドア用のゴアテックのマウンテンパーカーを買った。保温性は抜群だし、防水透湿性に優れている。しかもかなり安く買えた。俺はワイシャツとスラックスの上にマウンテンパーカーを羽織ることにした。石川はそれを見て爆笑してた。
「それはねえわ。だからスーツ買ってやるって」そう言われたけど、やっぱり断った。ヤクザと分かってからは逆にどんなスーツを買えばいいか分からなくなったからだ。石川はお洒落なイタリアンマフィアか流行りのものなのかみたいな微妙なラインで格好いい。春日さんはいかにもってダブルのスーツだし、井上さんは殆ど見たことないけどそれでも何かいかにもって感じだった。石川ほどお洒落になれる気もしないし、いかにもってのも恥ずかしい。俺はヤクザにもなりきれない。だったらもうスーツなんて着なくていいんじゃないかって考えたんだ。親父は「なんだ、そのジャンパーは?」って呆れてたけど。ただのジャンパーじゃないんだって。ゴアテックだぞ。
春日さんと井上さんは俺の姿を見て驚いていた。石川が席を外したら春日さんが「おい、それはねえんじゃねえの」って言ってきた。井上さんは「いかにもなサラリーマンみてえ」と腹を抱えて笑っていた。だからゴアテックなんだって。俺が「有名なアウトドアブランドのいいヤツなんですってば」と反論すると、春日さんは「教員みてえだぞ」って言ってきた。別にカタギに見える分には問題ないからいいや。
生活はだいぶ余裕が出てきた。やはり安定的に多めの金額を貰えるというのは心が安定する。だからといって明日は分からない不安定な稼業だ。貯金は必須だろう。基本的には無駄遣いはしない。酒も飲まなきゃいられないわけじゃないし、作業場にずっとこもっているから基本自炊だ。外食は石川としか行かないし、そうすると必ず奢ってくれた。
そこで俺は今さらだけど〈青春〉を取り戻したいなと思った。青春といえば恋愛。つまり俺だってそういうことがしたいって余裕が出てきた。
石川にそう話すと何故か風俗を紹介された。
「キャバクラなんかに行ったら碧みたいな免疫のないヤツはケツの毛まで毟り取られるから」と真顔で行くのを止められた。そこで紹介されたのが風俗だった。
石川の紹介のおかげか店員はもの凄く丁寧だった。
「好みの女の子は?」そう聞かれた。好み? 「挨拶ができて介護とか嫌がらない子」と答えたら店員の笑顔が張り付いていた。何か変なことを言っただろうか。
結局、紹介された子を案内して貰ったけれど……正直、よく分からなかった。何というか、それじゃない感というか。
三回ほど通って店員のオススメの女の子に入ってみたけれど、どうもピンとこなかった。
そういえばもしかしたら俺はホモかもしれないと思い始めた。嘘から出たまことってこともある。店員に相談すると真顔で頷かれた。そして「普段は紹介したりしないんすけど」と言いながら、男性を派遣してくれる風俗の事務所に連れて行ってくれた。そこの店の店員もいい人でいろいろ聞いてくれた。「じゃあまずはタチでいってみますか」って言ってくれたけど意味は分からなかったけどな。結局試してみたけどどうもピンとこなかった。男が駄目ってわけじゃなかったけど結局なんか痛そうな気がして最後までは出来なかった。痛そうなのは可哀想で無理だ。そう伝えたら「だったらもしかしたらコッチかも」と言って今度は別な店に案内してくれた。とりあえず風俗の店員は親切なんだなと思った。