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 視界には夕日に照らされた車両があるだけだ。

「何?」

 もう一度ケイを見ると、ケイは呆然とした様子で俺達が乗りこんだ車両へと戻って行く。

「ハルト。後部車両が……ある」

「何言ってんだよ。いつもの場所から乗ったんだから、最後尾に乗ったに決まってんだろ」

 俺達はいつも同じ場所から電車に乗る。4両編成のローカル電車。その最後尾が定位置だ。

今日だってそう。いつもと変わらない場所から乗ったのだから、俺達が居た車両は最後尾のはず。

「でも」

 ケイが指差した先を見て、俺もごくりと 喉(のど)を鳴らしてしまった。

 最後尾の車両ならばワンマン運転用の料金表と今は使われていない支払いブースがあるはずだ。

 だが、そこには車両と車両を繋(つな)ぐ扉があるだけだった。そしてその向こう側にもオレンジ色の光が見える。

 間違えて乗ったのだろうか。

 ケイは軽く走ってドアに辿り着き、 躊躇(ためら)い無くドアを開けた。

 追いついて、ケイのブレザーの肩越しに俺もケイと同じ方向を覗き込む。

「何これ」

 ケイはそう呟いて、何かに取り憑(つ)かれたように歩を進めた。

 俺はその車両の内装に目を瞠(みは)る。

「なあ。ちょっと待て。ちょっと待てって。おかしいだろ明らかに。この路線に対面式の座席なんて」

 そこには二人掛けのシートが対面する形で配置されたボックス席がずらりと並んでいた。

 ケイは、俺の方を振り返り少し上気した顔で一つ深呼吸する。

「変だよね」

「変だろ。間違えて乗っちまったのかな」

 ここにも乗客の姿は見えない。乗り込んだときから無人だったのだろうか。

 確認しておけば良かったと、心底後悔した。

 何かがおかしい。

 無人の車両も、無いはずの後部車両も。

「とりあえずここが最後尾みたいだな」

 車両の奥には料金ブースと、車掌室へのドアが見える。

 一体どうなっているのだろう。間違えて乗り込んだだけなのだろうか。偶々(たまたま)、普段とは違う車両が使われているだけなのだろうか。

 そこまで思い至って、無意識に背筋が震えた。

――次の駅まで、時間がかかり過ぎてはいないだろうか。

「前の方も確認してみようか」

 ケイが落ちついた声でそう言った。

 俺達が最初に乗り込んだ車両とその前後の1両ずつは、無人車両だ。

 俺達は諦(あきら)めに近い息を吐いてから、さらに前の車両に続くドアに近づいた。

 その時、耳が誰かの話し声を拾った。

 ケイを見れば、同じように目を丸くしている。ケイにも聞こえたようだ。

 安堵(あんど)する気持ちがある一方で、どういった人がいるのだろうかと言う点も気になる。

 俺達は顔を見合わせてから、いつでも走りだせるように僅(わず)かに重心を下げる。

 俺は、小さく息を吐いてから前方車両に続くドアを開けた。

 そこには3人の男がいた。

 スーツ姿の男が腕を組んで通路の中央に立ち、進行方向左側の座席には栗色の髪をした男が。反対側の座席には人工的な金髪の男がだらしなく腰かけている。

「……なるほど」

 何がなるほどなのかわからないが、スーツ姿の男が何度も頷いた。

「確かに7人、乗っているようだな」

「だーかーらー。さっきから言ってんじゃん。一人欠けたら、一人乗るんだよ。さっき二人居なくなったから二人乗った」

 大きな声で言ったのは金髪の男だ。

「すぐにこの状況に適応しろと言うのが無理な話だろう。まずは状況を把握(はあく)して、自分の中で折り合いを」

「はいはいはいはい。じゃあ、さっさと折り目焼き目でも何でも付けてくれよ。あんたの石頭はできのいいがらくたにしかなんねえからな、ここじゃ」

 金髪の男はそう言って乱暴に両足を床に叩きつけた。ピカピカに光る派手なスニーカーがキュっと音を立てる。男はそのまま立ち上がり、前傾姿勢(ぜんけいしせい)でガニ股のままこちらへ近づいてきた。

「僕ちゃん達。いらっしゃい。悪夢の電車にようこそ―ってな」

 男はやけに顔を近づけ、眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せて俺達を睨(にら)みつけた。

「のっぽと学ランの登場―! 優しい俺がみんなを紹介するよー。あの理屈っぽい仁王立ち男がスーツ。あっちがオカマ。んで俺はトシ。トシさんって呼べよ」

 それじゃお前は金髪じゃないかと思ったが、トシさんとやらは俺を指して「学ラン」といい、ケイを指して「のっぽ」と言った。

「あれ、お気に召さない? 学ランじゃないならアレだな、童貞君になるけど? ん? 卒業済みかな」

 俺が思わず睨むと、金髪はにやにや笑いながら前へと歩いて行った。そしてみんなの中央に立つと

「そしてここが悪夢の電車! 乗客はいつだって7人ぽっち。途中下車は死と同義(どうぎ)」

 大仰(おおぎょう)に両手を開いて高らかに宣言する。

 ケイがその様子に俺の方に顔を寄せて

「同義って言葉、知ってそうにはみえなかったけどね」

 と、耳打ちした。

 聞こえたのだろうか。いや、聞こえなくてもケイが何か言ったことには気がついたのだろう。金髪は再びずんずんとこちらに歩いて来て、ケイの鼻先にピッっと右手の人さし指を付きつけた。

「そんで、お前の真後ろに居るのが、こわーいこわーい車掌さん」

 俺達はそのセリフに同時に後ろを振り返った。

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すこ

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