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肉の奥、骨の髄
魂の芯から、何かが焼け付くような
内側から細胞一つ一つを喰い荒らしていく悍ましい熱と痒み。
魔女化の代償。
人間であることを止めるための、終わりの始まり。
「……時間が無い。早く仕留めないと、私が私でなくなる」
私は忌々しげに、自分に言い聞かせるように独りごちた。
蝕まれていく恐怖を怒りに変え、今度こそ確実に息の根を止めるべく、這いつくばる父へ接近した。
父は溢れ出る血を拭うこともせず
死を悟ったかのような、それでいて勝利を確信したかのような不敵な笑みを浮かべていた。
「笑っていられるのも今のうちよ」
父の挑発を、私は鋼の意志で無視した。
そして、その頭蓋に、熱を帯びた銃口を力任せに押し当てた。
これで全てが終わる。
母の仇。ダイキリの無念。
そして、私自身の呪われた運命。
引き金に指をかけ、力を込める。
その、刹那だった。
ガクッ!
突如として、全身から全ての力が、まるで栓を抜いたかのように流れ出した。
糸が切れた操り人形のように、私の体は膝から崩れ落ちる。
(っ…?!体が……動かない……?)
右手から力が抜け、使い慣れた相棒であるリボルバーが、虚しく湿った土の上に落下する。
重い金属音が響く中、私は大地に膝をつき、そのまま顔を泥に伏せてしまった。
自由が利かない。指一本、瞼一つ動かせない。
自分の肉体でありながら、何者かに支配権を奪われたような、あまりにも不気味な隔絶感。
否応なく理解せざるを得なかった。
限界など、とっくに超えていたのだ。
神にも等しい絶大な力の代償は、私の脆弱な「人間」としての器を粉々に砕くほど大きすぎた。
「ぅ……ぐあああああぁぁぁぁぁぁッッ!!」
次の瞬間、全身を内側から掻き毟るような、筆舌に尽くしがたい激痛が私を襲った。
体内で捌け口を失った膨大な魔力が、行き場を求めて暴走し始める。
内臓を引き裂き、骨を細かく砕き、血管を千切り、神経を一本ずつ焼き切っていく。
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
「…が、はっ……あ…ッ、ぁぁぁあああああああああああああああああああッッッ!!!!」
もはや言葉にならない、断末魔のような絶叫が喉から迸る。
理性なんてものは、この痛みの激流の中では木の葉よりも脆かった。
この世のものとは思えない苦悶に苛まれ、私の意識の核は、音を立てて崩壊していった。
「クックック……やはり、それが魔女化の末路か。実に美しい崩壊だ」
遠くで父の嘲笑が聞こえた気がしたが、もはや反応する余裕など一分もない。
脳裏には、名状しがたい悪魔のような影が蠢き
崩れた自我の隙間を埋め尽くそうと黒い手を伸ばしてくる。
(……嫌だ……まだ、死ねない……殺さなきゃ……)
かろうじて残っている意識の残滓の中で、必死に闇に抗おうとする。
けれど、それは荒れ狂う嵐の海で藁を掴むような、あまりにも虚しい抵抗だった。
抗えど、抗えど。
エカテリーナとしての意識は、底なしの深い闇の中へとゆっくりと沈んでいく。
世界が遠のく。
音も、熱も、憎しみさえもが消えていく。
そして、私は
静寂という名の闇の中に、飲み込まれていった。