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僕と付き合うだなんて15年は早いと思うよ―
そうそう、あいつから伝言だけどさあ―
ドギマギするのは嫌だから―
――っ
脊髄を撫で上げられるような悪寒に、私は跳び起きた。
汗が酷い。寝間着が身体にぴったりと張り付いている。
それくらい、あれは恐ろしい夢だった。
おぞましい悪夢であると同時に、それは現実の話でもあった。
たった数ヶ月の、長い時間をかけた。私の長く甘い悪夢。
まさか、今思い出すとは。私は汗をぬぐった。
悪夢を脳の片隅に追いやって再び眠ろうとするが、私の脳味噌は過去の情景を勝手に再生し始めた。
思い出したくもない悪夢の始まり…。
もとい、私が犯した大罪を。
小学生の頃、よくあっただろう。好きな人を当てるという、幼稚で、それでいて、酷く残酷な遊びが。
私はそれの被害者だった。そしてあろうことか、私はそれに乗ってしまった。
理由は覚えていないが、最後には、思い人を告白した記憶だけが残っている。
…そして、この遊び以前に、小学生とはとても残酷なものだ。
あろうことかその遊びの参加者は、私の思い人を当の本人に語った。
それを語られた私の思い人は、私に言った。
「僕と付き合うだなんて15年は早いと思うよ」
その瞬間、目の前が暗くなったのは、私の記憶の奥深くに根付いた。
けれども、私は思い人を諦めきれなかった。
無理だと分かっていても、休み時間をともに過ごしたり、日常の中でアピールを続けた。
そんな日常を過ごしていた時、ふとした瞬間周囲を見てみれば、私たちはなぜだか付き合っていることになっていた。
…いや、されていた。と言うべきだろうか。
私も思い人も、お互いに告白なんて気恥ずかしいものはしていない。それどころか、私は数年前に既に玉砕しているはずなのだ。
だが、私のアピールや、それに対する思い人の反応から、周囲の人間たちが、私たちは交際している。という誤認をし、それを立ちどころに広めてしまったらしかった。
そして、あろうことか、思い人もそれに乗ってしまったのだ。
本来ならば、すぐにそれは誤解であるとし、事実を提示するべきだったのだろう。
けれども私は、既に振られたはずの思い人と交際できる。という甘い言葉に身を引かれ、その誤解を解くことはなかった。
思えば、ここで誤解を解いていれば、悪夢はここで終わっており、ただの笑い話で済んでいたのだろう。
しかし、私は誤解を解かなかった。
故に悪夢は私の背についてきたのだ。
時は過ぎ、中学時代。思い人は受験に合格し、私とは別の道を歩むことになった。
当時の私には、携帯電話などという便利なものはなく、持てる通信技術と言ったら文通程度だった。
連絡の取りようもなかったため、私は次第に思い人の事を忘れた。
そして、中学一年目も折り返しに差し掛かった頃。私は不登校だったクラスメイトの悪口を思いがけずして聞いてしまった。
なんでも、ずる休みをしている。だの、本当は元気なくせに、なぜ学校に来ないんだ。とのことだった。
そこで私の取るべき反応は、恐らく聞かなかったことにする。だったと思う。
けれども、私はそうしなかった。正義感だけは人一倍にあると過信していた私は、その悪口を聞いて以降、その者に優しく接するようになった。
最初はドギマギしていた私たちだったがそれもやがてなくなり、私たちは自他ともに認める親友になった。
その頃からだろうか。親友の様子に違和感を覚えるようになった。
二人で遊びに行ったりすると、恥ずかしがるような仕草をすることが増えてきた。
しかし、私はそれを対して気にはかけなかった。
ただ、私たちが異性であるからだろう。そう決めつけた。
そして、学年が一つ上がったその直後。
私は親友から告白を受けた。
頭が真っ白になった。
直前まで親友だと思っていた者が、実は自分の事が好きだった。
そんなこと、1ミリたりとも思っていなかったからだ。
それから私は、親友に話を聞いた。
実のところ、私が親友を助けた少し後から、親友は私へ恋心を抱いていたらしい。
けれども、私の間にあった噂。それのせいで、親友は恋心を隠さずを得なかったらしい。
その噂とはもちろん、私には恋人がいる。という噂だ。
…小学生の頃の思い人。そいつと私が、未だに付き合っている。そんな噂が私にはあったのだ。
解かなかった誤解。それが、やはり尾を引いた。
………そして、私はまた判断を誤った。
ここで、噂は誤解だと言い、付き合えばよかった。
けれども、告白された。という事実に驚いてしまった私は、誤解を解かなかった。
それどころか、返事は待ってくれ。そんなくだらないセリフを吐いてしまったのだ。
それから、再び時は流れた。
私は親友の告白を受けて以来、どうにかして親友を好きになろうとした。
遊ぶ時間や日程を増やし、距離を縮め…。
そして、最後には親友の事が好きになった。
告白の返事をいつ返そう。そう考えていた時期、親友から連絡が来なくなった。
学校の端末を使い、不正に連絡を取り合っていた私たちだったが、ある日からぷっつりと連絡が来なくなったのだ。
しかも、夏休み中ずっと。
私の中には、寂しさと心配が同居し、心臓を傷めつつも、夏休み明けの学校へ向かった。
しかし、親友は数日が経っても学校には訪れなかった。
その時、私と親友の共通の友人から、こんなことを言われた。
そうそう、あいつからの伝言だけどさ、もうお前の事嫌いだってさ。
背筋が凍った。
確かに、告白の返事を長引かせすぎた自覚はあった。
だが、逆に言えばそれだけだ。だというのになぜ?
そんな感情に我を忘れた私は、私たちの関係を知っていた周囲の人間に聞いた。親友に何があったのか。と。
すると彼らは、私を蔑みながら答えてくれた。
内容は省くが、分かりやすくすると、私に本当は恋人なんていないことを知ってしまったらしい。
恋人がいないなら、なんでこんなに返事を長引かせるんだ。
そう考えたらしい親友は、私の元を離れたのだ。
私は絶望のどん底にあった。
何故過去に思い人との関係をきちんとしておかなかったのか。
しかし、どれだけ感情が高ぶろうとも、私にできることは一つもなかった。
全て、私の責任なのだから。
親友が私を好きになったことも、私から離れたことも。なに一つだって悪くない。
悪いのは、全部私なのだ。
そんな自己嫌悪から、残りの中学生生活は、とても穏便に過ごした。
人間関係は広げず、真に仲のいい人間は2人ほど。
その状況こそが、私を罰せる唯一の策だと思った。
高校受験は無事成功し、自分用の携帯電話を買ってもらった頃。
ふと、メッセージアプリを開いたとき、思い人から連絡が来ていた。
自分から友達登録した覚えはなかった。
小学校からの友達に聞いたのだろうと勝手に納得し、私は恐る恐るアプリを開いた。
そこにあった文言は、たったの一文だけ。
「僕たちって、まだ付き合ってるの?」
思わず携帯を投げ捨てたくなった。
過去の恋愛を乗り越え、ようやく心機一転、高校生活頑張ろう。
そんな意気込みを、そのメッセージは一瞬でぶち壊しにした。
無視したかった。知らない。どうでもいい。
そんな免罪符を掲げて、逃げてしまいたかった。
しかし、それでは過去とは変わらない。
私はメッセージを送り返した。
内容は、「もう何年も会っていないからわからない」
考えに考えたくせに、最後に出てきた死ぬほど陳腐な文章に吐き気がした。
既読はすぐについた。返事もすぐに来た。
「じゃあ、ドギマギすんのも嫌だし、別れよ」
真っ先に、死ね。という二文字が脳内を満たした。
最初っから付き合ってないだろうが。
静かに怒りが湧いた。
………私は、それ以降。恋愛というものがよく分からなくなった。
今も、誰かを好きになる。その感情が分からない。
…嫌なことを思い出した。
布団を手繰り寄せて、頭まですっぽりと覆う。
もう寝よう。明日も早い。課題もやらなきゃ…。
私は眠りについた。
Hp2
1,080
#独占欲
コメント
1件
うわ…めっちゃ重い…読んでて胸がぎゅーってなった。 「誤解」が積み重なって、どんどん取り返しつかなくなっていく感じ、すごくリアルで苦しかった。 特に「僕と付き合うだなんて15年は早いと思うよ」のセリフ、小学生の頃に刺さったまま今も残ってるんだなって伝わってきた。 「自分が全部悪い」って思う主人公の自罰的な感じ、読んでて自分の過去も思い出しそうになったよ…。 まだ続きがあるなら、ちゃんと読みたい。でもちょっと心の準備してからにするね。