季節が過ぎるのは本当にあっという間で、気がついたら蓮が入院してから1ヶ月が過ぎていた。
蓮も病院での暮らしに慣れてきたようで、面会に行くといつも嬉しそうに今日の出来事などを話してくれる。
今日も面会の日だ。
外は肌寒いので薄手のストールを巻いて病院へ向かった。
いつもの看護師に案内されて、病室のドアの前に立つ。
すると、何やら向こうからスーツ姿の男が走ってきた。すかさず佐久間が男を止めて注意する。
🩷ちょっと!病院では走らないでください!
? いや!ちょっと会いたい人っていうか、会わないとあかん人がおるんねん!
看護師に注意された男は、コテコテの関西弁を焦ったように喋った。
🩷受付は済ませたんですか?誰かわからない人なんて通しません!
? それは、えっと…
男が口ごもると、佐久間は頭にきたのか、男の首根っこを掴んで外へ引っ張りだそうとした。
すると、聞き馴染みのある声が響いた。
🖤あれ?向井さん?
騒がしい廊下が気になったのか、蓮が病室から出できていた。
🧡あっ!目黒くん!ほんまにおったんや…
スーツの男は、ほっとしたような、少し悲しそうな顔をして蓮に駆け寄った。
どうやら二人は顔見知りらしい。
蓮は入院する1週間前に、頑張っていた仕事を辞めている。辞職理由は本人がみんなに伝えたくない、と言っていたので限られた人しか知らない。
この男は口調からして蓮の上司といったところだろうか。
💚蓮と、知り合いですか?
🧡あ、僕は向井っていいます!目黒くんと同じ会社勤めてて、急に辞めるって目黒くんが言うもんで心配で…
🖤それはご心配をかけてしまい、すみませんでした。でも、どうしてここがわかったんですか?
🧡調べたんや。いろんな人に聞き込みしたりして…
🩷いやストーカーかよ。
🧡それは言わんといてくれやー!あんなに仲良くしてくれたんやから、心配くらいするやろ…
確かに周りから見れば、蓮の辞職はあまりにも急だったのだろう。蓮は仕事仲間との関係を大切にしていて、頻繁に飲み会やランチに出掛けていた。
この人も蓮が大切にしていた仲間のひとりなのかもな、と思った。
💚よかったら、面会していきませんか?
🧡へ?
微笑みかけた俺に、向井は驚いたようにすっとんきょうな声を上げた。気にせずに蓮と目を合わせて続ける。
💚せっかくここまで来てくれたんだから。蓮、いいよね?
🖤うん。もちろん!
🧡ほんまに!ありがとうごさいます!!
(病室にて)
🧡ほら!この写真とか、ええ笑顔やろ!
💚ほんとだ~!蓮かーわいい~♡
🖤もう…!恥ずかしいって…亮平…//
向井と名乗った蓮の職場の上司は、俺の知らない職場での出来事や、蓮の写真を見せてくれた。
俺もすっかりノリノリになってしまっている。
💛ちょっとみなさん、病室ではお静かに。
🧡はい、すんません
また注意されてしまった向井は明らかにしょげている。
🧡あ、せや。
ふと向井が、何か思い出したのか、自分のバッグから1枚のハンカチを取り出した。
💚あれ、これって…
そのハンカチには見覚えがあった。俺が蓮に、付き合った記念日といって渡したものだった。
🧡ちょっと前に目黒くんにハンカチ貸してもらって、返そうと思って出勤したら、目黒くんもうおらんかったから…借りパクしてもうてた。
🖤覚えててくれたんですね… まさかこれのためにここまで…?
🧡もちろん!大事そうにしてたんやもん。会えて良かったわ。
向井は人懐っこい笑顔を浮かべて、優しく蓮の肩を叩いた。時計を確認して、彼は名残惜しそうに俺たちを見た。
🧡残念やな。もう行かなあかんわ。
🖤そうなんですね。今日は来てくださり、ありがとうごさいました。
🧡いやいや!俺が押し掛けたんやから。邪魔したな。
🖤いえ…
🧡あと目黒くん、絶対無理せんようにな。もう1人の体やないんやから。また来るから、顔見してほしいわ。
俺と蓮の顔を交互に見比べて、向井は真剣な表情で言った。
💚向井さん、蓮は…
俺が蓮の病状を告白しようとすると、向井は遮るようにして、喋りだした。
🧡ごめん、俺もう知っとるんねん。近所のおばちゃんから聞いて。
🧡でも、俺は目黒くんに生きててほしい。元気になったら、また飲みに行こうや。
🖤…はい!
そう言って向井は病室を後にした。
なんで住所を知ってるのか、という俺の素朴な疑問は声には出さないでおいた。
静かになった病室に、蓮の声が響いた。
🖤俺、やっぱり生きててよかった。
独り言にも聞こえたその言葉は、どこか嬉しげで、強かで、でも寂しそうだった。
💚うん。俺、蓮は愛されてるんだってことがよく分かったよ。
🖤俺が愛してるのは亮平だけだよ?
💚そういうことじゃないってば 笑
少しでも長く、蓮が元気で居られますように、と俺は咳の増えた病室の中で人知れず願った。
Next・第4話 怖いよ
コメント
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あばばばば((((初コメ失礼します!もう…🖤💚が🖤💚してますねっ!!最高に尊いです…(*ノェノ)キャー

続き待ってます🖤💚