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「寒っ……」
「……ほら、これ」
五木が私に差し出したのは、自分が着ていたジャケットだった。
「え、いいよ!五木の方が寒いでしょ」
「いいから着てろ。」
「でも…っ」
「つべこべ言うな、もう日も落ちてくる頃だ」
そう言って無理やり肩にジャケットをかけられる。
「あ、ありがとう」
小さな声でお礼を言うと、五木は少し照れくさそうに目をそらした。
「…風邪ひかれたら面倒だしな」
その不器用な優しさに、なんだか胸がじんわりと温かくなった。
「全く、一言余計なんだから…」
少し照れ隠し気味の五木の横顔を見つめながら、私はそっと心の中で呟く。
──五木の隣にいれるって、こんなに暖かいことだったんだなって。
翌週
「それで?その後は普通に駅前で別れたと?…はあ~~本当に五木くんって、雫に惚れてるね〜」
私はいつものように購買近くの自販機で缶のココアを買って、美羽の手には白い湯気を立てるブラックコーヒー。
「いや、普通だって…!」
近くの椅子に座って、二人で恋バナをしていた。
「ふーん?てか結局その後はどうなのよ?なにか進展ぐらいないのー?」
「ないない、ていうかそんなに急ぐものでもないでしょ!」
私は顔を俯かせた。
「えー、やっぱ人それぞれってやつぅ?五木くん手早いと思ってたけど」
思わず苦笑いを浮かべながら、私も缶の縁に口をつける。
「で?次はどこ行くの?」
「…いや、まだ決めてないけど…」
そんなとき「おい」っと聞きなれた声が耳に入った。
「っ、わ!びっくりした……」
いつのまにか近くにいたのは、まさに今話題に上がっていた人物で。
「お前さ、来月の24空けとけよ」
「え?あ、うん」
「ん。じゃあまた連絡するわ」
五木はそう言うと、私たちに背を向けてその場を後にした。
「もーなになに!?今の絶対クリスマスのお誘いじゃ~ん!」
美羽が愉快に言う。
「だ、だと思う…!けど、私が25日に補習入ってるの知ってたのかなアイツ…」
「え?まじ?理解度神じゃん。それでわざわざ24日空けとけなんて…理想の彼氏すぎるって!!」
そのとき、五木が立ち去る前に私に見せた笑顔を思い出して、思わず頬が熱くなる。
私は紅潮した顔を隠すために、ココアを一気に飲み干した。
翌日
教室の片隅で、私は机に顔を突っ伏していた。
五木が誘ってくれたということもあるが、美羽の言葉が頭の中でぐるぐるとリフレインして、どうにも落ち着かない。
「なにかあるかも、か……」
少し顔を上げて、どこかに行っているのか、空席になっている五木の座席に目をやる。
24日。
まだ少し先のはずなのに、五木が言ったその言葉がずっと耳から離れない。
再び私は机に腕を置いて枕替わりにしては、そこに顔を埋めた。
「おい、マヌケ面」
小生意気な口調に思わず顔を上げて、私はその声の主をキッと睨んだ。
「なによ、人の顔見て失礼ね」
「お前今日の昼ヒマか?」
五木は私の前の席に座ると、背もたれを跨ぐように座って足を組んだ。
「昼?特に予定もないけど…」
思わず声量が落ちる私に、五木は口元を緩めた。
「じゃあ屋上集合な」
「え?」
「いーから」
そう言うと、五木は早々に教室を出ていった。
「え、ちょっと……!」
取り残された私は一人呆然としていた。
そして昼休み。
五木に言われるがまま屋上に上がると、すでにそこに五木の姿があった。
「来たか」
フェンスに背を預けて立ちながら、なんとも可愛らしいいちごミルクのパックを片手にした五木が私を迎えた。
付近のベンチに五木と横に並ぶ形で腰掛けると、早速弁当を取り出し、パカッとあけてみせる。
私の弁当は、ミニハンバーグやタコさんウィンナーに卵焼きなど定番のおかずが並んでいて、我ながらなかなかの出来栄えだった。
まあ、ほぼ卵焼き以外は冷凍食品なのだけど。
そんな私を横目に見る五木の手元には、購買の焼きそばパンがあった。
「五木っていっつもお昼パンじゃない?」
「まあな、こっちのが美味ぇし楽だかんな」
「とかいいつつ他に理由あんじゃなくて?ていうかおばさんは?」
私は思わず眉を顰めた。
「今は仕事でいねぇんだよ」
「…あ、そういえばそっか」
確か五木の両親はこの時期は海外に仕事に行ってるんだっけ……。
「ならさ、私がお弁当作ってきてあげようか?」
「あ?」
「ほら、いつも購買やコンビニだと味気ないじゃない?だから私が作ってあげようかって言ってるの」
「お前が?」
「何よ、私だって少しは料理できるんだからね」
「…朝に面倒だろ」
「別にいいよ?彼氏の弁当作るぐらい……べ、別に普通、だし」
自分で言っといて、いざ五木のことを彼氏と呼ぶのは気恥しいものがあって、つい口ごもってしまった。
誤魔化すために話題を変える。
「あっそれはそうと、今日はなんでわざわざ屋上呼んだの?」
「あ?まあなんだ、教室だと外野がうるせぇだろ」
「外野?」
「俺とお前が付き合ってんのを冷やかしてくるような連中だよ、鬱陶しいだろ」
私は思わず目を丸めた。
「えっ」
「……んだよ」
「意外とそういうの気にするんだ?」