翌朝、
机には母親が置いた分厚い
問題集と赤ペン。
また、勉強について話しをするみたいだ。
まだ朝食のトーストには
手もつけていないのに
「早く食べて、昨日の復習やりなさい。日常高校に行っている他の人達はもっと必死よ」
と背中を押される。
kr「…分かってる」
口では従順な振りをする。
その方がうるさく言われずにすむと
もう諦めていた。
学校では一応
「優等生クロノア」
として過ごして、
課題も出すし、先生にもよく褒められた。
けれど、みんなはもっと自由で、
楽しそうだ。
そう感じた。
昼休み
教室の窓際でペンを滑らせながら、
向こうで笑い合う
トラゾーたちを横目で見てしまう。
しにがみくんがふざけてスマホを振り回し
ぺいんとがでかい声でツッコミを入れて
トラゾーがそれを見て笑ってるーー
kr「…いいな、」
何故だか
どうしようもなく胸にひっかかる。
その時に一瞬、
あの中に元々自分が居るという
想像がよぎる。
kr「そんな事…あるはず無い、か…」
楽しげな雰囲気を纏った
あの、いつもの”3人”は
やはり、あの日を境に俺を避けているのだと
思ってしまう。
自分も昔はもっと笑ってた。
いまは、勉強、勉強、…
…そして、友達とも上手くいかない。
俺が何のために努力しているのか
分からなくなる。
グループLINEは
「今日ヒマ?遊ぼうよ!」
kr「ごめん、塾ある」
それだけの素っ気ない返信を
重ねる自分が、
ひどく遠くの岸に
取り残されているように思えた。
家に帰ると、また現実が待っていた。
「今日の模試、A判定届いてなかったって先生から連絡きたわよ」
母がすぐ横で監視してくる。
父はリビングの奥から
「勉強し続ければ、必ずいい人生が待ってる」
と定型文みたいに言う。
どこか失敗すれば
「気が緩んでる」
「お前が将来困るだけだぞ」
と追い詰めてくる。
誰も俺の話なんて聞いてくれない。
良い成績と、良い大学と、
その先の未来の話しか、
家族の話題には存在しない。
どんなに頑張っても
“まだ足りない”
と詰められるだけ。
スマホを開くと、
みんなが放課後に遊んだ写真が流れてくる。
どんどん自分だけが
“楽しい側”
から置き去りになっている気がした。
——なんで俺だけ、こんなに苦しいんだろう。
自分の努力が全部
誰かの期待とプレッシャーに
すり替えられていく。
みんなが少しずつ前に進んでいく中、
自分だけがガラスの檻に
閉じ込められている。
眠ろうとしても、
明日のノルマや模試の
点数のことしか考えられず、
楽しかったはずの夏休みも、
今となっては遠く霞んでしまった。
机の上に積まれた問題集の山だけが、
今の自分を形作る全てだった。