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「あたしを殺せと命令があったのかは知らないが、先に仕掛けてきたのはそっちだ。久しぶりに暴れてやるぜ!!」
その子は両手の指の骨をポキポキと鳴らしながら、ジリジリと『シャドーマン』に近づいていった。
彼らは紅い瞳を光らせながら、その子に近づいていく。
彼らの『キシシシ!』という不気味な声が威嚇なのか、その子を嘲笑っているのかは分からないが、戦う気があるのは確かだ。
その子は、一歩ずつ確実に距離を詰めながら相手の出方を伺っている。
____その子は、そいつらとほぼ同時に走り出すと、距離を一気に詰めた。
その結果……。先手はその子のパンチだった。
相手の顔面にクリティカルヒット。そいつは弾丸のような勢いで瓦礫に突っ込んでいった。
「おらおら! どうした! お前らの実力はこんなもんか! もっとあたしを楽しませろ!!」
『キシ、キシ、キシシシシシ!』
ドカッ、バキッ、ドスッ、グシャ……。まるで骨があるかのような音を立てながら『シャドーマン』たちは一人、また一人と倒されていく。
これが大罪の力を持つ者の力。一騎当千という言葉は、おそらくこの子のためにあるのだろう。
それにおそらく、その子はまだ全力を出してはいない。
なぜなら、ミノリ(吸血鬼)が大罪の力を解放した時、髪の色などが変わっていたからだ……。
「お前ら、あたしを殺すんだろ! だったらもっと殺す気で来やがれ! じゃなきゃ、このまちを地図から消すぞ! ふははははは!」
『キシーーーーー!』
そいつらはそれを聞くと攻撃をやめた。
その直後、一つの個体へとなり始めた。
例えるなら『戦○ナイトブラッド』の十二話に登場した『完全体になった巨大ヤ○マ』だ。
巨人化した『シャドーマン』(『ハンター』)は「ウオオオオオ!!」と叫びながら、その子めがけて走り始める。
その子は、足を肩幅より少し大きく開き、腰を落とすと同時に肘を直角より少し大きく曲げ、両手をグーにした。(『ド○ゴンボール』でサ○ヤ人が超サ○ヤ人に変身するシーンを見ているかのようであった)
「いいね! いいね! それじゃあ、久々にあたしの本気を見せてやるよ! はああああああああ!!!」
ミノリと同様に『トゥルーホワイト』になると、ところどころ血がついたぼろぼろの包帯がいつのまにか白いワンピースになっていた。
ミノリ(吸血鬼)の時のような角は生えていないが、先ほどより明らかにパワーアップしている。
俺はその子の後ろ姿しか見られない状況だったが、その子は今、間違いなく笑っている。
それは、この子の言動から嫌というほど伝わってきたからだ。
その子は両足で地面を思い切り蹴ると、突進してくる敵の顔面を右拳で刺すように殴った。
その直後、敵の顔面は……そこには顔というものがなかったかのように跡形もなく砕け散った。
彼女の圧勝である……。
その時『ダークウルフ』たちは、この時を待っていたかのように姿を現した。
お前ら、今まで何してたんだよ! 少しくらい手伝ってやれよ! と言いたかったが、狼たちが敵の残骸を食らっているのを目の当たりにせいで、その気が失せた……。
俺がその様を見ていると、敵を倒したはずのその子がよろめきながら、こちらに歩いてきた。
その子は、ニシシ! と笑いながらピースをすると俺の目の前で操り人形の糸が切れた時のようにパタリと倒れた。
「お、おい! 大丈夫か!」
俺はすぐにその子のそばに行き、体を揺らした。だが、反応はなかった。
俺は右耳をその子の左胸に当てて心臓が動いているかどうかを確かめた。
生きてはいるが、心拍数が少ない。
おそらく、大罪の力を解放したことが原因だろう。くそ! ミノリの時はこんなことなかったのに!
いや、ミノリの時は俺がすぐにその力を封印したから何も起こらなかったのかもしれない……。
なら、この子の力も早く封印した方がいいんじゃないのか?
その時、『センター』の声が俺の脳内に響いた。
「我が主よ、今こそ我が力を使うときだ」
「『センター』! 久しぶりだな! 積もる話もあるが今はそれどころじゃないんだ! 今すぐ、この子の力を封印した方がいいのかどうか教えてくれ!」
「よかろう。では、単刀直入に言わせてもらう。今すぐ、この娘の力を封印しなければその娘は確実に死ぬ。だが、封印すれば二度と先ほどの力を解放することはできなくなる」
「……そうか、忠告ありがとな。でも俺には、この子に助けてもらった恩がある。だから、今度は俺がこの子を助ける番だ」
「うむ、それでこそ我が主だ。だが、その娘の意思ぐらいは確認すべきだぞ」
「え? それってつまり……」
「お、おい……何してる。早く、ここから……離れろ」
「よ、よかった! 目が覚めたんだな! いきなり倒れたもんだから、てっきり死んだのかと思ったぞ!」
「バーカ。あたしはゾンビだぜ? 死ぬわけ……ねえだろ……」
「お前が苦しそうなのは俺でも分かるから、無理するな!」
「んじゃあ、一つ頼みを、聞いて……くれないか?」
「ああ、もちろんだ! 俺にできることなら何でもする!」
「そうか……。じゃあ、あたしの心臓を……『水晶』を破壊してくれ」
その言葉を聞いて、ミノリがいつもどこからともなく取り出していた『パーフェクトクリスタル』のことを思い出した。
嘘……だろ? だって、モンスターチルドレンって幼少期に強力なモンスターの遺伝子を注射されて、モンスターの力をその身に宿した存在だろ?
どうしてそんなことする必要があるんだよ。
だけどもし、この子の言っていることが本当ならミノリたちは全員、心臓がないことになる。
でも、あいつらの心臓の鼓動は確かに……いや、待て。そもそもモンスターチルドレンに心臓という名の器官はあるのか?
「おい、早くしろ。あたしみたいな出来損ないは、早めに死んだ方が……マシなんだよ」
その言葉を聞いた俺はそのことを考えるのを中断せざるを得なかった。
「……違う」
「……あ?」
「お前は、死ぬべきじゃない……」
「バカ、だな。今にも死にそうなやつの頼みも、聞けねえのか?」
「バカで結構。だけどな、俺は目の前で命が消えていく瞬間だけは嫌いなんだよ!! お前の罪は俺が背負うし、お前の命も救ってやる! だから、生きることを諦めようとするな!」
「……お前……なに……言って」
「……『トリニティバインドチェイン』!!」
その直後、白き光が彼を包み込んだ。
この力なら、この子を助けられる。水晶を破壊しろだと? 冗談じゃない。ゾンビはゾンビらしく、いつまでも生き続けろ!
白百合の花の色をそのまま塗ったかのような白い髪。
宝石のルビーよりも少し明るい赤い瞳。それぞれの先端に、ひし形のダイヤモンドのようなものが付いている十本の銀の鎖。
その者が白き光を纏いし時……。
『トリニティバインダー』となり、大罪の力を封印する唯一無二の存在と化す。
彼は彼女から少し離れたところで、鎖を操り、彼女の頭以外をミノムシ状態にした後、封印を開始した。
「『汝の罪は我が心身で背負い、この魂が滅びようともその罪は来世でも、そのまた来世でも我が封印し、背負うことをここに誓う! さあ今こそ、その悪しき大罪から解き放たれるがいい!!』」
「こ、この力……まさか……いや、ありえない。けど、これは間違いなく『アンチトリニティ』の光だ。お前、いったいどこでこの力を……」
「少し集中してるから、今は話しかけないでくれ」
「あ、ああ、分かった」
今さっきまで力が抜けて立つことさえ出来なかったのに、今は全然違う。
これはおそらく、こいつの鎖がさっきあたしが使った力を封印してくれているからだろう。
今日初めて会ったやつにここまでするとかどれだけ、お人好しなんだよ……。
まあ、こいつならあたしの『弟子』にしてやってもいい……かな……。
その子が元の姿に戻った時、俺は自分の力を制御できている間に『ジェットアクセル』でアパートに戻ろうと考えた。(その子はいつのまにか眠っていた)
俺は念のため『センター』に、こう訊ねた。
「また、アレは使えるか? センター」
「ああ、もちろんだ。今は一日一回だが、使える回数は使えば使うほど増えていくぞ」
「分かった。じゃあ、アパートまでひとっ飛びだな」
その子をお姫様抱っこすると自分の右足を少し下げ、全身の力を右足に込めた。
その後、一気に大地を蹴ると、光に近いスピードでアパートに向かって進み始めた。
その時、『ダークウルフ』たちが一つになって巨大なオオカミになったかと思うと徐々に手のひらサイズになり、俺の右肩にチョコンと飛び乗った。
振り落としてもどこまでも着いてきそうだったため、俺は仕方なく『ダークウルフ』も連れていくことにした。
「お前は絶対に死なせない。命に変えてでも、必ず救ってみせる! だから、もう少しだけ耐えてくれよ」
俺はみんなが待つアパートまで、その子を落とさないように慎重かつ速やかに運ぶと心に決めた……。