テラーノベル
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じゃら、と鎖が重々しい音を立てた。
玩具にしてはよく出来ている。サイズこそ本物より一回り小さいが、その鎖はしっかりと金属で作られていて、ちょっとやそっとの力では千切ることはできないのだった。
今、渡辺は鎖のついた首輪を嵌められ、向井にその端を持たれている。
まるで、凶暴なブルドッグを繋ぐようなその首輪に、身動きを制限された渡辺は少し苦しそうに喘いだ。
「康二、これ、取って」
大きな目は潤んでいる。
数時間前まで、ともに音楽番組の収録に臨んでいたはずの同僚は、今や完全に主人と化していた。向井は首を振る。
「可愛いで。そのままでおって」
部屋のインターホンが鳴り、向井は鎖のリードの端を適当にドアノブに結びつけた。人差し指を唇の前に持って来る。
渡辺は神妙に頷いた。元来、素直で従順な男である。向井の無理なお願いにも、何とか応えてやりたくて息を潜めた。
「舘さん……」
「翔太、もう来てるの」
玄関先にきっちりと脱がれたサンダル。
部屋に先に渡辺が訪ねて来ていることをものの数秒で見破った幼馴染に、向井は舌を巻いた。
「これからお楽しみやねん」
向井は悪びれずにそう言った。
この男の、こういう屈託のない正直なところが、人気を集めるのだなと思う。もっとも、時と場所は弁えてほしいが。
「康二ぃ」
リビングに戻ると、切なげに呼ぶ渡辺に、静かにって言ったやろと康二の不服そうな顔が見える。一人ではなかった。後ろに30年来の幼馴染の姿。
「りょた…」
思わず息を止める。
渡辺の顔が蒼白になった。
「外すよ。いいね?康二」
「おん」
向井はどこかぶっきらぼうにそう言い放つと、ソファにどかっと腰を下ろす。
優しく丁寧に首輪を外し、少し赤くなっている跡を宮舘は手で優しくさすった。渡辺は恥ずかしそうに俯いている。
「乱暴なことするなよ」
「せやかて」
唆るんやもん、嫌がってないしな……後半は、ほとんど口の中でモゴモゴ言っていただけだ。まるで悪戯を注意された子供のように、向井は不貞腐れ始めた。
「8人でルール、決めたよな。康二、その場にお前もいただろ。翔太に傷つけるな」
「………すんません」
二人の空気が緊張感を煽ったのか、渡辺が涙目で訴えた。
「喧嘩しないで」
宮舘は、優しく微笑むと、渡辺の頭を優しく撫でた。
「喧嘩なんかしてないよ。怖がらせてごめんね?」
渡辺翔太を8人でシェアする生活は続いていた。不納得な者は、渡辺を手に入れる権利を永久に失うから名乗り出る者はいなかった。今はもう納得ずくで、8人が渡辺を愛し、渡辺も必死に8人の愛情に応えている。
もちろん、その秘密はメンバー内だけで共有されており、外に漏れることは一切なかった。
今日は向井と宮舘の日。
次の日の朝が早い宮舘は、スーパーに寄り、食材を買うと、そのまま【会場】である向井の家へと向かった。食材の下拵えを済ませると、宮舘は向井とバトンタッチ。今夜は向井特製の青椒肉絲がメインのおかずだ。渡辺も好きなようで、わくわくしながら料理する工程を見ていた。
渡辺は8人の間を、休息日を含めながら、公平に行き来する。今日のように複数を相手にする日もあった。抱かれる日もあれば、抱かれない日もあった。今日はどっちだろう。どんな流れになるかは、渡辺にはわからない。それでも呼ばれた場所へは渡辺はイヤな顔ひとつせず現れた。もともと8人のことが大好きな渡辺に不満などありようはずがなかった。
「お風呂行こう、翔太。洗ってあげる」
「いいの?康二」
「ええで。その間に俺が美味い青椒肉絲作ったる。風呂上がりにいいタイミングで出来上がるようにしとくから楽しみにしてな」
「行こう」
後ろ髪を引かれるような渡辺に内心苛立ちながら、宮舘は、渡辺をバスルームに連れて行くと、いきなりその唇を荒々しく奪った。
「んっ、、、」
息が苦しいのか、胸をトントンと叩かれて、やっと唇が銀の糸を引いて離れた時には、宮舘のものは痛いほどに勃ち上がっていた。
「乱暴にすんなよ…」
「ごめん」
「口でしてやるから、大人しくして?」
「うん…」
渡辺はその場に跪くと、宮舘の屹立をゆっくりと口に咥えた。こうなると、なすすべもなく快楽に身を任せた宮舘は、渡辺の愛撫ひとつひとつに集中した。そこには敏感な場所も、鈍くしか感じられない場所もある。自分の反応を見ながら、感じさせようと懸命に努力する渡辺が愛しい。これは、愛情なしでは出来ない行為だと思うと、宮舘は悦に入って、やがて渡辺の口中に自身の欲望を放った。
「風呂、早く済ませよう。康二が待ってる」
渡辺の言葉にぴくり、と宮舘の顔が歪んだ。
渡辺はしまったと思ったが、もう遅い。宮舘の執拗な攻めが始まった。
「康二なんてどうでもいいよね?俺を大事にしてよ」
「ごめ……そういう意味じゃ……」
宮舘は、風呂場の浴槽の縁に渡辺を四つん這いにさせると、強引に指で後孔を弄り始めた。解れておらず痛みに顔を歪める渡辺を見下ろす。渡辺は呻いた。
「ごめんなさい、許してください」
「首輪とかもさ、許すなよ。俺、もともとそういうの嫌いなの知ってるよね?」
「は……い……」
息も絶え絶えに答えるのがやっと。宮舘は、自身にボディソープを纏わせると、大して解していないそこへ強引に自身を挿入した。
「昨日は照と?緩み切ってるな」
「や、あん、あん、あんっ。いた………」
額に脂汗が滲む。
しばらくすると身体が震え出したので、宮舘も我に返ったのか、達する前に引き抜いた。
渡辺がその場にへたり込む。全身に熱いシャワーをかけて、あとは優しく洗ってやった。
「ごめん翔太。嫉妬した」
「いいよ。涼太、愛してる」
風呂から上がる前に触れるだけのキスをし、二人が仲良く風呂から上がると、向井特製の夕食は完成していた。
「どや!ちょっとかかりそうやったから、簡単に包まない焼売なんかも作ってみた」
「うわ、美味そう」
渡辺は二人に交互にサーブされ、ニコニコと食事が始まる。そこは平和な風景。ドロドロとした感情の行き交うことはなく、純粋に食事を楽しみ、朝が早い宮舘は先に帰って行った。
「はー。やっと二人きりになれた」
片付け物を一緒に済ませると、向井は後ろから渡辺を抱きしめた。
「俺、やっぱり二人きりなほうがええな」
「俺も」
渡辺がそう答えると、向井の頬は分かりやすく紅潮して、一気に機嫌が良くなった。風呂入って来るから待っとって。瞼にキスをし、意気揚々と風呂場へと向井が消えた。
「ふう……」
渡辺はソファに横になり、天井を仰いだ。
いつまでこんな日々が続くのだろう。8人の均衡は、先ほどのようにたまに小さな争いになるが、決定的な亀裂にはならない。
イチ抜ける、誰もそうしないので均等な睨み合いが続いていた。
渡辺はスマホのスケジュールを確認した。8人の間でだけ共有されているスケジュールだ。渡辺の予定は最初は知らされてなかったのだが、誰かが言い出して、管理が始まった。
渡辺は画面をそっと撫でる。明日の予定が大写しになった。相手はひとり。
「明日は阿部ちゃん」
水曜定例のグループ仕事の後は、阿部で予定が埋まることが多かった。渡辺は悩んでいた。阿部は…
「お待たせ」
「ちゃんと洗ったのかよ」
まさにカラスの行水とも言うべき素早さで向井はほとんど身体も拭かずに渡辺に近寄り、抱きしめた。
「ちょ、濡れてるし」
「我慢できひん」
そのままソファで一度。
間髪入れずに、ベッドで二度抱かれた。
渡辺は素直に感情と欲をぶつけてくる向井のことを可愛いと思った。少なくともさっきみたいに感情的に乱暴してくる宮舘よりは。そして、明日の予定に入っている、何を考えているのかわからない阿部よりも。
隣りで鼾をかいている向井の胸に抱かれながら、渡辺はそっと吐息を漏らして目を閉じた。
コメント
3件
続編嬉しすぎる!!!!
続きだ🫣🫣