「颯ちゃん、来週は日曜日仕事でしょ?」
「仕事だな」
「日曜日か、土曜日でもいいけど…お店に行こうかな…」
「…リョウ……?」
颯ちゃんが驚いた様子で私を見て、彼のお箸から冷奴が落ちた。
「いい?」
「いいに決まってる」
「駅からお店までは行ける…それより家の方へは、行く気にならないけど」
「そんなの関係ない。十分じゃないか…土曜日に来るか?三岡先生も、土曜日なら事務所にいるんじゃないか?」
颯ちゃんの言う通りだ。
駅からすぐのところに三岡先生の事務所があって、数分歩いて颯ちゃんのお店がある。
土曜日は事務員は休みだけど、先生は仕事している日も多い。
「前もって連絡すると、わざわざ出勤にしてくれると思うから、当日お店から連絡してみるよ」
「そうしろ」
「佳ちゃんは迷惑じゃないかな…?」
「佳祐、喜んで仕事しないんじゃね?」
「ふふっ…颯ちゃん、頑張って」
颯ちゃんはお箸を握り直すと
「やっぱり今日はいい日だ。半歩進んだって言ったけど、大きな1歩進んだと訂正する」
そう言い満面の笑みを見せた。
ご飯を食べ終わってから、土曜日にお店まで行くと佳ちゃんに電話すると
‘リョウコのタイミングで颯佑と一緒に来いよ。店の時間は気にするな。絶対に颯佑と一緒に来い。途中で引き返すことになっても一人になるなよ。まあ颯佑にきつく言っておくが…駅まで迎えに行こうか?’
「佳ちゃん…迎えはいらないけど…ありがとう…でもちょっと声が大きい…」
‘悪い…興奮した…’
「じゃあ、土曜日に」
‘ああ。土曜日でなくても、気が変わってもいいぞ’
「わかった、ありがとう」
何度も何度も、土曜日でもなくていい、時間も何時でもいいと繰り返された。
「佳ちゃんは佳ちゃんだ…」
「なんだ?あの距離、迎えに行くとでも言ってたか?」
「あははっ…言った。途中で引き返してもいいって…」
「そりゃそうだ。別に土曜日でなくてもいい」
「同じこと言ってるね」
こうして……土曜日の朝、私は地元の駅へ到着した。
「曇ってたのに、晴れてきた…行こう、颯ちゃん」
私の様子を伺うようにゆっくりとした足取りの颯ちゃんの手を引き歩く。
ここは全く問題なし、大丈夫だ。
「久しぶりのお店だなって思うだけで何ともないよ。私の自転車、乗れる?」
「昨日整備した」
「じゃあ、近いけど三岡先生のところに行くなら乗るね」
「自転車が喜ぶな」
まだ開店前なので颯ちゃんが裏口を開けると
「リョウコ、来た?」
佳ちゃんが店内のどこからか飛び出して来た。
「来た…リョウ…コ……」
私の前で泣き笑いのような表情を見せる佳ちゃんに
「おはよう、佳ちゃん」
にっこり笑えたと思う。
「おう…おかえり、リョウコ」
そう聞こえたと思ったら、佳ちゃんにぎゅっ……と抱きしめられた。
颯ちゃんの大きい舌打ちと、ベシッという痛そうな音が聞こえたが、佳ちゃんはさらに私を強く抱きしめ
「よく頑張ったな、リョウコ。ちょっと頑張り過ぎじゃね?」
と、私の耳元で震える声で言った。
「長いっ」
一旦奥に行った颯ちゃんが、佳ちゃんを私から引き剥がし私の服をパンパンと叩く。
「心の狭い奴はフラれるぞ。リョウコの自転車、ここにあるからな」
佳ちゃんはそう言いながら、お店のシャッターを開けた。
彼の足元から徐々に高く明るい日差しが店内へ差し込む色彩は、私たちの明るい未来を暗示するようで口角が上がる。
ここまででいいよね。
私はもう大丈夫……そう思えた。
コメント
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うぅう〜😭😭😭 佳ちゃんのリョウコを思う気持ちが溢れ出てるよ〜😭 佳ちゃん頑張ったんだよ、少しずつ進んでここまできたの😭 感動の再会なのに…颯ちゃん…(* ̄ー ̄)ノペシッそれも引き剥がした後お洋服バンバンって!もう〜いいじゃない今日くらい😆 シャッターが開いたね!良子ちゃんの自転車も待ってたよ🥹乗って三岡先生の所へ行こう✨ うん、ここまでいい☺️