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都内の霞学園高校で教師をしている皆川駿24歳は、たった今、人生初の風俗に来ていた。
教師でありながら風俗というのは、いささか危ない橋を渡っていると言わずにはいられない状況が、 先輩教師や保護者との関係にストレスを感じていたというのも、理由のひとつなのだろうが、酔った勢いというのが一番大きいだろう。
しかし、酔いが覚めていくに連れて、自分の置かれている状況を次第に理解していく駿。
その為、風俗嬢と会話をせず、ただベッドに座り込んでいるだけという状況が、もう10分以上も続いている。
「あの・・お兄さん?何もしないの?」沈黙に耐えかねた風俗嬢が駿に尋ねる。
「入店してからずっとその調子だよね?お兄さん・・・」
「あはは・・いや、なんというか、その・・あはは・・・」
駿は風俗嬢の問いに、しどろもどろな返しをするのがやっとだった。
「だって勿体無くない?何もしてないこの時間もお金発生してるんだよ?」
この風俗店の料金は60分1万6000円。決して安い金額ではない。むしろ高いと言えるだろう。
「いやぁ・・そうなんですけど・・・」
風俗嬢は少し考えて「じゃあさ、お話ししようよ!まずは・・そうだな・・じゃあ!お兄さんの職業教えてよ!どんな仕事してんの?」
「しょ、職業!?」駿は驚いたように声を張り上げる。
「え?そんなに驚く?職業聞いただけだよ?
私・・・」
「あ、いや、その、一応高校で・・その・・教師をやってまして」
「うっそ!?教師?お兄さん学校の先生なの!?」
風俗嬢は目の前の客が高校教師だという事に驚きを隠せない。
「あはは・・実はそうなんですよね・・・」駿は苦笑いをするしかできなかった。
「でもさ・・先生が風俗って大丈夫なの?保護者とか教育委員とか結構うるさそうなイメージあるけど」
「いや、そうなんですよね・・何で来ちゃったんだろ・・あははは・・・」
風俗嬢はそんな駿を見て何かを察したのか
「なんか辛い事でもあったの?」と種の方に手を添えながら優しく語りかける。
「え?それはどういう・・・」 風俗嬢の問いかけに駿は驚いたように聞き返す。
「良くいるんだよね・・ただ愚痴を聞いてほしい、話を聞いてほしいって理由で風俗を利用するお客さん」
駿は風俗嬢の話を黙って聞いていた。
「だからお兄さんも、そういうタイプかなぁ?って思ったんだけど、違う?」
「あはは・・そうかもしれませんね・・・」「私でよかったら話聞くよ?私からしても、話するだけで良いんだったら、めっちゃ優良客だからさ!お兄さん!」
それからしばらく駿は風俗嬢に話を聞いてもらっていた。
先輩教師の事や、いわゆるモンスターペアレントと部類される行き過ぎた保護者の事など、ありとあらゆる話をした。
気づけば終了時間が間近に迫っていた。
「なんかすいませんね、こんなネガティブな話、困りますよね?あはは・・・」
「ううん、そんな事ないよ、それにさ、私が思うに・・お兄さんって優しすぎると思うんだよね」
「優しすぎる・・ですか?」
「もっと肩の力を抜いてもいいんじゃないかな?」「そう・・ですね」
風俗嬢は駿の体をそっと抱き寄せ「また嫌なことあったら愚痴こぼしに来てよ!ね?私でよかったらいくらでも聞いてあげるからさ」と優しく語りかけ頭を撫でる。
「あ、ありがとうございます」
駿が風俗店を出た時は、すでに日付が変わった後だった。
「今日はありがとうございました。話聞いてもらって、なんかスッキリしましたよ」
駿は丁寧に頭を下げる。
「ダメだよ、私みたいな風俗嬢に頭なんて下げちゃ!まぁ、さっきも言ったけど、いつでも来てよね?」
「ありがとうございます。もしかしたらまた愚痴を」駿は言葉を途中で詰まらせ、後ろを向いてしまう。
「どうかしたの?何かあった?」
風俗嬢は駿を心配するように、肩にそっと手を置く。
「後ろに・・制服姿の女の子が居るんです」
「後ろ?」風俗嬢が背後に振り向こうとするが「振り向かないで!」と駿がそれを制止する。
「え?もしかして生徒さんとか?いや、まさか・・・ね」
「は、はい・・あの子・・俺が受け持ってるクラスの生徒なんです」
そこに居たのは、駿が受け持つクラス、2年1組に通う生徒、金森梓だった。
「え?うっそ!本当に!?私、冗談のつもりだったんだけど」駿は風俗嬢の問いかけに黙って頷く。
「俺、もう、行きますね。今日はありがとうございました」駿はそう小声で呟くと、足早にその場から立ち去った。
「あの人・・皆川先生?」梓の視線の先には繁華街に消えていく駿の姿があった。
梓は駿が出て来たビルを見つめる。
「やば!」梓と目が合った風俗嬢は焦ったように店のカナに戻る。
「あれって・・もしかして風俗?」
梓の視線の先には「エロビアン」と書かれた、いかにも風俗店と言った看板があった。
「へぇ・・先生も風俗とか行くんだ・・ちょっと意外」
梓は駿の背中をずっと見つめていた。
自宅に帰り着いた駿は、風俗に行ってしまった自分を悔いて、自己嫌悪に陥っていた。
教頭や校長にバラされたりしたらどうしよう。
保護者にバレたりしたら、間違いなく講義の電話が鳴り止まないだろう。
SNSなどで拡散されたりしたらどうしよう。
[都内高校教師、生徒からの密告により、風俗を利用してた事が判明し解雇]という見出しで記事がバズったりするのだろうか?
もし大事になってなかったとしても、表沙汰になるのは時間の問題だ。
それに漬け込まれて賄賂を要求されたりしたらどうしようか?
もしそうなったとしても、貯蓄に余裕はあるから、かなりの金額は出せる。
でも、一度払うと味しめてまた、金銭を要求されてしまうかもしれない。
そんな事を考えているうちに夜が明けてしまう。
「結局一睡もできなかった・・・」
駿は寝不足のまま重い足取りで自宅を後にする。