TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

某家守近のこと

一覧ページ

「某家守近のこと」のメインビジュアル

某家守近のこと

22 - 某家守近、わからんちんの髭モジャ男を雇うのこと3

♥

44

2024年06月10日

シェアするシェアする
報告する


──その騒ぎに乗じて、守近の屋敷から、人目を気にしつつ抜け出す女がいた。


女房の、橘《たちばな》だった。


木綿の衣に、小さな包みを持つ姿は、北の方付きの女房とは思えない、ただの下働きの女といった体《てい》に見えた。


橘は、騒ぎの責任を感じ、守近の屋敷を去った。願え出れば、更なる騒ぎになると、人知れず逃げ出したのだ。


大路の雑踏を、歩き続ける──。


身を寄せるあてもなく、目的もなく、ただ、人の流れに沿って歩んでいく。


包みの中には、簡単な着替えと、少しばかりの銭《かね》はある。今夜一晩、宿に泊まるか……、いや、女一人の客を、宿屋も、あっさり泊めるはずがない。


下手すれば、有り金全部巻き上げられ、そのまま、下働きにされてしまうか、もしくは、どこかに、売られてしまうか。


それでも、良いのではなかろうか。どうせ、いくあてのない身の上なのだから。


ただ……、世話になった主《あるじ》に、恩を仇で返すようなことをしてしまった。


それだけが、心残りだった。


歩む大路から、人が消えていく。登っていた日輪は沈み始め、怪しい影を落としていた。


──逢魔《おうま》が時。


不吉な言葉が、橘の脳裏をかすめた。


「おい、女《おなご》。どうした、行くあてがないのか?」


背後から低い男の声がかかる。


「どうぞ、ご心配なく。私《わたくし》急いでおりますので」


「あー、仕える屋敷を追い出されたか……。全く、醜い事を……」


うっかり女房の癖が出てしまったと、橘は、焦った。相手に、女房であるとバレてしまったかは定かでない。しかし、屋敷奉公していた女、と、わかってしまったようだ。


橘は、駆け出した。


逃げなければ。男は、橘目当てに声をかけてきた。今の橘は、庶民の格好をしているが、それでも、屋敷で用意した木綿生地。質は、やはり、良い物だ。身繕いが、浮いていたのかもしれない。


華やか都──、今や、それが、仇となり、得たいの知れない輩が集まって、悪さを行っていた。


特に狙われるのが、貴族の子女と側支え、つまり、女房達。


目的は、まず、衣。立場上、上質な絹生地のものを纏《まと》っている為、売れば、かなりの値でさばける。そして、言わずとしれた、その体──。


橘は、どうにでも……、と、自暴自棄になっていたが、いざ、事が我が身に降りかかって来ると、恐ろしくなり、膝が震えて、走るのも精一杯だった。


「おいおい!待て、待て!勘違いするな!」


やはり、男の足には勝てない。すぐに、橘は、追い付かれてしまう。


「女の一人歩きは、危ない。何があったか知らんが、とりあえず、仕えていた屋敷に戻れ。ワシが送ってやる。なんなら、とりなしてやるぞ」


「……あ、あなた様は!」


声をかけてきたのは、橘にも見覚えのある男だった。

この作品はいかがでしたか?

44

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚