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再び、モール内を散策しながら、優子は申し訳なさそうに、廉の肩越しに声を掛けた。
「セットアップまで頂いた上に、バッグまで買ってもらって……ありがたいというか、申し訳ないというか…………」
「いや、俺が岡崎にしたくてやっている事だ。気にしなくていい」
廉が優子を見下ろしながら、温和な笑みを見せる。
その表情に、彼女の胸の奥はキュッと摘まれ、鈍い痛みに包まれた。
「すみません。ありがとうございます……」
優子は軽く頭を下げると、伺うように蓮を見やった。
「まだまだ外は暑そうだな。一度、部屋に戻るか」
廉が再び、小さな手を取ると、指先を絡めさせて宿泊先のホテルへ足を向ける。
(何だろう。専務と手を繋ぐと…………ホッとするんだけど…………泣きたくなるような気持ちにもなる……)
側から見たら、廉と優子は、仲睦まじいカップルに見えるだろう。
けれど、今の二人の関係は、売女と客なのだ。
(専務の恋人……きっと幸せだろうな。いずれ社長になる方だし、イケメンで性格もいいし。私も、男の人から一途に愛されたかったな…………)
優子は、見知らぬ『廉の恋人』が羨ましく感じてしまう。
鉛のように重く、暗い気持ちが、彼女の胸中をジワジワと蝕んでいた。
けれど……。
(専務……笑顔で服をくれたり、バッグも買ってくれたり…………私……専務に身体を売りに来てるんだよ……? そんなに優しくされると……どうしていいか分からない……)
戸惑いを抱えながらも、彼女は、広い背中を見つめたまま、黙って歩く事しかできなかった。
一度、部屋に戻ってきた二人。
廉が冷蔵庫からミネラルウォーターを二つ取り出し、優子に手渡す。
「それにしても、今年の夏は異様な暑さだな」
キャップを外すと、ゴクゴクと水を飲む廉。
嚥下する度に上下に動く喉仏が、妙に男の色気を感じてしまった優子は、彼からそっと視線を外した。
羞恥を隠すように、チビチビと、ミネラルウォーターを口に含む彼女。
「夜になったら、幾分涼しくなるし、ライトアップも綺麗だから散歩するか。それから……」
廉は俯き、大きくため息をつくと、弾かれたように顔を上げる。
彼女のキリッとした瞳に視線を絡ませ、彼は、うっすらと唇を開いた。
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