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「夜の散歩は…………あの白いバッグを持って欲しい」
「…………」
どこか懇願している口調の廉に、優子は言葉を詰まらせてしまった。
「…………れ……廉さん…………それは恋人に言うセリ──」
「岡崎にっ…………今日俺が贈った物全てを…………身に纏って欲しい」
彼の言葉を頭の中で咀嚼しながら、優子がようやく口を開くと、廉は彼女の言葉に釘を刺した。
(前科持ちで売女の私に…………そんな事……言わないでよ……)
優子は困惑の眼差しで彼を見つめ返すけど、廉は、譲らない、と言わんばかりの表情。
「…………分かりました。廉さんのリクエストにお応えしますね」
「…………リクエスト、か……」
廉が、憂いの表情を浮かべながら言葉を零したのを、優子は気付かないまま、窓の外に映し出された横浜の景観に視線を辿らせていた。
***
夜の帳が下り、みなとみらいが色彩豊かな光に包まれ始めた頃、優子と廉は、山下公園を散策していた。
仄かな潮の香りが優子の鼻先を撫でていき、ああ、横浜にいるんだ、と実感する。
周りはカップルばかり、暗いのをいい事に、抱きしめ合いながらキスを交わす男女や、横浜の夜景を楽しみながら、手を繋いで歩いている恋人たち。
「何か、場違いのような気がするのは……私だけ…………ですかね?」
「こうすれば……場違いではないだろ?」
ぐるりと見回した優子が眉尻を下げると、廉がそっと色白の手を取る。
キュッと握られた瞬間、ほろ苦い何かが、彼女の喉の奥を通り抜けていった。
「…………何だか意外です」
「ん? 何がだ?」
ようやく見つけたベンチに腰を下ろし、二人は、みなとみらいのライトアップを眺めていた。
優子の手は、廉にしっかりと握られている。
恋人同士でもないのに、この状況が彼女にとって、恥ずかしくもあり、くすぐったい。
「廉さんって、女性と手を繋ぐのを嫌がりそうって思ってたので」
「ああ……」
彼も照れているのか、前髪をざっくりと掻き上げると、優子に視線を向ける。
「岡崎の…………元恋人は、手を繋いできたり……しなかったのか?」