テラーノベル
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2人を別室に通した後
カルドはマルコスを呼んだ
「マルコス、お前、あの王さんに
命じられて俺の周り調べてたのか」
「半分は」
「……あとの半分は?」
マルコスは肩をすくめた。
「旦那、面白そうだから」
「俺、十四だぞ。旦那なんて呼ぶな」
「じゃあ、なんて呼びやす?」
一拍。
カルドはわずかに笑った。
「親分でいいよ」
マルコスは一瞬だけ目を細めて、すぐに頭を下げた。
「へい、親分」
「ナーナー様のおっしゃる通り――
この反乱は、失敗します」
マルコスは言い切った
「……理由を聞こうか」
「エンドアは、多くの民族、言語、宗教、文化で成り立っています」
「反乱は各地で起きるでしょう。ですが――」
一拍。
「まとまりがない」
カルドは目を細めた。
「イヴァールの皇帝はどうした?」
「東エンドアに実権を奪われ、いまや傀儡です」
沈黙が落ちる。
だが、マルコスは続けた。
「――ですが」
「この反乱をまとめる方法は、あります」
カルドの視線が鋭くなる。
「……ほう。魔法でも使うのか?」
マルコスはわずかに笑った。
「エスカミオ人は我々に言葉を押し付けた」
「法律を、文化を、制度を――」
「だがその結果、この国は初めて“共通の言語”を持った」
カルドの表情が変わる。
「……皮肉なものだな」
「東エンドア会社が統治のためにしたことが、
反乱をつなぐ鎖になるとは」
マルコスは一歩踏み出した。
「鎖は、つなぐ者がいなければ意味がない」
静かに、しかしはっきりと。
「我々の持っていない軍艦三隻を持つ
あなたが指揮を執れば――」
「この反乱は、一つになります」
「ところでラクシュミー・バーイーって人はどんな人だい?」
「美しく、勇敢な人です。」
「ほう?」
一瞬だけ沈黙。
カルドは口の端を上げた。
「それはいい」
「ぜひ会わなくっちゃな」
椅子から立ち上がる。
「マルコス」
「王さんたちを呼んできて」
「――作戦会議だ」
「コピット、うちの野郎たち、集めて!
祭りの始まりだと伝えてくれ!」
「こちらをご覧ください」
トーペーが地図を広げる
「現在、ジャンーシーでは民衆がラクシュミーを
擁いて戦闘が開始されました」
「クラウドは本国からまねいたローズ卿に指揮をとらせています
その数三千、これからもっと増えるでしょう」
「対するラクシュミー軍は民衆兵五百これでは・・・」
「申し上げます、ラクシュミー・バーイーこちらに向かってきます
騎兵100騎、先頭にいるのがラクシュミーと思われます」
「何?」
「女がか?」
「迎え撃つぞ、いけ!」
歩兵の防御陣を向かわせた
ローズ卿の視界の中で――
嵐をみた
砂煙を巻き上げ、一直線に突っ込んでくる騎兵。
その先頭。
赤い衣を翻し、黒馬を駆る女。
剣を掲げていた。
「――突撃!!」
声が届く距離ではない。
だが、なぜか全員に聞こえた気がした。
次の瞬間。
防御陣が、紙のように破られた。
「な……っ」
槍が弾かれる。
盾ごと斬り飛ばされる。
馬が止まらない。
いや、止まらせる気がない。
「ば、ばかな! 歩兵隊は三列だぞ!」
「崩れています!止まりません!!」
#グロ表現あり
1,167
#バトル
#死に戻り
望遠鏡の中で――
その女が、こちらを見た気がした。
笑っていた。
「王さんの意見ではラクシュミー軍は勝てないと?」
「ラクシュミー様は勇敢です。軍の士気も高いでしょう」
ナーナー王は静かに言葉を選んだ。
「ですが――それだけでは、東エンドア軍には届くまい」
「いずれ戦況は覆るだろう」
場の空気が、わずかに沈む。
トーペーが地図の一点を指で叩いた。
「ゆえに、正面から包囲を解こうとせず」
「敵の命はここ」
スーラト港だった。
「補給はすべて海上輸送。兵も、食糧も」
「この港を叩けば、軍は動けなくなります」
カルドは視線を落としたまま、動かない。
「カルド殿にお願いしたい」
「ここに集まる船を焼いていただきたい」
一拍。
「敵の目がそちらに向いたとき――」
「ラクシュミー様は我らの手で脱出させる」
静寂。
誰も口を開かない。
カルドは、ゆっくりと地図に目をやった。
(なるほどな……)
(戦争ってのは、“強い奴が勝つ”んじゃねえ)
(“食わせ続けられる奴が勝つ”のか)
口の端が、わずかに上がる。
「いいじゃねえか」
顔を上げた。
「つまりこういうことだろ?」
「俺が野郎の“商売”をぶっ壊し続ければ――」
「王様たちは野郎との“戦”に勝てるってわけだ」
「王妃様、申し訳ねえ……ほんとに、すまんかった」
老人は涙を浮かべ、何度も頭を下げた。
「気にするな」
ラクシュミーはその手を取る。
「まだ戦は終わっていない」
傷の手当てをしながら、静かに言った。
「お前はよくやった」
老人は顔を歪め、声を殺して泣いていた。
「申し上げます!」
少女が駆け込んできた。
まだ幼さの残る顔に、剣だけが不釣り合いに重い。
「新たな敵が接近中!
隣国――オールチャーの軍と思われます!」
一瞬、空気が凍る。
東エンドア会社は周辺の同盟藩王国に出撃を要請し、
続々とその包囲の兵は増えていた。
「逃げてくだされ……」
誰かが呟いた。
「ここはもう……」
「逃げぬ」
ラクシュミーは立ち上がる。
「私が逃げれば」
一歩、前へ出る。
「お前たちが、またひどい目にあってしまう」
静かだが、揺るがない声だった。
「ここは我らの国だ」
「エスカミオ人のものではない」
だが――
その言葉とは裏腹に、
彼女には打つ手がなかった。
カルドは三番艦を街の守備に残すと、
残る二隻を率いてスーラの港へ向かった。
街ではコピットが義勇兵と傭兵をかき集め、
マクゴナルが目利きで選別する。
「使える奴は、船に回せ」
港に残されたのは、敵に捨てられたエドワード号だった。
「そのまま朽ちさせるのは、もったいないしね」
すでに水夫の訓練が始まっていた。
航路の途中――
「せっかくだ、稼がせてもらうか」
東エンドア会社の商船二隻を沈める。
積荷は海へ沈み、煙が風に流れた。
やがて、スーラから艦影が現れる。
大型一隻、中型二隻。
黒い船体が海を割る。
「やっとお出ましかい」
カルドは双眼鏡を下ろし、笑った。
「あの黒船……威圧目的というか、愛嬌がないなあ」
「うちのデッセゼニーを見習ってほしいもんだ」
軽口を叩きながらも、目は獲物を測っている。
「速度を上げろ」
帆が一斉に張られ、船体が前に滑る。
敵の弓兵は構え始める
だが――
「遅い」
真正面からではなく、
斜めに切り込む。
死角に潜り込み――
そのまま、側面へ激突。
衝撃。
木材がきしみ、船体がぶつかり合う。
「行くぞ」
カルドは誰より先に飛び出した。
甲板へ――
敵船へ――
そのまま斬り込む。
戦いは終わった。
甲板にはまだ血の匂いが残っている。
カルドたちは敵船に乗り込み、手早く中を改めていった。
「こりゃ……見てくれだけですね」
ネルソンが吐き捨てる。
「中身は空っぽだ」
「支配するための置物か」
カルドは興味なさそうに呟いた。
巨大戦艦。装飾も立派だ。
だが――使い込まれた跡がない。
「武器は全部運び出せ」
「王さんたちにあげちゃおう」
「いつから親分は慈善家になったんですか」
ネルソンが肩をすくめる。
「ばーか」
カルドは笑った。
「投資だよ」
「ポーカーゲームのベットともいうな」
「もう乗っちまったんだ」
「……この船はどうします?」
甲板を見上げながらネルソンが聞く。
「でかいしな」
カルドは軽く船体を叩いた。
「景気よく燃やすか」
「上陸します?」
「するさ」
少し間を置いて、
「陽動だ」
カルドの口元が歪む。
「派手にいこうじゃねえか」
ナーナー王はトーペーとともに、
千名ほどの兵を率いてジャーンシー近郊に布陣していた。
スーラ港から火の手が上がる――
その合図を待っている。
「王……もう、引き返せませんぞ」
トーペーが低く言う。
「わかっている」
ナーナーは前を見たまま答えた。
しばしの沈黙。
「地獄までついてきてくれるか」
トーペーは小さく笑った。
「彼らはなんと言うのでしたか」
「“がってんしょうち”……でしたかね」
ナーナーもわずかに口元を緩める。
「そうか」
「ならば――今度、直接聞いてみよう」
風が止む。
誰もが、遠くの空を見ていた。
遠く――
水平線の向こうに、
黒い煙が立ち上った。
トーペーが目を細める。
「……来ましたな」
ナーナーは静かに頷いた。
「行くぞ」
陸戦隊は上陸し、
港の倉庫を中心に火を放っていった。
二隻の船からは火矢が次々と撃ち込まれる。
帆が燃え、
積荷が爆ぜ、
停泊していた船が炎に包まれていく。
港は、あっという間に火の海になった。
「……いいねえ」
カルドはその光景を眺めながら呟いた。
「明日の朝までいようか」
「ついでに証文も焼いちまうか」
「ダメです」
即答だった。
「敵軍が戻ってきたら、ひとたまりもありません」
カルドは舌打ちした。
「ちぇ」
それでも視線は、まだ炎を追っている。
「まあいい」
「火は十分回った」
炎を見つめながら、カルドは隣のネルソンに言った。
「王ってのはさ、よく『民のために』って言うだろ。
だが、あれは少し違うんじゃないかと思う。
リチャードを見ていて、そう思った」
ネルソンは黙って聞いている。
「王は国でいちばん偉い。
けれど、何でもできるわけじゃない。
できるのは、どれを選ぶかを決めることだけだ」
燃え上がる港を見つめたまま、カルドは続けた。
「戦を始めるのも、終わらせるのも王が選ぶ。
誰を救って、何を捨てるか。
その選択は重い。
俺だって、お前たちに軽々しく
『俺のために死ね』なんて言えない」
しばらく沈黙が流れた。
「あの王さんたちは選んだんだ。
この国を燃やしても、守りたいものを守ると。
それだけの覚悟で立ってる」
カルドは炎を見つめたまま、ふっと口元をゆがめた。
「……だからまあ、
『俺のために死ね』なんて軽々しく言うやつは、
さっさと殺すことにしてるけどな」
ネルソンは思わず苦笑した。
「なんてざまだ。たかが女子供相手に!」
ロバート・クライヴは怒り狂っていた。
「……彼らは強い。卿も少し考えを改めては」
ローズ卿は静かに言う。
「彼らは王妃のために、国のために戦っている」
「では我らは何のために戦っている?」
「……搾取を続けたいがために、ですな」
クライヴの顔が引きつる。
「どちらが強いか、一目瞭然でしょう」
「我らが本国へ送っている金が、どこから出ているか――
分かったうえで言っておるのだろうな」
ロバートは吐き捨てるように言った。
「お前たちが“貴族様”などとほざけるのは、
我々が稼ぐ金あってのことだ」
「……だから」
ローズ卿の声は冷たい。
「負けるわけにはいかんのだ!」
クライヴは怒鳴った。
「黙って儂のために死ね!
たまには役に立て!
ラクシュミーは犯罪者だ!
さっさと捕まえてこい!」
そのとき、急報が飛び込んだ。
「敵軍がスーラト港を急襲!
港湾の船舶が炎上中とのこと!」
「なんじゃと……!」
「新たな敵、接近中!」
ラクシュミーは息を呑んだ。
「あれは……ナーナー王の軍です。
援軍が来ました」
敵陣があわただしく揺れた。
一つ、二つと部隊が囲みを離れ、港の方へ向かっていく。
その隙を裂くように、援軍が到着した。
「ラクシュミー、もう大丈夫だ」
ナーナー王とトーペーの姿を見た瞬間、
ラクシュミーの張り詰めていたものが、わずかにほどけた。
「ここは捨てる。脱出だ」
「でも……!」
「また帰ってくる」
ナーナー王ははっきりと言った。
「今、ここで死んでもらうわけにはいかない」
トーペーも静かにうなずく。
「生きていれば、取り返せる。
わかってくれ」
ラクシュミーは唇をかみしめ、
やがて小さく、しかし確かにうなずいた。
その日、
エンドア北部メーラトにて、
東エンドア会社に仕える傭兵セポイたちが反旗を翻した。
反乱軍は翌日にはデラーへ到達し、
当地のセポイもまた蜂起してこれに合流した。
彼らはエスカミオ人をはじめとする外国人を人質に取り、
イヴァール皇帝バハードゥル・シャー二世を擁立。
ここにエスカミオ王国への宣戦が布告された。
カーンプルではナーナー・サーヒブ、
ビハールではクンワル・シング、
アワドではビルジーズ・カドルが立ち上がる。
反エスカミオ勢力は宗教や階級の垣根を越えて呼応し、
反乱は瞬く間に全土へと燃え広がった。
ラクシュミー・バーイーはカルドの姿を見るなり、
エスカミオ人への警戒から剣に手をかけた。
しかしターンティアー・トーペーの説明を受けると、
やがてその手を下ろし、静かに礼を述べた。
「助力、感謝する」
「しっかし、エスカリオ人がここまで嫌われるとちょっとめげますね」
ククルースがぼやく。
「しょうがないよな」
カルドは答えた
ラクシュミーは何か言いかけた。
だが――
カルドの視線は、その手に向けられていた。
(過酷な運命が、この人からいろんなものを奪っていったんだろうな)
傷だらけの手。
それを見た瞬間、カルドの脳裏に、
工場で震えていた少女の手がよみがえった。
「で、軍師の策は?」
カルドはあえて、その話題を断ち切るように言った。
「こちらをご覧ください」
トーペーは地図を広げた。
「デルーではバフト・ハーンが入城し、総大将に任じられました」
「我々は彼に会う必要があります」
「デルーが破られれば、反乱は解体するでしょう」
「そうなる前に――」
「決戦はデルーか」
カルドは静かに呟きながら、自隊の編成を頭の中で組み立てていった。
二人を別室へ下がらせると、
カルドはククルースと向き合った。
「お前、あの王妃さんにつけ。そばを離れるな」
「……?」
「あの人は、死に急いでる」
「でも、あっしは親分のそばを――」
「頼む」
その一言は、短く、重かった。
「……リチャードと最後に会ったとき、
あんな顔してたんだよ」
ククルースは、何も言わずに息を呑む。
「世の中にはな――」
カルドは、ゆっくりと言葉を選んだ。
「殺したい人間と、
どうしても殺させたくない人間がいる」
「……」
「平和な世なら、家族と幸せに暮らしてたはずだ」
「俺には家族はいない。
俺には、リチャードだけだった」
一瞬の沈黙。
「でもあの人は違う」
「今、反乱の象徴として――祭り上げられようとしてる」
カルドは顔を上げた。
「殉教者にはさせねえ」
「――俺が決めた」
ククルースは深くうなずいた。
「……へい」
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