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「セロ? いったいどこから――」
驚く僕に、真帆は「ふふん」と鼻を鳴らして、
「ハロウィン・パーティーに連れてくるって言ったでしょう? 周囲の様子がおかしくなってきた時点で、隠れていた私の鞄の中から出てきてもらっていたんですよ。何のためかというとですね――」
「真帆ちゃん! 大丈夫?」
真上から声がして上空を見上げてみれば、そこに浮かんでいたのは、
「――アリスさん!」
我が魔法研究部の名誉顧問(ということになっている)|楾アリスさんが可愛らしいデザインの施されたホウキに腰かけ、こちらに降り立つところだった。
「アリスさん! どうしてここに?」
乙守先生の光の縄から解放された鐘撞さんや榎さん、それから肥田木さんもこちらに駆け寄ってきながら、驚いたような表情で訊ねた。
「セロちゃんに呼ばれたのよ。真帆ちゃんが助けを呼んでるって」
それからアリスさんは小さくため息を吐いてから、
「……試験が始まったのね?」
アリスさんの言葉に、真帆は「いいえ」と首を横に振ってから、
「試験じゃなくて、私から夢魔を無理やり引きはがして、自分の中に取り込むって乙守会長は言ってましたけどね」
するとアリスさんは眉根を寄せ、真帆と同じように首を横に振り、
「――それは違うの」
「……え? どういうことですか?」
首を傾げる真帆に、アリスさんは小さくため息を吐いてから、
「これが、これ自体が認定試験なの。乙守会長は、本気で真帆ちゃんから夢魔を抜き出そうと考えているわけではない。真帆ちゃんがこの試験の中で明確な答えを出すこと、それが本当の目的なの。夢魔を抜き出すのは、その答え次第になるわ」
「明確な答え? いったい、何のこと――」
「それは、」
「――アリス、それ以上は言わなくていいわ」
再び上空から声が聞こえた。
乙守先生がホウキに跨って、身体中に小枝や葉っぱを引っ付けたまま、ニヒルな笑みを浮かべている。
「あなたは黙って見ていなさい。そう約束したはずでしょ?」
「……はい、会長」
おずおずとあと退るアリスさん。その姿は本気で乙守会長を畏れているようだった。
乙守先生は改めて真帆に視線を向ける。
「さっきはよくもやってくれたわね。おかげでほら、せっかくのハロウィン衣装が台無しになっちゃったじゃない」
バサバサと小枝や葉を叩いて落として見せる乙守先生に、真帆も同じくニヒルな笑みを浮かべてから、
「それは失礼いたしました。でも、会長が悪いんじゃないですか。あんな乱暴なことしてくるんですもの。正当防衛ですよ」
「はいはい、そうね、そうかもね」
それから乙守先生は大きく息を吐いてから、
「――早く答えを出さないと、あなたの夢魔を抜き出すのが先か、それともあなたたちの記憶が失われるのが先か、そういう話になっちゃうわよ?」
「だから、いったい何の答えを――」
「それは……自分で考えなさい!」
乙守先生は大きな声で口にして、右手の人差し指を口元に寄せる。そして次の瞬間、僕らに向かって猛火が迫ってきたのである。
火を吐いた、乙守先生が火を吐いたのだ。
妙な魔法陣を出してきたり、火を吐いてみたり、乙守先生は真帆たちとは違い、明確な攻撃的魔法を使えるらしい。
そう言えばいつだったか、真帆からかつて魔法を戦争に使おうと考えた支配者がいた的なことを聞いたことがあったような気がする。
確かに、こんな魔法が使えたらいろいろ役に立ちそうではある。
きっと乙守先生はこれでもかなり手加減してくれていそうだから、もしかしたら、もっともっとヤバい魔法を使えたりするんじゃないだろうか。
しかも、魔法は楽しい気持ちじゃないとうまく使えないという前提があるという真帆の言葉を信じるなら、乙守先生はこの戦い?を楽しんでいるということでもあるわけで。
僕らは驚愕しながら乙守先生の吐く炎から逃れる。
「さぁ、逃げてばかりじゃどうしようもないわよ! そろそろ儀式を始めようかしら」
「儀式? 何の儀式?」
焦る榎先輩に、乙守先生は「ふふん」と鼻を鳴らしてから、
「さっきから言っているでしょう? 楸さんから夢魔を抜き出す儀式よ!」
次の瞬間、ぶおんっと乙守先生の足下に金色に輝く魔法陣が浮かび上がる。先ほど真帆や僕たちに迫ってきた魔法陣とはまた異なった文様で、乙守先生は何か言葉を口に――恐らく呪文か何かを詠唱しているのだろう――し始めた。
「逃げてください、真帆先輩!」
鐘撞さんは叫ぶとホウキに跨り、乙守先生へと突っ込んでいった。
鐘撞さんは乙守先生に右手を掲げ、彼女に向かって風魔法を、突風を放つ。
けれどそれは魔法陣に阻まれ、そればかりか鐘撞さんに向かって跳ね返ってきたのである。
「――きゃあぁっ!」
鐘撞さんは自ら放ったその突風にあおられてバランスを崩し、ホウキから地面に落下してくる。
「鐘撞さん!」
寸でのところで、アリスさんがホウキを飛ばして鐘撞さんの身体をキャッチした。
「大丈夫っ!?」
「す、すみません、アリスさん――」
それから鐘撞さんは、再び僕らに顔を向けて、
「真帆先輩、早く逃げて!」
「――いいえ、逃がさないわ」
乙守先生の声が響いた瞬間、真帆の周囲に乙守先生の足下に広がる魔法陣と同じ文様が浮かび上がった。
咄嗟に真帆は逃げようとホウキに跨るも、しかしホウキはうんともすんとも動かない。
「え、なんで――」
徐々に魔法陣に包まれて行く真帆。
「真帆!」
僕は叫び、真帆に抱き着き、何とかその魔法陣から引っ張り出そうとしたところで、
「……えっ」
唐突に、肩からかけていた僕の通学鞄が強い光を発したのだ。
いや、正確には通学鞄ではない。
通学鞄のファスナーにつけていた、ケーキ屋の順子さんからもらったドリームキャッチャーが、もの凄い強い光を発していたのだ。
その光は魔法陣から護るように僕らの身体を包み込んで――あまりの眩しさに、僕も真帆も、思わず固く瞼を閉じたのだった。