テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
海底遺跡から持ち帰った『深海王の真珠』が、我が家の共鳴水晶とリンクした瞬間
島全体に劇的な変化が訪れた。
かつて視界を遮り、生気を吸い取っていた不気味な紫色の霧は完全に消失し
空の果てまで突き抜けるような青が戻ってきたのだ。
霧が晴れたこの島は、今や透き通るようなコバルトブルーの海に囲まれ
白い砂浜が宝石の粉を撒いたように輝く「地上の楽園」そのものだった。
だが、俺とアクアの「国造り」はここからが本番だ。ただの平穏な隠居生活で終わるつもりはない。
「アクア、準備はいいか? 島の基盤となる術式はすべて書き換えた。あとは君の歌声で、この島に『翼』を授けてくれ」
「はい、カイリ様! わたしたちの新しいお家を、空の冒険へ!」
アクアが深海王の真珠の力を解放し、空高く、どこまでも澄み渡る歌声を響かせる。
俺は砂浜に膝をつき、力強く両手を突き立てた。
狙うのは島を支える土台、巨大な岩盤の分子構造そのものだ。
現代物理学の粋を集め、質量を維持したまま重力を遮断する未知の物質へと再構成していく。
「固有スキル『水質浄化(モレキュラー・フィルタリング)』──重力子抽出・固定!」
ゴゴゴゴゴ……!
内臓を揺らすような凄まじい轟音と共に
島全体がゆっくりと、しかし確実に海面から離れ始めた。
単に浮かび上がるのではない。
俺は現代知識にある「ジャイロ効果」を応用した姿勢制御術式を岩盤の隅々にまで組み込み
高度300メートルの空中でピタリと停止させた。
眼下に広がるのは、俺たちが浄化したばかりの、陽光を反射して輝く大海原。
空に浮かぶ究極の海上都市──『スカイ・アクア・パラダイス』の建国である。
◆◇◆◇
島を浮かせてから数日後──…
海域を覆っていた魔毒が消え去り
空に島が浮いているという異常事態を、外の世界が放っておくはずもなかった。
遠くの水平線から、風を切り裂いて一隻の重厚な調査船が近づいてくる。
「カイリ様、人間さんの船です!でも、なんだか怪しいです。もしや…わたしたちを捕まえに来たのでしょうか……?」
不安げな表情を浮かべ、俺の腕にギュッと縋り付くアクア。
船の甲板には、太陽の光を跳ね返す白銀の鎧。
かつて俺を「無能」と断じて追放した国
アステリア王国の紋章をつけた騎士や、高慢そうな魔導師たちが、顎が外れんばかりに呆然として空を見上げていた。
「心配ない。むしろちょうどいい客だ。俺たちの『国』の凄さを、まずは胃袋から叩き込んでやる」
俺は即座に一階のリビングの壁を透過・展開させ
海と空を独占できる「絶景テラス・レストラン」へと改装した。
船から降り立ち、魔導エレベーターで恐る恐る上陸してきた調査団。
彼らを待ち受けていたのは、敵意でも武力でもなく、鼻腔を狂わせるような「禁断の香り」だった。
「な、なんだこの匂いは……!? 胃の奥が熱くなるような……こんな食欲をそそる芳醇な香りは、王宮の晩餐でも嗅いだことがないぞ!」
調査団のリーダーである老魔導師が、杖を持つ手も震わせ、涎を堪えきれずに叫ぶ。
「ようこそ。ここは中立地帯、空中海上都市『アクア』だ。まずは旅の疲れを癒してくれ」
俺が彼らの前に、慣れた手つきで差し出したのは
現代の科学的調理法(分子ガストロノミー)を駆使した至高のメニューだ。
『特製・大エビのガーリックシュリンプ〜燻製魔導塩仕立て〜』
そして、クリスタルグラスの中で細かな気泡が踊る
キンキンに冷えた『浄化水生成・黄金エール(ノンアルコール)』である。
「……っ!! な、なんだこれは!? この赤い甲殻類……殻までパリパリと心地よく食べられるぞ!? それにこの、刺激的で芳醇な『ガーリック』という未知のスパイス……脳が、脳が痺れる!」
「この黄金色の飲み物も……喉越しが! 弾けるような刺激が、五臓六腑に染み渡る……っ! 今まで飲んでいた泥水のような酒は何だったのだ!」
彼らは貴族としての礼儀も、騎士としての誇りも忘れ、獣のように貪り食った。
無理もない。
この世界の料理は、不純物を恐れるあまり「煮込みすぎて素材の味が死んでいる」か
保存性だけを求めた「味の薄い乾物」ばかりなのだ。
メイラード反応を極限まで引き出し、旨味成分を分子レベルで凝縮・強化した俺の現代美食は
彼らにとって文字通りの「麻薬」にも等しい衝撃だった。
「これを……これを毎日食べられるなら、ぜひとも移住したい!」
「私もだ!私の持つ知識も財産もすべて差し出す! 頼む、この島に住まわせてはくれないか!?」
老魔導師が涙を流し、情熱的に俺に頼み込んでくる。
「大歓迎です。うちは来るもの拒まずですよ」
俺が不敵に笑って答えると、他の騎士たちもすっかり戦意を喪失し、武器を置いておかわりを要求する行列を作っていた。
「ふふっ、カイリ様。人間さんたち、みんな幸せそうですね」
アクアがクリスタル・バスタブから身を乗り出し、濡れた肌を輝かせながら嬉しそうに微笑む。
その背後では、彼女の深い幸福感に共鳴した「共鳴水晶」が、島のエネルギーをさらに増幅させ、より一層高く浮遊させていた。
「ああ。剣や魔法で支配するより、美味い飯で支配する方が遥かに合理的で、何より気分がいいからな」
この日を境に、「死の島」に空飛ぶ楽園があるという噂は、風に乗って世界中に広まることになる。
俺を捨てた家族や国が、この「絶品の味」を求めて泣きながら土下座しに来る日は、もうすぐそこまで来ていた。
「さて、アクア。次は来客用に『露天風呂付き最高級スイートルーム』でも作るか。外貨もしっかり稼がないとな」
空中海上都市の建国。
それは、世界で最も美味しく、最も贅沢な「復讐」の始まりでもあった。