テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
足元の血溜まりが、私の膝を冷たく、そしておぞましいほど熱く染めていく。
視界が赤く明滅し、鼓動が耳の奥で早鐘のように打ち鳴らされていた。
「ぁ……ぁぁ……」
嗚咽が、枯れ果てた喉から不格好に零れ落ちる。
唇を噛み締めすぎて、口内には鉄の味が充満していた。
だが、その痛みすらもダイキリの喪失という絶望の前には無に等しい。
(こんな……こんな終わり方なの?)
母の仇を討つために、地獄を這いずり回ってきた。
それなのに、母の仇を討つどころか
私を信じてくれた唯一の仲間を、妹のように愛おしかった彼女を、自らの手で屠った?
現実を拒絶しようとする脳が強制的に思考をシャットアウトしようとするが
腕の中に残るダイキリの肉体の、急速に失われていく体温がそれを許さない。
「アルベルト……嘘だと言って……お願い、これはまだ、あいつが見せている悪い夢なんでしょ……っ?」
掠れた声で問い掛ける。
だが、返ってくるのは冷酷な沈黙と、スラムを叩く雨の音だけ。
アルベルトは何も言わず、ただ、苦痛を耐えるように目を伏せていた。
「ダイキリ……ごめんなさい。……ごめんなさい……っ」
涙が止まらない。
体中の水分が枯れ果てるほど泣き続けているのに、溢れ出す悲しみという名の毒液は尽きることがない。
やがて嗚咽が静まり、代わりに底なしの虚脱感が私を支配した。
「ダイキリは…私が守るって、絶対に守るって約束したのに……っ」
膝をついたまま、震える手で、もう動かないダイキリの頬に触れた。
泥と血に汚れ、驚くほど冷たくなった肌。
もう、彼女は笑ってくれない。
私とアルベルトの仲を茶化して、キャーキャーと騒いで、場違いなほど明るい声でカクテルを提供してくれた
あの愛すべき日々は、私の指が引き金を引いた瞬間に永遠に失われたのだ。
「無様だなぁ、エカテリーナ。最高に滑稽なバッドエンドじゃないか」
頭上から降り注ぐ、父・ブロンクスの自嘲するような笑い声。
その瞬間、心の奥底で何かが決定的な音を立てて粉砕された。
これまで私を支えてきた信念も、復讐者としての矜持も
すべては砂の城のように脆く、父の嘲笑という風にさらわれて消えていく。
「……っ、黙れ……」
乾いた、感情の死んだ声が漏れた。
元々壊れていた心の一部が、再び、より修復不能な形に壊れたのを感じる。
ダイキリの無残な姿。
父の勝ち誇った顔。
私はもう、何も分からない。
善も悪も、喜びも悲しみも、全部どうでもいい。
ただ一つ、はっきりしているのは
この男を、この世界から跡形もなく消し去らねばならないということだけ。
私は、もう一度『死体操作《デッドリー・マリオネット》』を起動する。
魂を削り、魔力の残滓をかき集めて、無理やり術式を編み上げる。
「許さない」
復讐の念だけを燃料に、自らの命を燃やす禁忌の魔術。