今夜はよく冷える、暦のうえでやがて11月になるのだから
今日もフランス料理店の彼の店、トゥルヌソルはディナーが盛り上がっている。
「オーダー、2番さん、5番さんにポワレとコンヒィを」
「6番、11番席空きました」
双子の男性スタッフのルキとミチが店内を忙しく動いている
厨房ではオーナーシェフのローランと料理長の篝がスマートに調理する
 「今日はマダム達の割合が多いなぁ」
「うーん、そうですか?」
キョロリと篝は客席側を見渡す。
「今日はいつものマダムの集まりの会、マダムミュゲのお客様たちなの」
ベテランウェイターのアヤノさんが顔出す
「そうだったのか、どうりで珍しくビールやウイスキー類が出ないわけだ…」
そう言うのはソムリエのツバキだ
「女性の方と男性の方の違いがあるの?」
疑問げに聞くアヤノさん
「そういう感じお酒チョイスにしたのはツバキだろう?」
にやけながら言うのは篝だ
「マダム達に好評なのはワインに果実酒、カクテルの方が多いのだよ」
「言われて見れば確かにそうね、今日はビールよりカクテルとワインがよくでているわね」
顎に手を当て、
「男性客なら、ビールにウイスキー、辛口の酒がよく飲まれるよな」
ツバキはワイングラスを拭きながら
「このような日は、ビールにウイスキーが泣く」
酒好き大臣のツバキの一人言
そんな傍ら、ローランは黙々と作業する
和牛のローストビーフを切り分けていき、手製のソースが香る
「オーダー2番さんに」
サッと受け取るルキ
「ツバキさんの嘆きは今日は一段とだなぁ」
「まぁ、酒大臣だからな……オーナーはあえて、口出し……いや、おまかせしているんだろう」
だべる双子に背後から ローランの指示
「二人とも、2番6番さん、早急に」
「「はい、シェフ」」
 しばらくすると、長話が落ち着きマダムたちは会計のために席を立つ
「ごちそうさま」「美味しかったわ」と温かいコトダマが広がる
「またお越しくださいませ」
アヤノの柔らかな笑顔でおみおくり
店内に静けさが戻り
「フー!やっとゆっくりだぁ 」
「確かに今日はいろいろたずねられたな」
「みんな、お疲れ様」
ルキとミチは皿を運びつつ、労うアヤノ
フライパンを片しつつ、調味料を戻す篝、残ったものの賄いにして大皿にまとめる。
「賄いここな出してるからな、冷めたら固まるからな」
(油脂の多い肉料理とパンが並べられる)
「美味そう!いただきます」
「いただきます……」
すぐに食べるのはルキとミチ、やや遅れて食べるアヤノ
「篝、このソースパンに合う」
「ハーブをかけ過ぎたものだからな、塩辛くないか?」
もぐもぐと咀嚼する
「俺は丁度いいですよ」「言われてみれば?」
「言われないと気づかないかもね」
 レジ締めに片付けの掃除が終わり店内の明かりが落ちる
「今日も無事にありがとう」
一言、オーナーシェフのローランが呟く
彼は、店に鍵を閉め、家路に向かう。
 月夜に彼の白い息がホッと見える
彼を待つ家族の玄関に小さな温かい待火
扉を開けると彼の子供たちと妻が迎える
 彼はまた、明日もこの光景を見れるようにとささやかに願う
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!