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黒猫ランドの入り口付近に黒のアルファードが止まった。
「やっぱり、人でごった返してんなぁ」
そう言って、後部座席に座る五郎が黒猫ランドに視線を向ける。
「七海、防犯カメラの映像は?」
スマホを耳に当てている一郎は七海に尋ねた。
四郎が黒猫ランドに行く際に、メンバーのスマホにメールを送信していた。
内容は、三郎のJewelry Wordsの能力で見た未来の事だ。
別行動している七海に、黒猫ランド内の防犯カメラの映像を確認させていた。
「防犯カメラの映像を見た限りだと、四郎達はバラバラに行動してるね。しかも、モモちゃんが四郎を追い掛けてる」
「別行動!?どう言う事!?」
五郎の隣に座っていた六郎が、体を前に乗り出す。
「四郎が辰巳さんにモモちゃんを預けたんだけど…。モモちゃんが慌てて、四郎を追い掛けたって感じ。六郎が聞きたかった事は説明出来た?」
スマホの通話機能をスピーカー設定にされている為、車内全体に七海の声が響く。
「いや、そうだけど!!モモちゃんを保護しに行かないとだめじゃない!!」
「六郎、人の多さ見てない?芦間啓成って男が一般人を撃って、死人が出てる。今も、テレビ局の人間がヘリコプターで中継してる。正面から入るのは無理だよ」
「ちゅ、中継!?」
七海の言葉を聞いた六郎は目を丸くする。
「下手な動きをしたらこっちが目立つ。だから、ちゃんと違う情報を流しておいた」
「違う情報…?」
「あ、ちょっとニュース見てみて」
七海と六郎の会話に二郎が割って入り、車内に付いているテレビに目を向けさせる。
テレビ画面には、中継されている黒猫ランド付近に切り替わっていた。
黒猫ランド内ではなくランド周辺で発砲が起きた事。
そして、黒猫ランドは安全の為に閉鎖をするとの事。
この2つの情報と加え、犯人は東京渋谷方面に逃亡したと放送されていた。
犯人と思われる黒ずくめの服を着た男が、映像に流れ始めたのだ。
「もしかして、これって七海がやったのか?」
「まぁ、時間稼ぎにはなるでしょ。警察はそっちにも行くと思うけど、渋谷方面に人員を回すと思う。それと、従業員入り口なら入れるよ。電子ロック解除しと
いた」
「流石、仕事が早いね」
カチャッ。
そう言って、二郎は愛銃のFive-seveNを取り出す。
「了解した。従業員入り口から侵入し、四郎と三郎の援護に向かう」
「うん、出来れば𣜿葉さん達の方にも行ってほしい。ちょっとやばそう」
「分かった、𣜿葉さん達は俺と六郎で行く。二郎と五郎は四郎と三郎の方に言ってくれ」
七海の提案を聞いた一郎は、愛銃のデザートイーグル50AEに弾を込めながら指示を送る。
「「「了解」」」
一郎以外のメンバーが同時に返事をし、愛銃を構えた。
CASE 三郎
ズキンッ。
頭に小さな痛みが走った瞬間、脳裏に映像が流れ出す。
モモちゃんが泣きながら四郎を追い掛けるシーンだ。
最悪な状況だ。
「ッチ、あのクソガキ…」
怒りのあまり思わず本音が漏れてしまう。
この三下を早く片付けてから、モモちゃんを迎えに行かないと。
モモちゃんが四郎を追い掛けた理由は検討がつく。
四郎を怒らせて、慌てて追い掛けたんだろうな。
目の前にいる三下はみっともなく刀を振り回してる
し。
薬で頭がイカれてる奴程、動きが単調になる。
伊織に初めて人を殺せと言われ時も、薬で頭がおかしくなった奴だったな。
「どうした!!さっさと動けよ!?」
「うるさ、喉を切ったら吐かせらんないしなぁ…」
「あぁ!?」
「あ、そうだ」
ピンッとひらめき、ナイフを取り出す。
「ナイフなんか取り出しやがって。どうせまた、投げ飛ばすんだろ?!」
「向かっておいでよ。お前は刀を使うほどでもないからね」
その言葉を聞き腹を立てた三下が、刀を振り回して向かって来る。
向かって来た瞬間、腰を引くくし三下の太ももにナイフを突き刺さす。
グサッ!!
何度も何度も同じ箇所にナイフを差し込む。
「や、やめろ!!!いっ!?」
「はぁ?やめるわけないじゃん」
グサッ、グサッ、グサッ、グサッ!!!
三下の苦痛の表情を見ずに、ナイフを刺し続ける。
血飛沫と血肉のような物が飛び散る程、ナイフの刃を抉りながら刺す。
「やめろって言ってんだろ!!」
ビュンッ!!
三下が刀を突き刺そうとするが、太ももの傷口をナイフで抉ってやる。
グチャ、グチャ!!
刀の刃が俺の肩に刺さる直前、三下の膝が崩れ落ちた。
ドサッ!!
みっともなく前から地面に崩れ落ち、痛みのあまり動けなくなる。
三下の背中に逆方向に思いっきり座り、右足首を持ち上げた。
「テメェ、何にする気だよ!?」
「何するって、こうするんだよ」
そう言って、右足首のアキレス腱にナイフの刃を食い込ませる。
「や、やめろよっ…。や、やめてくれ!!」
「聞くわけねーだろ、三下が」
ナイフの刃を思いっきり引くと、アキレス腱から血が噴き出す。
ブジャァァァァ!!!
「グァァァァァァァア!!!」
「んー、まだ浅いかな?もっと深く切っとこ」
「やめろって言って…!!」
「うるせーなぁ」
三下が持っていた刀を持ち上げ、背中に突き刺した。
グサッ!!!
「グッ、グァァァァァァァア!!」
「うるせーって、マジで」
三下からアキレス腱に視線を戻し、深く切り直す。
ブシャッ!!
騒いでいた三下も痛さのあまり、失神してしまったようだ。
ジュワワワッと股から尿が流れ出していた。
三下の背中から腰を上げ、左足首を持ち上げる。
さっきと同じようにアキレス腱を深く切り、左足首から手を離す。
バタンッと力なく落ちる足首を見つめながら、村正を持つ。
「モモちゃんを追い掛けないと…」
「三郎!!」
声のした方に視線を向けると、五郎が叫びながら走って来ていた。
「あれ、五郎じゃん。それに二郎も?」
「三郎、その人は誰?」
「あー、こいつね、椿恭弥の所の殺し屋で、捕まえて色々吐かせよーと思って。アキレス腱切っといた」
俺の言葉を聞いた2人は、切られたアキレス腱に視線を移す。
「相変わらずひでー事すんな…、マジで」
「丁度良かった。コイツの事を頼むよ」
「どこ行く気だよ、お前」
そう言って、五郎が俺に尋ねて来る。
「四郎の所にね」
「僕達も四郎の所に行くよ。四郎から黒猫ランドに行く前に、連絡を貰っていたから」
「いや、俺だけで大丈夫だよ。モモちゃんもついでに保護するよ」
「ついでにってなぁ…。お前、モモちゃんには優しくしろよ?」
二郎が苦笑いしながら言うが、優しくしようと言う気になれない。
ガツンと一言、文句を言わないと気が済まない。
「優しくってさぁ。勝手な行動してるモモちゃんに?」
「そうだよ。三郎がモモちゃんを毛嫌いしてるのは、仕方ないけど…」
「どうせ、モモちゃんがボスの悪口言ったんでしょ。四郎の逆鱗に触れたに違いない」
「あぁ…、成る程」
俺の言葉を聞いた二郎は妙に納得した様子だ。
「この男の件は了解したよ。五郎、コイツを連れて車に戻って。ちゃんと拘束すんだよ」
「分かってるって!!んじゃ、先に戻ってるわ」
そう言って五郎は三下を担ぎ上げ、歩き出した。
「早くモモちゃんを見つけないと…」
「あぁ、それなら数メートル先にいるよ。走ればすぐに追いつく距離だね」
「なんで分か…、あ。そうか、Jewelry Pupil同士だと気配で分かるのか」
「あ、モモちゃんと少し話したいからさ、口出ししないでね」
二郎に釘を指した後、小走りでモモちゃんのいる方向に向かう。
「なぁ、三郎。1つだけ聞きたい事があるんだけど」
「何?」
「モモちゃんを毛嫌いする理由って何?」
「そんな事が聞きたいの?二郎」
俺は足を止め、二郎の方に視線を向ける。
「四郎なりにモモちゃんを大事にして来てる。その事に対して、ヤキモチみたいなものを抱いてんじゃないか?だから、俺はモモちゃんを毛嫌いしてると思ってる」
二郎の話を聞いて思わず溜め息が漏れてしまう。
何を言い出すかと思えば、くだらない事を聞いて来たな。
今まで散々聞かれて来た言葉だ。
ヤキモチ妬いているの?
恋愛感情を抱いてるの?
この2択の質問を散々聞かれ、嫌気がしていた。
モモちゃんにヤキモチを妬いてるか。
「ヤキモチ妬いてる?そんな訳ないでしょ。それに、
前にも言ったよね?俺、この手の質問は好きじゃないって」
「分かってるよ。だから、僕だけが質問してるんだよ」
「モモちゃんの事は嫌いじゃないよ?ただ、四郎の邪魔をする所は好きじゃないだけ。現に、今がそうじゃん」
「子供なんだから仕方ないだろ?それは」
まぁ、二郎に言っても分からないよね。
もう、喋るのもめんどくさいなぁ…。
パァァンッ!!!
「「!!」」
そんな事を思っていると、パァァンッと何かが破裂した音がした。
「黒猫城の方向だ」
「四郎が撃たれた?って訳でもなさそうかな?」
「急いで行こう」
俺と二郎は急いで黒猫城に向かった。
その頃、𣜿葉孝明と芦間啓成はホラーハウス内に移動していた。
薄暗いホラーハウスは、使われていない洋館をイメージに作られている。
だが、そんな事よりも𣜿葉孝明は深手を負わされていた。
CASE 𣜿葉孝明
俺は薫の手を引き、2階の角部屋に入り身を隠す事にした。
扉を静かに閉め、扉に背を向けて腰を下ろす。
「あ、兄貴っ。僕を庇った所為でっ」
「大丈夫だから泣くな」
そう言って、泣き出す薫の頭を優しく撫でる。
芦間の背後から誰かに撃たれた右肩が痛みむ。
撃って来た人物は、あきらかに薫を狙って撃って来た。
庇って俺が撃たれて良かった。
ここにも芦間以外の人物が入って来た気配がしたが…。
薫を連れての行動は危険だな。
そんな事を考えていると、クローゼットが目に入った。
「薫、クローゼットに隠れてろ」
「え?な、なんで…」
「芦間以外の野郎が薫を狙ってる」
「…っ」
「俺は死なないから大丈夫だ」
薫の体を持ち上げ、クローゼットの扉を開ける。
埃くさい匂いが鼻を通り、喉に埃が絡まり咳が出た。
「ゴホッ。少し埃っぽいが我慢出来るな?」
「出来るけど…」
「良い子で待っててくれ」
「兄貴…、僕の力を使って良いから…ね?」
不安が拭いきれてないが仕方ない。
ミシッと木が軋む音がしてるし、2階に上がって来た…か。
「薫、部屋を開けられないようにしておく。絶対に何があっても声を出すな」
「…」
置いてかれる事が不安な薫をどう慰めるべきか。
「薫」
「やだ…。お兄ちゃんが優しい声を出す時は、嫌な時だ」
薫が普段兄貴と呼ぶのは、意地を張って男の子っぽくしたいからだった。
2人きりの時、甘えて来る時はお兄ちゃんと呼ぶ。
薫は本当は甘えん坊だ。
「お兄ちゃん…、お願いだから行かないでよ…っ」
「薫、それは出来ない」
「何で?何で…?」
「お前の為だからだ」
芦間を殺さない限り、薫が平和に暮らせる日々が訪れない。
俺は薫の安全を何よりも確保しておきたい。
「おに…」
ミシッ…。
「薫、すぐに戻る」
クローゼットの扉を閉めて、薫のJewelry Wordsの能力で鍵付き南京錠を取り出す。
「お兄ちゃん!!」
ガチャンッ!!
扉に南京錠を施錠し、後ろ髪を引かれる気持ちのまま部屋を出た。
ミシッ、ミシッ。
近くにあった置き物の後ろに隠れ音の正体を探る。
ミシッ、ミシッ。
銃を握る手と額に汗が滲み出るのが分かった。
音からして1人分か…。
置き物の物陰から少しだけ顔を出して覗き込む。
薄暗いが芦間の姿を確認出来た。
あの頃みたいに集中して、本気を出すか。
「スゥ…、ハァ…」
大きく息を吸って吐いた後、体勢を低くし銃口を向ける。
カチャッ。
音が出るのは仕方ないが、芦間の足を撃って動きを止める。
ミシッと音がした瞬間に引き金に指を掛け、引き金を引いた。
パァァンッ!!!
ブシャッ!!!
芦間の右足に銃弾が当たり、体勢を崩す。
「そこに居たか、𣜿葉!!」
カチャッ!!
体勢を崩すしながらも、芦間は銃口を向け引き金を引く。
パァァンッ!!!
物陰から飛び出て芦間の元に向かう途中、弾丸が頬を擦れ小さな痛みが走る。
タタタタタタタ!!!
床に膝を付いてる芦間の顎に向かって蹴りを入れた。
ゴンッ!!
「ゔっ!?」
芦間の低い声と鈍い骨が足の甲にぶつかる音が響く。
パァァンッ、パァァンッ!!
容赦なく芦間の体に向かって銃弾を放つ。
ブシャッ、ブシャッ!!
薄暗い中血飛沫が上がり、顔や服に血が付着する。
「あははは!!痛ってぇ…っな、おい!!」
ブン!!
パリーンッ!!
視界がぐらっと揺れ、床に崩れ落ちた。
何がどうなって…?
床には粉々になった花瓶と花が散乱している。
ポタッ、ポタッ。
赤い雫が床に垂れ落ちたのを見て、状況が理解出来た。
芦間が落ちていた花瓶で、俺の頭を叩き割りがやがった。
カチャッ!!
パァァンッ!!
血で視界が滲む中、銃口を芦間に向け引き金を引く。
「当たってねーよ!!」
そう言って、芦間が俺に向けて引き金を引いた。
パァァンッ!!
ブシャッ!!
右の脇腹に焼けるような熱さと痛みが走る。
「っ…ゔ」
「あははは!!痛てぇーか、𣜿葉?」
「この糞野郎がっ」
「喧嘩なんてなぁ、勝ちゃいんだよ。どんな手を使っても勝てば良いんだ」
そう言って、芦間は真顔になった。
「愛ってよぉ、こう言う事を言うのかねぇ」
「テメェが言えたタマかよ」
「お互いガキが殺されねぇように隠してよ。馬鹿らしいよなぁ?」
ゆらゆらと体を揺らしながら芦間が笑う。
芦間は大抵の傷を負っても平気で笑う奴だ。
どうしたら確実に殺せるか。
その事ばかりが頭を過り、思考を巡らす。
割れた花瓶の破片をバレないように取り、様子を伺う。
破片が手に食い込むが、気ににしてる場合じゃない。
芦間の言う通り、喧嘩は勝てば良い。
薫、悪い。
少しだけ力を使わせてもらうな。
目を閉じて煙玉を想像すると、手のひらから煙玉が現れた。
そのまま煙玉を床に叩き付ける。
ボンッ!!!
白い煙が上がり、芦間は煙を手で払うような仕草をした。
俺は煙に乗じて姿勢を引くくし、芦間に向かって入り込む。
タタタタタタタ!!!
グサッ!!
躊躇なく芦間の胸にガラスの破片を差し込んだ瞬間。
「待ってたぜ」
パァァンッ!!
芦間がそう言って引き金を引いた。
胸より下の鳩尾部分に熱い感情と痛みがした。
「ガハッ!!」
込み上げて来る血を吐き出すと、全身に倦怠感が押し寄せた。
自分でも分かる。
これは、やばい状況だって。
芦間に撃たれた場所から、どんどん血が溢れ出て来る。
ドサッ!!
「よ、啓成…?」
「出て来たらダメだろぉ…?リン」
最悪のタイミングで現れやがったな…。
「む、胸。胸にさ、刺さって…っ!!」
「大丈夫だって」
「大丈夫だじゃないよ!!だ、だって…」
「心臓部分に刺さってるからか」
「!!」
運の良い事に心臓部に突き刺せたらしい。
渾身の力を込めてガラスの破片を突き刺した甲斐がある。
「𣜿葉ぁ、お前は死にそうなだなぁ?」
芦間が見下ろしながら言葉を吐いている事は分かった。
だが、もはや何を言っているのか分からない。
血を流し過ぎている所為なのか、体に力が入らないのだ。
床に倒れたまま、頭は動けと命じているのに体が動かない。
早く起き上がらないといけない。
なのに、傷口から血が溢れ出て来るのが止まらない。
カチャッ。
「俺の勝ちだな、𣜿葉」
倒れてる俺に向かって、芦間が銃口を向ける。
パァァンッ!!!
ブシャッ!!!
クローゼットの中で𣜿葉薫は、扉をこじ開けようとしていた。
「お兄ちゃんの所に行かないと」
思いっきり、クローゼットの扉に蹴りを入れるもびくともしなかった。
ガチャンッ、ガチャンッ!!
「鍵を閉めたんだ、お兄ちゃん。だけど…、僕のJewelry Wordsで出した鍵なんだ」
クローゼットの扉に触れ、鍵が消えるイメージをする。
ギィィィィ…。
「開いた」
パァァンッ!!
「っ!!」
𣜿葉薫がクローゼットの扉を開けた瞬間、廊下から発砲音が聞こえた。
嫌な予感がした𣜿葉薫は、クローゼットから出て部屋を飛び出す。
タタタタタタタッ!!
長い廊下を走ると、𣜿葉孝明が血だらけで倒れている姿を目撃した。
芦間啓成に銃口を向けられている𣜿葉孝明は、動けないでいた。
𣜿葉薫はその光景を見て、鼓動が早まり息遣いが荒くなる。
脳裏に母親と父親を芦間啓成に殺される映像がフラッシュバックしていた。
芦間啓成に𣜿葉孝明が殺される。
そう思った𣜿葉薫は、𣜿葉孝明との生活の日々を思い返していた。
𣜿葉孝明を失う事は、𣜿葉薫にとっては死ぬのと同然だった。
𣜿葉薫の背中から紫色の羽が生え、パープルスピネルが装飾された王冠が頭に乗る。
「嫌だ…、お兄ちゃんだけは失いたくない」
そう言った瞬間、𣜿葉薫の手には拳銃が握られていた。
慣れない手付きで拳銃の銃口を芦間啓成に向け、勢いよく引き金を引いた。
パァァンッ!!!
背後から発砲音が聞こえると、芦間が心臓部分を押さ
えて膝を床に付けた。
何が起きてるんだ?
「啓成ぃ!!!やだ、やだやだやだ!!」
芦間の体に縋りつきながら少年が泣いている。
「お前が…っ、撃ったの!?」
少年は俺の背後に視線を向けながら叫んでいた。
「はぁ、はぁ…っ」
ヒラッ。
小さな吐息に紫色の天使の羽が舞い落ちる。
パープルスピネルが装飾された王冠に、紫色の羽が生えた薫の姿が目に入った。
薫の手には銃が握られていて、銃口からは白い煙が出ている。
「かお…るなのか…」
「お兄ちゃん!!あ、あぁ…っ、こんなに血がっ!!」
「薫が芦間を撃ったのか」
俺の問いに答えずに薫は抱き付いてきた。
答えなくても分かっていた。
俺の為に薫が芦間を撃った事は。
「すぐに治すからっ」
シュルルルッ…。
赤い血液の糸が撃たれた傷口の中に入って行く。
薫のJewelry Wordsの能力で傷が治療されて行く中。
芦間は俺と薫を殺せる絶好の機会なのに、起き上がらなかった。
いや、薫が撃った事で芦間には致命傷を負っていたのだ。
𣜿葉孝明の予想通り、芦間啓成の心臓は𣜿葉薫によって撃ち抜かれていた。
「リン…、怪我はねぇか」
「ないっ、ないよっ。よ、啓成っ、血が止まらないよっ」
リンは芦間啓成の心臓部分を泣きながら押さえていた。
芦間啓成自身も自分が死ぬ事は、目に見えていたのだ。
「リン」
そう言って、芦間啓成はリンの頬に触れる。
「お前、俺といて幸せだったか?」
「何で、今…。そんな事聞くの?お別れみたいでやだ
よっ」
「俺はお前を幸せに出来たのかな」
「え…?」
リンはその言葉を聞いて驚いた。
芦間啓成が自分の事を大切にしてくれていた事は、分かっていた。
「幸せだよっ、啓成と暮らせて幸せだよっ。だから、お願い…っ、死なないでよっ!!!」
「お前の首輪…、切ってやる」
芦間啓成はナイフを取り出し、リンの首輪を切り離す。
ブチッと切れた首輪が床に落ちる。
「啓成。僕のJewelry Wordsの能力が、使い物にならなくてごめんなさいっ。僕が役に立たない所為で、啓成がっ、啓成がっ…」
「リンのJewelry Wordsの能力が役に立たなくても、立っても大事だ。リン…」
「啓成っ?」
芦間啓成は虚の瞳をリンに向けたまま、最後の言葉を残した。
「リン…、愛してる。こんな俺に…、お前を愛させてくれて…、ありがとう」
「っ…。啓成?僕も愛してるよっ。だから、お願いだからっ…」
スルッとリンの頬から芦間啓成の手が力なく離れる。
何度も何度もリンが、芦間啓成の名前を呼んでも反応しなかった。
𣜿葉孝明は芦間啓成が、最後に残した言葉が胸を痛くさせる。
「嫌だ、いやだぁぁあぁぁぁあ!!啓成、啓成ぃぃ!!!」
芦啓成の冷たくなった体にリンは抱き付き、狂ったように泣き叫んだ。