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第11話:再生する顔
「なんで、あの子……ただ“写真を見ただけ”で、笑いながら倒れたの?」
事件の発端は、とある中学校のSNSグループだった。
流行していたのは「#今日のスマイル投稿チャレンジ」。
1日1回、自分の笑顔を撮影し、特定のテンプレートフレームで加工して投稿する——
ただそれだけの、ごくありふれたルーティン。
でも、ある日から異変が起こる。
“笑顔の写真を見た者”が、次々に笑いながら昏倒していった。
■ 犯人は、《フォトスマイル》
違法ドラックミュージックの画像埋込型バージョン。
視覚と感情の回路をハイジャックするよう設計されており、
“笑顔の写真”を見ることで音が脳内で再生される仕組みになっていた。
調査を担当したのは、EDM作曲者アズミ・ケイ(24)。
白髪まじりの短髪、黒のレザーパンツに、上着は光吸収素材のフーディー。
目元には深く刻まれたクマと、左右非対称のノイズキャンセラー型ピアス。
彼は、“音が可視化されたもの”を逆解析する専門家だった。
「音は波だけど、目で聴く音が存在してしまった。
この“フォトスマイル”、ただのドラックじゃない。
……“笑顔という感情の構造”そのものが、音になって埋め込まれてる。」
ケイが写真をスキャンすると、
画像の中にある光と影のバランスが一定の法則で並び、
脳がそれを“音”と誤認する周波数パターンを成していた。
「……これは、“見せる音楽”だ。
ドラックミュージックの最終形かもしれない」
■ 一方、被害者の中にひとり、
“笑っていないのに感染した少女”がいた。
名前はヨミカ(17)。
黒髪をポニーテールにまとめ、目元はつねに伏し目がち。白いニットにシンプルなスカート。
SNSでは“無表情ガール”として知られていた。
彼女は、フォトスマイルの“発信元”となった写真の、作者だった。
「私、もともと笑えなくて……。
でも“笑顔のフレーム”って、どんな表情にもフィルターかけてくれるじゃん?
みんなが喜ぶから、つい上げたの……」
ヨミカの“偽装された笑顔”が、
見る者の脳内で“リアルな快楽信号”を再生させる仕組みとなり、
それが**SNS拡散による“感情感染”**となって広がった。
ケイはヨミカの写真から“音の断片”を取り出し、
EDMの構造で反転パターンを構築する。
> 対抗音源:《silent_face_ver.1》
効果:フォトスマイル再生後の“笑顔持続時間”を0.5秒に短縮し、
脳内感情同期を打ち切る。
「俺らEDM作曲者は、笑わなくて済む音を作る。
あんたの“作られた笑顔”が、誰かを殺した。
……でもそれは、“誰かがほんとうに笑いたかった”ってことだ」
その日以降、#今日のスマイル投稿チャレンジは消えた。
だが、SNSに笑顔が並ばなくなると、
人々はかえって、不安になった。
夜、ヨミカは初めて**“笑っていない自分の顔”を投稿した。**
背景には、EDMの無音系短波パルスが映像の中に埋め込まれていた。
そこには、誰も反応しなかった。
でも、それが——“感染しない音”だった。
🌀To Be Continued…