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「ねえ奈緒さん。最後の一仕上げ、やりたくない?」
翌日
里奈がいつものように我が家へ上がり込み、アイスコーヒーを啜りながら不敵に笑った。
彼女の視線の先には、昨夜から一睡もできず、呆然と壁を見つめる健一と正造がいる。
「最後の一仕上げ?」
「そう。お義母さんよ。健一のママ。……彼女、もう長くないんでしょう? 最後に『立派に更生した息子と夫』の姿を見せてあげなきゃ」
健一の肩が、目に見えて跳ねた。
「……やめろ。母さんだけは……母さんだけは巻き込まないでくれ!!」
「あら、巻き込んだのはあなたでしょう? あなたの不倫、あなたの借金、あなたの解雇。……お母様が倒れた直接の原因は、全部あなたじゃない」
私は冷たく言い放ち、里奈の提案に乗ることにした。
「いいわね。…お父様も、一緒に行きましょうか。家族水入らずの、最後の面会よ」
病院の特別室。
漂う消毒液の匂いと、規則的な心拍音のモニター音だけが響く部屋に、私たちは足を踏み入れた。
ベッドに横たわる健一の母は、以前の面影を失うほど痩せ細り、虚ろな目で天井を見つめていた。
「……母さん」
健一が縋り付くようにベッドの脇に膝をつく。
だが、私の合図一つで、里奈がその肩を強く踏みつけた。
「お義母さーん! 見てください、健一さんですよ! ほら、今は奈緒さんの下で、一生懸命『お掃除』の練習をしてるんです!」
里奈は、健一が昨日ライブ配信で着せられた「犬の耳」を、弱り切った母親の目の前で健一の頭に無理やり乗せた。
「……っ、ああ……母さん、ごめん、ごめん……!」
健一は涙で顔をぐちゃぐしゃにしながら謝罪する。
だが、母親の瞳には慈愛の色はなかった。
そこにあるのは、底知れない絶望と拒絶。
「……健一……」
母親が、震える声を絞り出した。
「……っ…この恥さらしが………」
健一の時が、止まった。
唯一、自分を許してくれると思っていた存在からの、死の宣告。
私はその横で、正造の耳元に囁いた。
「お父様。あなたも、奥様に『本当のこと』を言ったらどうですか?献金の隠蔽のこと。息子と一緒に私の足元で酒を飲んだこと」
正造は、妻の冷たい視線に耐えきれず、その場に泣き崩れた。
家族という幻想が、モニターの電子音とともに消えていく。
「……さあ、満足かしら。健一さん」
私は健一の頭から犬の耳をひったくり、母親の枕元に置いた。
「これが、あなたの育てた息子の『正体』ですよ。……安心してください。彼は一生、私の所有物として、あなたの墓前に供えられ続けるから」
病院を後にする時、健一はもう声も出せず、ただ自分の手を血が出るほど噛んでいた。
母からの拒絶。
それは、彼にとっての完全な「魂の死」だった。
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#大人ロマンス
#サレ妻