九条家本家ー
九条家本家の周辺には、数台のパトカーに救急車、消防車が止まっていた。
運び込まれている組員や、事情聴取をされている組員がちらほら見えた。
タタタタタタタッ!!
「八代(やしろ)警部補、槙島(まきしま)警部補、こちら異常ありません!!負傷者は全員、病院に搬送しました!!」
「了解、市民の避難誘導を引き続き頼む。」
「分かりました!!」
警察官は八代和樹(かずき)に向かって、敬礼をして行った。
「和樹さんって、面倒見良いですよねぇ。」
「は?急に何だよ。」
「いや、警官達が和樹さんの事をよーく慕ってるなと思いまして。」
槙島ネネはそう言って、ポッキーを口に運ぶ。
「おい、お菓子を食うな。一応、ここは現場なんだぞ。」
「良いじゃないですか。それに、使うと甘いものが欲しくなるんです。」
「はぁ…、仕方ないな。アイツから連絡は来たのか?」
槙島ネネの隣に移動した八代和樹は、ポケットから煙草を取り出した。
「来てない。けど、九条美雨ちゃんの所に辰巳零士達が到着したみたい。後、矢野薫は大丈夫そうね。」
「”見えたのか”。」
「うん。和樹さんも、ちょっとは見えるようになったでしょ。まだ、Jewelry Wordsは使えないみたいだけど。」
「変な感覚だ、脳に映像がフラッシュバックするような…。どう説明したら良いか分からない。」
カチッ。
煙草の火を付けた八代和樹は、煙を吐いた。
「思いの外、早く第1段階に進めて良かったです。和樹さん、私の事を信用してくれてるんですね。」
「第一段階?何だ、それ?」
「あ、ちゃんと説明していなかったですね。覚醒段階の事。」
槙島ネネはそう言って、八代和樹の顔を見つめた。
「騎士(ナイト)との関係性が深くなる事を言います。まず、0段階はJewelry Pupilだけが能力を使える事。第1段階はパートナーとの信頼関係を作り、Jewelry Wordsの力を体に流させる事です。今、和樹さんの体に私のJewelry Wordsの力を体に流しています。」
「今、槙島が俺の体に流してるのか?ど、どうやって?」
「キスしたじゃないですか?それです。」
槙島ネネの言葉を聞いた八代和樹は、納得した。
「キスだけで、Jewelry Wordsを使えるようになるのか?」
「だからこそ、信頼関係が大事なんです。話を続けますね?第2段階は騎士に好意を向けられた時、私達のJewelry Wordsの能力が増幅し、騎士だけでも使えるようになります。」
「好意…。Jewelry Wordsの力が増幅し、俺にも使えるようになるって事か。」
「はい、そうです。最後の第3段階は騎士との想いが繋がった時、Jewelry Pupilは覚醒する。覚醒したJewelry Pupilと騎士は、運命共同体になる。つまり死と隣合わせになります。それと引き換えにJewelry Wordsの力は神の領域に行きます。」
その言葉を聞いた八代和樹は、思わず煙草を落としてしまった。
「ちょ、ちょっと待て。神の領域って何だ!?お伽話か何かでしか聞いた事ないぞ!?」
「え、驚く所はそこ?死と隣合わせの所はスルー?」
「もう、訳が分からん…。」
「まぁ…、最初はそうですよね。私もアイツから聞いただけですから。でも、実際に和樹さんは少しずつ使えるようになってきます。それに、九時美雨と辰巳零士は第3段階に行きますよ。」
槙島ネネはそう言って、ポッキーを噛み砕いた。
CASE 四郎
「四郎、倉庫の中に美雨ちゃんと誰かいる。」
「どうする?辰巳さんは、あの男の相手してるし。」
三郎とモモが俺に意見を求めて来た。
倉庫から嫌な感じがする。
それは三郎やモモも感じているようだった。
「美雨ちゃん以外にもJewelry Pupilの気配を感じるね。倉庫に入ったら右に避けて、攻撃が来る。」
「了解。」
カチャッ。
トカレフTT-33を構え、モモの手を引き倉庫の中に突入した。
入った瞬間、俺はモモを抱き上げ右に避けた。
ビュンッ!!
赤いレイザーが俺達に向かって放射された。
キィィィン!!!
三郎が近くにあった物を投げ、レイザーの放射を塞いだ。
足元をよく見ると、赤いレイザーのセンサーが幾つか配置されていた。
「やぁ、よう来たなぁ。」
聞き覚えのある声がした。
声のした方に視線を向けると、玉座に座らされている美雨の隣に二見瞬とガキがいた。
「美雨ちゃんに何したの。」
血だらけの美雨を見たモモは、声を震えさせながら呟いた。
ドゴドゴドゴ!!
モモの髪がフワッと浮き上がると、倉庫内の物が音を立てて浮き始めた。
「おっと、そんな事して大丈夫か?」
二見瞬はニヤニヤしながら言葉を放つと、双葉が美雨に触れた。フワッ。
眠っている美雨の体が宙に浮いた。
「双葉が手を下ろしたら、この子落ちちゃうよ?そしたら、レーザーに当たって死んじゃうね。」
「どうしたら良いか、モモちゃんなら分かるやろ?この子が大事やもんなぁ?」
二見瞬と双葉は嫌な言葉をモモに聞かせる。
「この…、糞野郎。」
「四郎、ちょっとやってみたい事があるんだけどさー。良い?」
三郎が子供みたいな顔をしてくる時は、やりたくて仕方ない時だ。
こうなった三郎は、俺の意見を絶対に求めくる。
それがどんな答えだろうが、三郎は従う。
もう、何年も前からそうなっている。
「二見瞬を止めて来い、三郎。」
「フッ、了解。」
三郎は一呼吸し、刀を構え直した瞬間だった。
ビュッ!!!
三郎が走り込むと、一瞬にして二見瞬の目の前まで到着した。
「はぁ!?三郎君、普通の人間やろ!?」
「あははは!!驚いてる、驚いてる。そのまま、死んでくれ。」
笑顔を消した三郎は刀を振り下ろした。
グサッ!!
「なーんちゃって。」
三郎が斬ったのは、壁に貼り付けにされていた死体だった。
「瞬!!お前、殺す!!!」
双葉はそう言って、カッと目を見開いた。
その瞬間、モモが双葉に向かってドラム缶を飛ばした。
「危ないなぁ…。」
バッ!!
二見瞬が双葉を浮かせ、自分の方に寄せて三郎から距離を取った。
「美雨!!!」
振り返ると、辰巳さんが立っていた。
「待てやぁあぁぁぁぁぁああ!!!」
辰巳さんの後ろから、血だらけの男が叫んで走って来た。
俺は男に向かって、何発か撃ち動きを止めようとした。
ブシュッ、ブシュッ!!!
男は銃弾を撃たれても足を止めずに走って来た。
「俺を無視してんじゃねぇぅぇ!!」
「た、つみ…。」
男の声で目を覚ました美雨は辰巳さんに手を伸ばした。
「お嬢!!!」
「美雨!!!」
辰巳さんと男の声が合わさった。
「お嬢を下せ、二見。」
「えー、嫌。だって、美雨ちゃんは必要やもん。あーでも、椿から伝言を預かっとる。」
二見瞬は咳払いをし、言葉を放った。
「美雨ちゃんの騎士はどちらかはっきりしてもらうってさ。」
「どう言う意味だ。」
「言葉のまんま、蘇武か辰巳君のどちらかが先に美雨ちゃんを迎えにこれるか。ゲームだよ。」
それが椿の目的なのか?
美雨を攫った理由はこれだけなのか?
何かが引っ掛かる。
どうして、椿はあっさり姿を消したんだ?
「僕は見届け人として、ここに残ったんや。どや?やるやろ?」
「あははは!!!どっちが本当の騎士か決めようぜぇ!?」
男はゲラゲラ笑いながら、美雨を見上げた。
「辰巳、ダメだよ!!そんな事したらダメ!!!」
「お嬢、大丈夫です。」
「辰巳…、ダメなの。」
美雨は何か言いたそうにしている。
だが、それが何なのか分からない。
「なら、四郎君達は壁の端に移動した方がええで?」
「は?」
「君等の事は今日は襲うつもりはないで?椿の命令やからな。観客は大人しく端により。」
二見瞬は何を訳の分からない事を言っているんだ?
俺達を襲うつもりはないだと?
この状況は二見瞬にとっては良い機会の筈だ。
「四郎、端に寄った方が良い。あのセンサー、機械ごと動くみたい。」
三郎がコソッと耳打ちして来た。
成る程、だから辰巳さんとこの男を戦わせようとしてるのか。
辰巳さんと男、もしくは両方死ぬ可能性がある。
これを椿は計画していたのか。
辰巳さんが死ねば美雨を好きに出来ると踏んだのか。
「双葉、美雨ちゃんを座らせて。」
「分かった。」
双葉はゆっくりと美雨を下ろし、玉座に座らせた。
ガガガガガガガッ!!!
ウィーン。
レイザーのセンサーは美雨に当たらないように作動された。
「成る程、椿の野郎は俺達両方を消すつもりか。」
「辰巳…。」
美雨は辰巳さんの方を見て泣きそうになっていた。
「お嬢、体は大丈夫ですか?すいません、こんな目に合わせてしまって。」
「辰巳、お願い…。お願いだから、死なないで…。」
「大丈夫です、お嬢。俺は死にません。迎えに行きますから、待ってて下さい。」
「辰巳…。」
辰巳さんはそう言って、動くセンサーの間を潜り抜けた。
ウィーン、ウィーン。
「このセンサー、かなり精度が良いよ。髪の毛一本でも反応するよ、辰巳さん。」
「だろうな。」
三郎の言葉を聞いた辰巳さんは、返事をしながら前に進んでいた。
ビー!!
ブジャァ!!
「は、は?」
「な、何で…。動けんだあの男。」
俺と三郎は目を疑った。
何故なら、センサーに当たり体に小さな穴が空いているのに男は動いているからだ。
「ゾンビかよ、あの男。」
「ドラック決めてるだろ、蘇武。」
「あははは!!椿が飲ませた薬、やべーよ!?全然、痛くねぇんだよ!!あははは!!」
男は狂ったように大きな声で笑い出す。
「背中がガラ空きなんだよ!!」
グサッ!!
男が笑いながら辰巳さんの背中に向かって、ナイフを刺した。
「グハッ!!」
辰巳さんの口から血が吐き出た。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!辰巳、辰巳!!!」
美雨が手を伸ばし、男の体を赤い鎖で拘束しようとした時だった。
ビュンッ!!
ブシャッ!!
手を伸ばした指先に赤いセンサーが当たり、美雨の指先から血が噴き出た。
「お嬢!!駄目だ!!力を使うな!!!」
「嫌だ、嫌だ…!!」
「美雨!!」
「っ!!」
辰巳さんの大声を聞いた美雨は、ビクッと体がビク付いた。
「美雨、俺が約束を破った事は…ないだろ?」
「ヒック、ヒック…。ないよ、ないけど…。」
「俺は大丈夫です。」
「余裕そうだなぁ、辰巳!!!」
グサッ!!!
男は容赦なく辰巳さんの体を切り付ける。
「やめて、やめて!!!」
「やめねぇよ、美雨。コイツがいたら、美雨はいつまでも俺の物にはならないだろ?」
この男はどこまでも、気持ち悪い男だな。
ギュッ…。
モモが俺の手を握る手を強くした。
辰巳さんは切られながらも前に進んでいる。
「辰巳は負けるんだよ、俺に俺になぁ!!あははは!!!」
「…けない。」
「あ?」
美雨は泣きながら男を睨み付けた。
「っ!?み、美雨?何で、俺を睨むんだよ?そ、そんな顔をした事ないだろ?なぁ…。」
「負けない…、負けないもん!!」
「み、美雨?辰巳はほら、見てみろよ?血だらけだろ?お、俺はこんな風なのに動けてるんだ…。だ、だから辰巳はこのままだと、死ぬんだよ?」
男の言う通りだ。
辰巳さんは今、立ってるだけで精一杯の筈だ。
もう、センサーが体に掠っても気にしていない。
辰巳さんの瞳には美雨しか映っていないのだから。
何だよ、これ。
胸が苦しい。
俺は自分の胸を押さえた。
「四郎?」
「何だ、この重い感じは…。」
「四郎…、私と同じ気持ちを感じてるの?」
「同じ…気持ち?」
モモはそう言って、俺の顔を覗き込んだ。
「四郎、その気持ちは私もしてるんだよ?」
ドクンッ!!
心臓が高鳴った。
こんな気持ちは俺は知らない。
知らない筈なんだ。
美雨は泣きながら何度も叫ぶ。
「辰巳はお前になんか負けない!!辰巳は、辰巳は負けないんだから!!」
「な、何で?何でだよ、美雨!!?どうして、どうしてコイツが良いんだよ!?なぁ!!?」
「美雨は…、美雨は…っ、辰巳が好きなの!!」
ガクッ!!
辰巳さんの体が大きく揺れ、膝が崩れ落ちる。
「ほ、ほら!?辰巳は死ぬぞ!?死んだら俺を好き…。」
「辰巳、死なないで…!!!美雨を置いて死なないで…。辰巳、勝って…。勝って、辰巳!!!」
「な、何でだよおおおおお!!!」
「うるせぇ…。」
グサッ!!!
「ガハッ!!」
「お前には負けねぇ。これからもこの先も美雨は俺のものだ。」
辰巳さんはそう言って、男の首筋に刀を振り下ろした。
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