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「よく来たなレオ・八門。…そんな所に立っていないで中に入れ。悪いがミアンには別件を依頼している。まず彼女でなければ務まらんからな…」
「お疲れ様ですギルド・マスター。…ルーキーの俺に、何の用ですか?。(凄く美人だけど…怖いんだよなぁこの人。…妙に威圧感つよいし…)」
俺は地下迷宮の49階から地上に戻り、今度は地上80メートルほどのギルドビル最上階に来ている。円形の室内に漂う百合の花に似た甘い香りは独特で、和むとゆうより気を引き締めさせた。背後のドアが重く閉じる。
「なにを遠慮している。…もっと近づかなければ聞こえないぞ?」
「は、はい。(…近付くのヤダなぁ。…気分で銃撃とかされそうだし…)」
総ガラス張りの壁を背にする彼女は椅子に座っていて、重厚なテーブルに両腕で頬杖をつき睨みを効かせている。掛けている四角い眼鏡は淡い照明を反射して、その目元を見ることもできない。まるで特務機関の司令だ。
「…………。(まぁ…この人の判断のお陰でギルドに入れたんだし、多少の無理は聞くしかないな。…しかし…嫌な予感しかしない。まるで野﨑に呼び出された時の気分だ。…アイツの無茶振りには泣かされたからなぁ…)」
俺は迷宮から出てきたままの姿で部屋の中央に立っている。漆黒の耐刃なボディースーツに黒い手袋。上着は耐火性の強い、やはり黒のロングコート。これらは全てミアンが見立てて、出世払いとゆう事で誂えてくれた。
因みに彼女は討伐者歴たったの二年で…中古のビルを現金購入している。俺が転がり込んだあの部屋がある雑居ビルだ。しかも繁華街のど真ん中。どう安く見積もっても日本なら億円単位。…俺ももっと頑張らなければ。
『うふふふふっ♡。黒髪の男子には〜漆黒の防具がよく似合うのにゃ♪』
初めて袖を通した時のミアンの嬉しそうな笑顔がとても可愛くて今も忘れられない。なんとなくだが…不可欠な存在になりつつあるのだろうか?。だが俺と彼女では種族的な価値観が違いすぎる。特に闘う意味や理由も。
「レオ・八門。現在のネオ・クイーンの街が置かれた状況を説明する。そこに投影される画像を見てくれ。…これが古の城塞都市、ネオ・クイーンの全貌だ。東西南北に伸びる主要な街道から分岐する道は、どれも正確に延ばされた都市の血管。…どうだ?美しいだろう。…千年を紡ぐ都だよ…」
天井から降りてきた四角く大きな黒い板。しかも液晶テレビよりかなり薄い。プロジェクターの投影かと思ったのだがそれらしい物はどこに無く…俺は探すのを諦めて画面を見る。それは設計図の様にも絵画にも見えた。
「これがクイーンの街。(上空から見下ろした街の全体図、殆ど真円形をしてたんだなぁ。でもこれ航空写真じゃないな。…あれ?飛行機って見たこと無い気がするぞ?。蒸気機関車は走っていたけど…謎だらけだな…)」
画面に見入っている俺を眺めていた、ギルド・マスター、リン・ムラサキが、小さなリモコンを手にとって画面に向ける。やはりモニターなのか?
「…そしてこれが『天災』だ。周期も不規則で突如大地から現れる破壊の王さ。推定だが…全高200メートル。全幅420メートルで、その全長が700メートルにも及ぶ超巨大なスライムなのだよ。驚いた事にな?」
切り替わった画面には不思議な色の山が映っていた。手前の森林の木がオモチャみたいに見える。それでも森の木なら10メートルはあるはずだ。とゆう事は、あの背景にあるツルンとした山がスライムなのだとしたら、ゴ〇ラやウ〇〇ラマンなどフィギュア並になる。とんでもないデカさだ…
「……………。(こうゆう写真も撮れるんだな。ん〜巨大スライムかぁ。でも、いくらデカくても倒せるんじゃないのか?。…スライムなんだし…)」
「レオ・ヤツカド。君はスライムがどうゆう魔物か知っているのか?」
「…単細胞生物であり、異常な柔軟性と流動性に富んだ肉体を持つ。そして体色により数多の特徴があります。火炎や猛毒の霧。或いは極冷の息を吐く個体も確認されている。…と、まあ。俺の知識はそんな感じですが…」
信じられない大きさのスライムの映像。写真なのかと思っていたらゆっくりと動いている。前方に身を縮めて、そこから前方に全体を押し出す。そんな感じで移動しているのだが、動きは極めて緩慢だ。スピードは恐らく人間がジョギングしている程度だと思う。全体を例えれば丸いナメクジ?
「うむ。魔物の資料に掲載されている通りの…模範的な回答ではあるな。しかしスライムの発生原因の本質は、そもそも太古の戦争にあると私は睨んでいる。…この大地に染み込んだ数え切れない数の怨念が、スライムとゆう正体不明な生命体を産み出していると思うのだ。神聖な森や土地に妖精が生まれるように…汚れ切った大地には貪欲なスライムが湧いて出る…」
机から離れたギルド・マスターが俺の隣に姿勢良く並び立つ。青黒く長いストレートな髪は腰にかかっていて、白くタイトな軍服を纏っていた。顔立ちも凛々しく和的な雰囲気も素敵だ。しかし日本人とゆうにはプロポーション的に無理がある。七頭身の美女なんて…もはや芸術品の域だろう。
「…とても神秘的な話ですね。しかし今の俺は…巨大スライムが発生した原因よりも、呼ばれた理由が知りたいんですよ。ギルド・マスター…(太古の戦争ねぇ。…俺がいた世界も絶えなかったなぁ。自分の国は当事者じゃ無いからって皆が対岸の火事だったし。…それに、輸入品が値上がりするんじゃないかって心配するニュースばかりだった。…守銭奴な国だ…)」
「!?。ああ、そうだったな。話しが脱線したことに謝罪しよう。君を呼んだ理由は正にあの『天災』だ。…手段は選ばなくていい。あれを駆除してくれ。或いは進行方向を変えるだけでも良い。…得意の術式でな?」
「え!?。お、俺はそんな大した魔法なんて使えませんよ?。何かの間違いなんじゃ…。(俺って低ランクの術式しか組めないのに…なに言い出してんだよこの人は?。…轟雷だって初級ライトニングの強化版なんだぞ?)」
何かあるとは思っていたが、信じたくない指令が下されてしまった。しかも相手はギルマスのリン・ムラサキだ。俺がギルド登録者である以上、無下に断ればえらい事になる。罰金程度なら良しとしても、下手をすればランクが下げられてしまう可能性もあるのだ。…何とか回避したいのだが…
「ふむ。ではコレならどうだ?レオ・ヤツカド。君は先ほどの迷宮で『スパイダー・ゴーレム』を倒しただろう?。しかもたった一発の電撃で…」
「…う…それは。…なんでギルド・マスターが知ってるんですか?。ミアンからでも聞いたんでしょうか?。(…まさかのストーカー?。いや…ミアンにギルドへの報告義務があってもおかしくない。…でもそんな娘じゃ…)」
どうやら俺は討伐ギルドの組織力を舐めていたらしい。登録した時点で管理下になるのは許せても、プライベートまで覗いているとするなら虫唾が走る。社畜時代は人事課で終えたが、個々人の情報はトップ・シークレットだ。ましてや私生活や業務活動に干渉などしないのに。少しムカつく。
「うふふふ。君は案外警戒心が薄いんだな?。ソレだよ。フォロンさ。それを通せば迷宮内で誰が何をしているのかスグに観察することができる。悲しいかな仲間を傷付けたり、不正行為を働く輩もいてねぇ?。ふふふ。しかし、現役だったころの私でも倒せなかったスパイダー・ゴーレムを、ああもアッサリと駆逐するとはな?。…これで理由は解っただろう?」
「…あれって…そんなに?。(確かに硬かった。でも倒せないほどじゃ…)」
「ああ。危険度はSランクだ。発生場所は解っていてもこの五十数年、討伐の報告は全く無かった。…私も含めて挑んだ者は多いが、帰還できた上級ハンターは数えるほどだ。…迷宮で死ねば肉体も魂も迷宮に食われると言われているが…Sランクの魔物だと己の血肉として取り込むからな…」
「…じゃあ…獲得したこの魔晶石って。…やはり…(…誰かの遺体か。)」
「ああ…奴に屈した者たちの成れの果てだ。戦いに敗れ、殺され、喰われた討伐者たちだろう。しかし君に救われ陽の光を見る事ができるのだ。その辺はギルドを預かる者として感謝している。だからこそ君ならできるのではないかと閃いたのだ。あの『天災』を是非!その手で退けてくれ!」
そう言ったギルマスが俺の手を取り胸に抱いた。穢れを知らない純粋無垢な少女のように、その青黒い瞳をキラキラと輝かせながら見上げている。俺の左の手を、ぎゅむっと包み込む張りの良い弾力に目眩が起きそうだ。このリン・ムラサキとゆう人は女を武器にして命じて来るから質が悪い。
「す…少し考えさせて下さい。…猶予はどれくらいあるのでしょうか?」
「ああ。天災の現在位置は、この街から北東900キロに位置している。移動速度は時速6キロメートル。想定上の直進ルートだと、約七日後には東門と南門が消失する事になる。住民は全て退避させるとしても都市の損失は計り知れない。…報酬はキミの望む物を用意しよう。…どうだろう?」
「七日あるんですね。…ギルド・マスターの意向は賜りました。前向きに検討しますので明日のお昼まで時間を下さい。ちゃんと頭の中を整理してから答えますから。…迷宮で殆ど眠っていないもので。…お願いします…」
「…わかった…キミの言葉を信じよう。だが、逃げ出したりしたら容赦しないからな?。地の底までも追いかけて…わたしの玩具にしてやる。最後になったが天災の件は他言無用だ。…知らない者のほうが多いからな?」
「はい、解りました。…あ、ギルマスの連絡先をお願いできますか?」
八門獅子とゆう男は、どの世界にいても無茶振りに振り回されるらしい。しかし、今も俺の手を抱いて離さない美女には大きな借りがある。こうして日々スキル・アップできているのも、彼女が管理するギルドに登録できているからだ。新人であれ、ベテランであれ、依頼報酬は平等に支払ってくれるし、金払いの良い企業からの依頼を優先的に紹介してくれたし…
天災と名付けられた巨大なスライム。その特性も分からずに闘える理由もなく、あの巨体をどうにかできる気もしない。しかし最低でも進路を変えられればネオ・クイーンは救われるのだ。だが正直なところ、この街に愛着がある訳ではないし…果たして命を賭けてまで護るべきなのだろうか?