テラーノベル
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配信チャンネルの収録で招集がかかり、指定の時間から1時間早めに入った俺──目黒蓮は、楽屋に通されると自分の中のルーティンを済ませ、外部の余計な音を遮断するようにイヤホンを耳に埋めた。
暫くぶつぶつとたまに台詞を呟きながらとある作品の台本を一点集中で読み込んでいると、目の端でドアが開いたと同時にノイズキャンセリング機能を破ってくる2人分の激しい笑い声が唐突に割り込んでくる。
「………おはよ、」
多少の苛立ちが込み上げる。誰かは一応解ってはいたが、台本から半ば睨みつけるように視線をドアに寄越せば案の定の2人で。歳上かつ先輩達に対し、片方のイヤホンを外して一先ずの挨拶を済ませると、
「蓮おっはよー!」「めめおはよう!」
「えっ、蓮が見てるの何?台本?今何の台本読んでるの?」
「あ、このタイトル俺まだ見たことない!あれ、これグループ共有あったっけ?ていうかめめもうメイク終わらしたん?今日の髪型めっちゃええやん!」
「俺たちも早めにやんなきゃねー!そういえば今日の企画すっごい楽しそうじゃない?俺すげぇ楽しみであんまり寝れてないんだけど!」
「わかるー!それなぁ?でもゆうて俺なぁ、───…」
荷物をほぼ投げ出すも同然な置き方をしたと同時に、さながら先生に群がる園児のように前から後ろから抱き着かれる怒涛のスキンシップ、答える隙もない質問、遂には俺という壁を通り越して進む雑談を雪崩に巻き込まれるが如くいっぺんに受けることを強いられる。
尚もぎゃいぎゃい騒ぎ立てる2人達。先ほどまでの静けさから打って変わった場にゆらゆらと立ち上っていくボルテージと連動して、鼻根に力が集中していく中、もう一度ドアの開く音がする。
「おはよう。…あのさぁ、ちょっと佐久間も康二もうるさ過ぎ。廊下まで結構聞こえてたんだけど。」
入ってくるなりぴしゃりと2人を咎める言葉に、俺は全力で安堵の溜息を吐く。──良かった、今日岩本さんが一緒で…。
「基本同じ楽屋だけど、めめだって邪魔されたくない大事な時間があるんだって。もう長い時間一緒にいるんだから流石に解るだろ?」
「「………はい…。」」
ゆっくりと俺への拘束を解放しながら、子犬のように分かりやすくしゅんとする2人。こうして一瞬で律することができるリーダーって本当に偉大だなぁ、なんて思っていると、
「めめ、集中してたのに構ってが出ちゃったし、あとうるさくしてごめんな?」
「俺も。台本読んでたのに邪魔しちゃった。配慮が足りなかったね…ごめん。」
各々の言葉で、『自分のここが良くなかった』と思った箇所をきちんと添えて謝ってくる2人。相変わらず垂れ下がった犬の耳と尻尾がついているように幻視するのは、多分犬好きの性──でもないか。うん、絶対違うな。
「ん。いいよ。岩本さんも、気付いてくれてありがとう。」
とにかく、謝ってくれたならそれで良い。あのままじゃブチ切れて空気が悪くなっていたであろう場に、絶妙なタイミングでくれた岩本さんに感謝を伝える。《俺は事実を言っただけだから、》と謙遜する岩本さんは、ふにゃりと緩く微笑んだ。
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