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それから帰る途中で自宅の近くにある公園に寄った。そして池のほとりをゆっくり歩いていた。懐かしかった。ここはしたマナが家を飛び出すと必ずと言っていいほど来ていた場所だ。きっと迎えに来て欲しくて、敢えて同じ場所を選んで来ていたのだろう。もう2度と喧嘩することなどないマナとの思い出の場所。もう2度と来まいと思っていた場所。
「マナ――」
「何?」
「―――――」
今、マナの声が聞こえたような気がした。そんなに俺はマナに会いたいのか――。
「マナ――俺はどうやらマナに会いたいらしいんだ」
「そんなに私に会いたかった?」
「えっ!?」
振り返るとウェディングドレスを身にまとったマナが立っていた。
「圭ちゃん――」
「マナ――なっ、何やってんだよ! 結婚式はどうしたんだよ?」
「どうしたんだよじゃないでしょ! 圭ちゃん、こんなところで何してるわけ?」
「何もしてねえよ! 休みだからブラブラ散歩をしてただけだ」
「何もすることないなら私の結婚式に来れたでしょ?」
「行かないって言っただろ! しつこいんだよ!」
「言ってたけど、ホントに来ないなんてあり得ないよ! マジでふざけんな!」
マナとこんなに言い合ったのは、数ヵ月ぶりだった。
「こんなところで言い争っていても仕方ないだろ。これ以上待たせたら世良さんに申し訳ない。タクシーを呼ぶから少し待ってろ」
「―――――」
俺は近くのタクシー会社に連絡しようと、ポケットからスマホを取り出した。すると、ちょうど電話がかかってきた。世良さんからだった。
『もしもし――』
『明石くん、マナちゃんはそっちに着いたかい?』
『はい、隣にいます。本当に申し訳ありません。今送って行くので、もうしばらくだけ待っていて下さい。お願いします』
『マナちゃんは何も話してないようだね。明石くん、約束は守るよ。あとは君に任せた。こっちのことは気にしなくていいから、君は自分の気持ちに正直になればいい。わかったかい?』
『えっ!? どっ、どういうことですか?』
『まだわからないのかい? マナちゃんをよろしくと言っているんだよ。それが私と君が交わした約束だからね。私は君に負けたんじゃない。運命に負けたんだよ』
『はぁ――』
『それじゃあ、またそのうち』
『ちょ、ちょっと待ってくっ――』
プッ!?
プーープーープーー―
詳しい説明が聞きたかったのに、電話を切られてしまった。それにしても世良さんと俺の約束って―――
確か、マナの記憶が戻った時のことだったような――
そう言えばそんな約束を交わしたような気がした。でもそれって――マナの記憶が蘇って俺の元に戻りたいと望んだら、マナの意思を尊重するというものだったハズだ。
「マナ、どういうことなんだろう? 世良さんがマナのことを任せたって言ってきたんだ。何か聞いてるか?」
世良さんと電話で話している間中、俺から一瞬も目を離さず見つめていたマナに向かってそう言った。