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黒いワゴン車。
助手席の男は、俺と目が合うとゆっくり笑った。
逃げなきゃ。
そう思った。
でも体が動かない。
「カーテン閉めて。」
美咲の声で我に返る。
俺は慌てて窓から離れた。
数秒後。
車のドアが閉まる音がした。
バタン。
エンジン音。
そして静かに走り去っていく。
「……行った?」
「分からない。」
美咲はすぐに窓へ近づかなかった。
しばらく耳を澄ませる。
「確認は五分後。」
その慎重さが、この世界で生き残るためなんだと分かった。
五分後。
外を見る。
ワゴン車はいなかった。
道路には新聞配達のバイクが通るだけ。
俺はようやく息をついた。
その時だった。
ピコン。
黒いスマートフォンが鳴る。
組織から支給されたものではない。
Rから渡されたスマホだ。
画面には一文だけ。
**『今から十分後、公衆電話へ行け。』**
「公衆電話……?」
美咲が眉をひそめる。
「この近くに一台だけある。」
「行くの?」
俺は少し考えた。
危険かもしれない。
罠かもしれない。
でも、Rは俺たちの居場所を知っている。
今さら隠れても意味はない。
「行こう。」
十分後。
住宅街の外れ。
古い公衆電話。
最近はほとんど使われていない。
俺たちが近づくと、電話が鳴った。
リン……。
リン……。
夜の住宅街に響く。
俺は受話器を取った。
「もしもし。」
『時間どおりですね。』
男の声。
動画で聞いた声と同じだった。
Rだ。
「あなたは誰なんだ。」
沈黙。
数秒後、Rが静かに言う。
『元参加者です。』
俺は息をのんだ。
「……生き残ったのか?」
『いいえ。』
その返事に思考が止まる。
「どういう意味だ。」
Rは淡々と続ける。
『私は、生き残ったのではありません。』
『逃げ切れなかった人間です。』
意味が分からない。
逃げ切れなかった?
なのに電話している。
Rは続けた。
『組織は人を二種類に分けます。』
『使える人間。』
『そして、使えなくなった人間。』
『私は後者です。』
その時だった。
電話の向こうで大きな物音がした。
ガタン!
誰かがドアを開ける音。
続いて誰かの怒鳴り声。
『時間がありません。』
Rの声が少しだけ焦る。
『美咲を信じてください。』
『ですが──』
そこで一度言葉が止まる。
『美咲にも、あなたに話していないことがあります。』
「え?」
俺は隣を見る。
美咲の表情が固まっていた。
Rは最後に一言だけ残す。
『参加者番号42。』
『あなたは、いつまで黙っているつもりですか。』
ブツッ。
電話が切れた。
受話器からは「ツー、ツー」という音だけが響く。
俺はゆっくり美咲を見る。
美咲はうつむいたまま動かない。
「……悠真。」
小さな声だった。
「ごめん。」
その一言で、俺は確信した。
美咲は何かを隠している。
しかも、それは最初から。
(第二十九話へ続く)
コメント
1件
るしゅさんの「第28話 接触」、読んだよ! 公衆電話のシーン、めっちゃ緊張感あってやばかった…。 Rの「逃げ切れなかった人間です」って言葉、一瞬意味わかんなくて鳥肌立った。 そして最後の「参加者番号42」で美咲が秘密を抱えてるのが確定した感じ、次回が気になりすぎる🔥 悠真の視点で読んでると、美咲の“ごめん”が重く刺さる…。続き楽しみにしてる!