テラーノベル
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「……ごめん」
美咲はそれだけ言って黙り込んだ。
公衆電話の横を風が吹き抜ける。
俺は言葉を探していた。
「何を隠してる?」
美咲は目を閉じる。
すぐには答えない。
その沈黙が、逆に答えだった。
「最初に会った日。」
「私は言ったよね。」
『番号で呼ばないで。私は美咲。』
あの日の喫茶店。
俺はうなずく。
「……あれ、嘘だった。」
「え?」
胸がざわつく。
「美咲って名前、本名じゃない。」
「組織に入ってから使ってる名前。」
少し安心した。
そんなことか、と。
でも。
美咲は首を横に振る。
「違う。」
「隠してたのは、それじゃない。」
俺は息をのむ。
美咲はゆっくり顔を上げた。
「私は……」
唇が震えている。
「最初は組織の監視役だった。」
頭の中が真っ白になる。
「……は?」
「参加者の近くにいて。」
「逃げようとする人。」
「警察へ行こうとする人。」
「ルールを破る人。」
「全部、報告してた。」
俺は何も言えなかった。
海斗のことが頭をよぎる。
あの日。
紙を渡してくれた美咲。
優しかった美咲。
全部演技だったのか?
「でも!」
美咲が声を荒げる。
「途中で無理になった。」
「もう見てられなかった。」
涙が頬を伝う。
「十九歳の子が泣きながら家に帰りたいって言った。」
「高校卒業したばかりの子が、お母さんに会いたいって……。」
声が詰まる。
「それでも組織は止めなかった。」
「だから私は裏切った。」
俺はゆっくり息を吐く。
信じるべきか。
疑うべきか。
答えは出ない。
その時だった。
ピロン。
俺のスマホ。
組織から通知。
【参加者番号17】
【参加者番号42】
【本日22時】
【回収対象との接触を確認】
俺たちは顔を見合わせる。
「回収対象……?」
美咲が小さくつぶやく。
「R。」
その瞬間。
通知が更新された。
【対象R】
【現在位置を特定】
俺は血の気が引く。
「まさか……。」
Rが危ない。
電話をかけてきた。
だから場所を特定されたのか。
美咲は迷わなかった。
「悠真。」
「助けに行く。」
「でも場所なんて!」
言い終わる前に。
黒いスマホが震えた。
Rから最後のメッセージ。
**『もう間に合わない。』
『だから証拠だけは守れ。』**
その下に添付されていたのは、一枚の画像。
古びた貸倉庫。
赤い扉。
番号は――
**“17”**
俺はその番号を見た瞬間、凍りついた。
「……俺の番号。」
偶然じゃない。
Rは俺に何かを託そうとしている。
その時。
遠くでサイレンが鳴った。
一台じゃない。
二台。
三台。
夜の街に、いくつもの赤い光が走り始める。
そのサイレンが向かう先は――
画像に写っていた貸倉庫の方向だった。
(第三十話へ続く)
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リユ
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榎本くもり
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コメント
1件
おお…第29話、めっちゃ重かったですね。美咲が監視役だったって衝撃の告白、あの優しさが全部演技だったのかと思うと胸が痛い。でも「途中で無理になった」って言うからには、今の美咲は本物なんだろうな。Rの『もう間に合わない』も切なすぎる…。そして最後の“17”が悠真の番号ってのがゾッとしました。次の話、気になって仕方ないです!