これは、───年前の話。
いつかに生きた、とある幼子の夢。
今に存在する、概念に酷似した少年の記憶。
誰かの夢に残された歪んだ物語。
意味のない、壊れた御伽話。
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『ぅ…?』
目がぱちぱちする。多分、まぶしいんだと思った。
僕は、真っ白のお部屋の中心にいるみたい。
周りには黒い服を着たダレカがたくさんいる。みんな僕の方を見て、いやだなって顔をしてる。
やめてよ、なんでそんな顔するの?僕が悪いの?僕が今ここに存在しちゃったから?それともずっと眠っていたから?それとも⬛︎⬛︎⬛︎だから?
わかんない。
ただ、この頭でわかるのは閻魔が僕のことを変に好いたこと。それだけはわかる。閻魔に好かれたやつはみんなこうなるって事は、なぜか”覚えている”。
嫌いだ、僕のことをこんなにしたやつなんて、世界なんて。
………あぁ、要らない。この周りにいる人たち、全員、いらない。この地獄に、冥界に、僕の周りにいらない。
ぐるぐると渦巻く考えを切るように声が聞こえた。
「汝、名を告げよ」
『────No.01。神名、零月』
僕の声を聞いた全員が、バカにしてるような顔になった。
「…はっ、神名だ?あんな”歪み”にあるわけねぇだろ」
「おい、聞こえんだろ?w」
「神名って八大の方々が持ってるやつでしょう?あいつ、ふざけてるのかしら?」
「ふざけられると困るわねぇ…」
「…んふ、おもしろーい」
「おい、0。何笑ってんだよ、殺されるぞ」
「そんな小声にならなくてもだいじょーぶだよ!ねー、れいくん?」
僕に向かって、ふわりと笑うその子の顔は楽しそうだった。それと同時にドクンッ、と初めて心臓が鳴った。
『ぁ……ぁ゛っ!』
《要らないって思うなら消しちゃっていいよ?僕以外!》
『──────────あはw壊れちゃえ』
「…そーそー、君は利用させてもらうから。”遊んで”どうぞ?」
そこらへんに落ちていた、壊れかけの鎌を手に取る。刃もボロボロで、絶対に1発で体は切れなさそう。
わくわくと心が踊る。
1番近くにいた魔物の核を「喰った」。
中級ぐらいの力を持っていたようで、結構力が上がったと思う。頭よく回るようになった。
怯えた顔をした奴らが僕から逃げていく。この白に染まった部屋に出口は見当たらない。
…あったのに。多分、あの子がやったんだと思った。へぇ、そんな力持っとるんやね。面白そう。
『うるさい虫けらは、掃除せんとなぁ?』
ひははっ、笑い声が漏れる。その声を聞いてまたみんな顔をさっと青ざめさせた。面白いくらいにわかりやすい奴らだ。
「…れいくん、”良い夢を”」
『っ!…はい』
一度膝を曲げてから飛び上がる。ばさり、と翼が羽ばたいた。
今気付いたけどこれか、僕が僕が避けられてたの。なんて他人事のように考えながら、たくさんいるうちの一つに鎌を振り翳した。
意味はないけど、体に刃をめり込ませた。ぐじゅりと肉がえぐれる汚い音がするけど、それすら気分が高まる材料になってしまう。へぇ、死神って肉あるんだ。
糸の切れた人形みたいに動かなくなったそれはつまらない。もっと遊んでよ、僕と。ねぇ、ねぇ!!!
『遊ぼーや!なぁ!!!!!』
死神も、獄卒も、運び屋も、閻魔の見習いも、なぜかいた死霊も、全部全部切り刻む。器を切り刻んで、割いてから行き場なく出てきた核を飲み込んだ。不味いのもあったけど、しょうがない。
ふわふわと不思議な感覚のまま、ひたすらに核を、魂を回収しまくる。
楽しい、もっと、もっと僕にちょうだい。ねぇ、僕と一緒に遊ぼうよ。
『んふふ』
見せつけるようにもう一度、鎌を大きく振り上げた。
刈り尽くしたのか、あたりはしんとしている。その静寂にふと冷静さと意識が戻った。
自分が何をしたのか、ゆっくりと頭を動かす。そう理解した途端ヒュッと喉を鳴らした。手が、足が震える。僕は、ぼくは……なに、を……っ。
コツン、コツン、と靴音を鳴らしてそいつが近づいてきた。一歩こちらに踏み出してきたら、僕は一歩半後ろに下がる。
殺してしまう恐怖とあの快楽がごっちゃになり、思考がまとまらない。
『ひっ、やっ、!ちか、近づかんで…!!』
コツン。
「えー、ひどいなぁ?」
コツン。
『ほんとに……お願い、やから…っ』
コツン。
「だいじょーぶ、僕の核を君は壊せない」
コツ、パチンッ!
『でっ、でも…ぼく、……ぅ?』
反論しようと、僕から遠ざかってもらおうと、目の前に立つ僕より高い位置にある虚空のような目を見つめる。
途端、ぐるぐると視界が渦巻いた。あたまがぽやぽやふわふわして何も考えられない。
ただ、ただ、この人の命令を聞かなければならない。そう思った。
「そう、僕の目を見て?……夜月 怜くん」
「……Vous êtes notre pièce à partir de maintenant.(君は今から僕らの駒だよ)」
『…Viva・Maître。あなた様の仰せのままに』
「…うん、いい子。─────」
流れ込んでくる言葉と独特の気持ち良い浮遊感に身を任せながら、そっと目を閉じた。
◆◆◆
『……はぁ』
力が抜けたのか糸が切れたように床に横たわるレイくんを横目に周りに散らばる肉塊や布切れを無理やり開いた狭間の中へ突っ込んでいく。無駄に広いこの部屋に詰め込まれた物を片付けるのは結構面倒だった。
でも、⬛︎⬛︎はやり遂げないと。
『んーよし、おーわりっ♪』
最初に始めた位置からだいぶ遠くにきてしまった。僕はあいにく、人外たちみたいに飛べやしない。まぁ能力使えばできるけどさー?めんどうだし。あーほら、力は本番にとっておく物じゃん?
『……れいくん、起きて。れーいくん』
「んん゛ー……」
ゆさゆさと肩を揺らせば、レイくんは綺麗に整った顔を歪めて綺麗な赤色を瞼の下から覗かせた。
『おーきーて!大根役者にも程がある!!』
「…っるさ……ん、起きたで」
『はぁ…ほぼ初対面の奴にその態度はどうなん…?まぁいいけどさ』
「…何」
『ここから出るよ。でね夢世界の権限をとってもらって、夢の権限も取ってもらう。エマのところに行ってもらって、あとは…僕についてきて』
「分かりました」
『…じゃ、こっち』
手を引っ張りながら、消した出口に向かって歩き出す。さっきまで爛々と輝いていた血よりも紅い瞳はどろどろの闇に溶けたように濁っていた。
堕ちた。こちらの世界に。No.00 怜夜、どこまで使える人形かは知らない。ただ、僕が見てきた物語よりももっと前に完成していたところを見ると、人形というより…演者、だろうか。僕にとってその辺はどうでもいいけど。
やっと扉の元へ着き、その重い扉を開ける。赤い光の差し込む外には獄卒らしき鬼たちが大量に闊歩していた。
…僕、ヤバいかも。普通この場に僕みたいな”人間”は居ない。人間(というより死者だが)が居るのはもっと地下奥深くにある地獄か建物内の上にある天国。
ここ、冥界の基礎となる、彼岸楼・此岸楼には存在できないのだ。この場にいることは規則違反であり重罪人だ。
故に、ここに僕が居たら処分されるのは明確。
『っ、もーー!』
急いで空間を切り裂く。若干上の方を切り裂いたような気もしなくは無いけど、まぁいっか!!うん!!
離さぬようレイくんの手をしっかり握りしめて裂け目へ飛び込んだ。
ピースはあと、⬛︎⬛︎枚だけ。
誰からも目を離すな。
夢を恐れるな。
現実を落とし込め。
虚空を見出せ。
世界を見つけろ。
人形を、演者を、⬛︎⬛︎のない世界に生かせ。
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ダレカガミテイル ダレカガ夢ヲミテイル ダレカガ壊れた⬛︎⬛︎⬛︎ヲミテイル コノコワレタ世界ガダレカヲ観ている ──────────⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。それは、彼の一介の夢だった。