この日の朝は、少し曇っていた。
新しい朝を迎えて、僕は目をゆっくりと開けて、体を起こした。
寝心地は、まぁまぁ良い方なのだろうか。
目覚めが悪いわけではなかった。
目の前の机を見ると、朝ご飯が置かれてあった。
常にそういうのは、用意してくれるのだろうか。
僕はベッドから降りて、朝食を食べる。
この日の朝食は、食パンの上に目玉焼きが乗っかったものだった。
少ないと思うくらいの量だが、僕はそれだけでお腹いっぱいになった。
食べ終えて、どこに片付ければいいのか分からなかったから、お皿はそのままにした。
僕はまた部屋の中で静かに座る。
これから僕は何をするのだろうか。
今日も、特訓をするのだろうか。
その予想は当たったのか、研究員がやってきた。
「フォルトゥナ。特訓するぞ。」
この一言で、特訓の一日が始まった。
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またお人形さんを倒していく僕。
初日より数は多いが、動かないため、トレーニングとしては程良かった。
慣れてくると、研究員は、こう言い出した。
「今度は動くものを倒してみるか。」
動くものとはなんだろうか。
そう思っていると、プログラムから小さな魔物が出される。
犬くらいの大きさだろうか、小さかった。
小さいとは言えども、動きが素早くて、少しだけ目に追えなかった。
「……。」
僕はとりあえず、全体的に風を繰り出した。
プログラムの魔物は空中へ舞う。
そして、風をカッターのような魔法に変えると、魔物を切った。
すると、魔物は消えた。
「この程度ならまだいけるか。」
研究員はそう言って、また少し大きな大きなプログラムの魔物を呼び出す。
(すこし……つよそう。)
そう思ったが、同じように魔法を繰り出すと、魔物は飛ばされて消えた。
そして、また大きいものが呼ばれる。
その繰り返しだった。
同じように倒していくうちに、数も増えていく。
僕は体力に限界があった。
僕の瞳は、白く染め上がった。
ボブの茶髪に白いメッシュが一本ある髪の毛も、風でふわりと動く。
「……はやく……おわって……。」
疲れていて、思わずそう言うと、僕の『何かが白く光った』ような気がした。
僕の背後に、『時計のような魔法陣』が出てくる。
気が付けば……。
──────目の前が真っ白になっていた。
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真っ白な視界が元に戻ると、さっきまでの魔物達が、皆、倒れていた。
なんだったのだろうか。
それよりも、体に物凄い疲労があった。
疲労感で僕はその場で意識を失った。
倒れた僕を見て研究員は瞳を丸くした。
そして、すぐに僕の所に駆け寄ると、小さく驚いたような声で呟いた。
「これが……この子の『特殊な力』……この子しか成功してないこの力……。……『運命(さだめ)の力』なのか……。」
その言葉は、僕の耳に届くことはなかった。
研究員はメモを取りながら、瞳を丸したまま僕を見つめている。
「下級の下級クラスの仮人間がこんな力を使えるなんて……『滅多にない事』なんだ。皆、使えば死ぬのに……この子は気絶で済んでいる。……これは『彼』に使えるな。」
小さくそう言いながらメモを取る研究員は、怪しげな笑みを浮かべていた。
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僕は、部屋のベッドの上で目が覚めた。
まだ少しだけ身体が疲れていた。
起きたくても、起きれなかった。
だが、首は動かせた。
「あれ……なんで、ぼく……ここにいるんだろう……。」
さっきまで個室だったから、部屋に戻ってることに不思議に思った。
部屋に戻った覚えがないのに、此処で寝ていたのだから、少し妙だった。
「まぁ……いいか……。」
そう思って僕は、目を閉じた。
疲れたから少しだけでも疲れをとろうと、眠りについた。
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此処はどこだろうか。
僕の目線は、今より高く感じた。
体付きも、少しだけ大人っぽい。
この僕は今、森の中で彷徨っていた。
周りには、黒っぽいような白っぽいような霧がかかっていた。
この僕は今、森の中で彷徨いながら、走っている。
息を吐きながら必死に走っている。
何かから逃げているのだろうか。
後ろの方を見ると、僕より背の高い誰かが歩いているのが見えた。
僕は必死に走っているのに、歩いているその人は僕の視界にずっと写っている。
怖くなった。
その人から『強くて怖いオーラ』がする。
上半身の方は、シャドウがかっている為、姿は見れなかったが、多分細身の男の人だった。
暫くすると、誰かに手首を掴まれた。
その人の手首には、金色の手錠のような腕輪をしていた。
振り返ると、その怖い人だった。
「──────捕まえたぞ……。」
それだけを言って、その人は目を金色に光らせた。
それだけでゾクッとして、身体が震えた。
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「いやぁ!!!」
僕は、叫んだのと同時に目が覚めた。
一応よく、上半身を起こした。
服が汗でベッタリと肌にくっついている。
息切れが凄かった。
まるで、本当に走ったんじゃないか、と問いたくなるほどの苦しさだった。
怖すぎる夢で、僕は泣き出してしまった。
夢の中の人は誰だったのだろうか。
(とてもこわかった……。)
泣きやもうと、頑張って泣かずに居ようとしたが、それでも涙がポロポロと零れる。
あの人は誰なんだろう。
ただ、思ったのは……。
『それが本当に起きるんじゃないか』と僕は予想した事だった。
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