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どうも、《モルノスクール》《アドベンチャー科》《クラス代表》です。
――じゃねえぇぇぇぇえ!!
なんでこうなってんの!?
「はっはっは、今日は楽しかったのじゃ」
「むぅ……」
学校が終わり、夕暮れの帰り道。
俺とルカは、明日のお弁当の具材を買いに市場へ向かっていた。
夜ご飯の時間も近いためか、市場は賑わっている。
人混みの中でも、なぜか俺たちだけが一歩ごとに目立つ。
「まぁそうむくれるでないのじゃ。クラスの代表なのじゃぞ? 名誉なのじゃ?」
「名誉じゃないよぉ……僕は目立つの苦手なの!」
「今この場で、みなの視線を釘付けにしてるお主が言うななのじゃ」
「それは……もう諦めたよ……」
――ここは、本当に“女って大変だな”って思うところだ。
正直、胸とかお尻とか、見られてるのわかる。
目線感じてキョロキョロしたら、大体誰かと目が合う。
これ、いちいち気にしてたらキリがない。
――だったら、開き直るしかない。
(見るなら見ろよ。俺は中身、男だからな。ざまぁ。)
そう思って、今日も堂々と歩いている。
「それに、ルカだって見られてるじゃん~」
「ワシは別に見られてもいいのじゃ。ワシが気にしなければそれでよい!のじゃ!」
キラーンッと、どこからともなく効果音が聞こえた気がした。
「はぁ……まぁ、明日の僕は明日の僕に任せよう……気を取り直して、食材買いにいこ!」
「のじゃ。肉がいいのじゃ!」
「いいね! えーっと、お肉屋さんお肉屋さん……」
市場をキョロキョロしながら歩いていると――
各店が、急に賑やかになりはじめた。
「はいよーっ!安いよ安いよ! 今入ったばかりの《オクトクラーケン》の睾丸!ぷりっぷりだよ!」
「ミクラル女子に大人気!復旧中のナルノ町から直送《タプオカ》だー!金髪と青髪の子には割引しちゃうよー!」
「パンはいかがー!? 今話題の《ラルク》産ハチミツをふんだんに使った『ラルクパン』!モルノスクールの制服着てたら安くしちゃうよー!」
「野菜も安いよ~!サラダ用にどう? 特にこの《メルキノコ》、金髪で胸が大きいモルノスクールの生徒には特別価格ー!」
「おらぁ!こっちはお肉屋だ!《カルムッゾセントリー》の新鮮肉が今なら――金髪の子、1g 50で売ったるぞー!」
「……あ、お肉屋さんあった」
「なのじゃ」
そんな呼び込みの嵐の中――
俺とルカは、トコトコと二人で肉屋に近づき、
ショーケースの中の肉をのぞきこんだ。
あれ? なんか……他のお店の人、泣いてない?
「くそおおおおぉ!!」
「ちきしょおおぉ!」
「……今日はもう、店閉めるか……」
…………なにこの空気。
「ねぇ、ルカ……」
「のじゃ……。まぁ、買いだめしてもいいのじゃ……」
ルカは、察したように苦笑いしながら許可をくれた。
言いたくない。
これだけは――絶対に、口にしたくない。
言った瞬間に「お前、何様だよ」とツッコまれてもおかしくない。
軽蔑されてもしょうがない。けど、言うよ?言わせて?
……みんな、俺を狙ってなかった???
うん、き、き、き、気のせいだよな。
例えそうだったとしても、俺はそういうことにしておくよ。
だって気づいたら恥ずかしいじゃん!死ぬほど恥ずかしいじゃん!!
女の身体でモテるって、これ――拷問だからな!?
しかも、男からだからな!? なにこの新しい地獄カテゴリ!!!
俺は男だぞ!!!
二回目の気を取り直して……えーっと。
「すいません、聞いてもいいですか?」
「あいあい!なんだい、お嬢さん?」
「その、お肉の特徴ってどれがどういうのかって……まだミクラルに来たばかりなので」
「おぉ、あんた他国の人かい! そうだな、何か希望あるかい?」
「唐揚げを作りたいんですが……」
「――お前さん! あれを作れるのか!?」
「へ!?」
言った瞬間、店主が**ガタンッ!**とショーケースに身を乗り出してきた。
ちょ、近い!目が血走ってる!息荒い!音デカい!!
「は、はい……」
「そいつぁ今、アバレー王国の《うまかっちん》って店で大ブレーク中の料理だ!
作り方をみんな聞くが、毎回こう言うんだ!
“運命で出会った料理の師匠に教わった。教えれねぇ。気になるなら、食って見つけろ”――ってな!!まさかお嬢ちゃんが!!!!」
「ち、違います! 人違いです!!」
「……そ、そうか……」
ガクリ、と肩を落として店主は元の位置へ戻った。
ふぅ……こ、怖かった……
何だったんだ今の唐揚げ警察。こっちの目が血走りそうだったわ。
てか――
唐揚げって、普通の唐揚げ……だよね!?
え? まさか……この世界、唐揚げってないの!?
「……まぁでも、あいつの言ってることは確かに正しいな」
「答えを全部知るより、自分で探すのが料理だ。……なぁ、お嬢さん。
お前さんが“唐揚げ”の作り方を知ってるってんなら、ヒントを一つくれ。
その代わり――その料理に使う肉、タダでいい。どんな肉がいい?」
おっと!
これは思ってもみなかった幸運! ラッキー!!
「えーっと、唐揚げかぁ……鳥のモモ肉とか良いんですが……」
うっ……!
――一瞬、頭に浮かんだ。あの時のヒロスケの姿が。
いかんいかん、今はもう過去のことだ。
命はいただく。ちゃんと、感謝して。
「ほう? グリードの《ベルドリ》とかか?」
「…………」
「の、のじゃ!? な、なんで泣いておるのじゃ!?」
「おい……嬢ちゃん、大丈夫か……?」
あれ……?
おかしいな……泣くほどじゃ、なかったはずなのに。
俺はそっと後ろを向いて、手で涙をぬぐって、深呼吸をひとつ。
「……特別、柔らかいお肉が……美味しいかもです!」
「そ、そうか? 大丈夫か、無理するなよ。
んじゃ――柔らかさなら、さっきも言った《カルムッゾセントリー》が一番だな」
「じゃあ、それをください」
「どれくらい欲しい?」
「えーっと――」
「そこに出てる8割もらうのじゃ」
「えええええええ!?」
「おうよ!」
「えええええええええ!?」
「なにをそんなに驚いておるのじゃ?」
「え、えと! そんなに食べられるの!? あと、それタダでもらっていいんですか!?」
「ワシはまだ足りないくらいなのじゃ」
そ、育ち盛りだねぇ……
「いいさ、サービスだ。
ただであげるかわりに、“最高のヒント”をもらったからな。
《唐揚げ》……あれは、本当に伝説になるぞ」
唐揚げ、ヤバい。
唐揚げ効果、絶大すぎる。
「じゃ、じゃあ、いただきますっ!」
そのまま、ルカが取り出した転送魔皮紙に、大量の肉を放り込んでいく。
転送完了。
「さて――他の食材も、買いだめしとこっか?」
その一言が、またしても市場に火をつけた。
「いらっしゃい!野菜どうだー!金髪青髪コンビ割やってるよー!」
「米ならこっちー!アオイ印に間違いなし!」
――市場、完全に沸騰した。
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そして――
アオイたちを、なおも監視しながら悩む者たちがいた。
「……わからないな」
「アオイの行動が、さね? それとも――『女神』の行動が、さね?」
一人は白い神父服をだるそうに羽織り、【千里眼】の魔法を使って空中に映像を映している男――ルコサ。
もう一人は、黒髪を腰まで伸ばし、ミクラルではやや露出が多すぎる服を着た女――ルダ。
胸は並だが、全身が“誘惑”で構成されたような立ち居振る舞いだ。
交代の時間。ふたりは監視役を引き継いでいた。
「『女神』の影響、だろうね。アオイちゃん本人の行動は至って普通の人間だ。
少なくとも、君みたいに毎晩男を漁る変態じゃない」